田舎暮らしを実行する前に「お試し住宅」で実体験

[2015/9/25 14:02]

「いきなり移住」の前にお試しを

定年後の夢として「田舎暮らし」を挙げる方はたくさんいらっしゃいます。

人の多い都会から、自然の多い田舎へと移住し、のんびりと暮らしたいという夢をお持ちの場合が多いようです。

しかし、田舎暮らしは、都会暮らしとは、異なった苦労もあります。

移住や就農を考える前に、まず、どんなところか試してみようと思っても、地方では借家自体が少なく、短期で住める住居はさらに少ない状態です。

現在、多くの地方自治体が、都会からの移住に力を入れています。その施策の一つとして、空き家になった家を借り上げて、県外の希望者に短期間貸し出す「お試し住宅」を準備する例が増えてきました。

自治体側としても、移住希望者の定着率を上げるために、夢と現実の違いをきちんと認識した上での移住してくれることが望ましいのです。いきなり移住して、勝手に落胆されては地元も困ってしまうのです。

まずは、1泊2日から90日程度「お試し住宅」に居住してもらい、その地域の実情を体験してもらい、地域の人と交流した上で冷静に判断してほしいわけです。

また、移住希望者としても、田舎暮らしの実態を把握するためには、実際に居住してみることが一番です。特に、近所づきあいの少ない都会とは異なる、その地域ならではの人付き合いを体験できることは貴重な機会でしょう。

タイプの異なる3つのお試し住宅

では、「お試し住宅」とはどんなものか、実例を見てみましょう。

今回は、鳥取県倉吉市の「お試し住宅」を取り上げています。

倉吉市の「お試し住宅」の特徴は、里山に囲まれた農山村地帯と、商家の街並みが残る市街地、炊ができる湯治宿の3箇所に用意されていることです。

移住希望者の生活スタイルに合わせて、農山地、市街地、温泉地の3つから選択できるのが特徴です。

お試し住宅の位置づけは、「移住する前に倉吉市での暮らしを安価で一定の期間体験していただく施設として整備するもので、風土や気候を体感したり地元の方と交流したり、農業体験や職さがし、住宅探しの拠点としてご利用できます」としています。

農村地帯は「就農」と「移住」をサポート

農村地帯にある「長谷お試し住宅」は、「鳥取県倉吉市への移住をご希望の方」が対象で、地域ぐるみで「就農」と「移住」をサポートしてくれるものです。

滞在プランとして、「就農を考えているけど、農業経験がない」「本格的に就農を目指したい」「地方での暮らしに興味がある。倉吉市がどんなところか体験したい」が挙げられています。

お試し住宅は、木造瓦葺2階建ての一軒家で、間取りは5DK。1泊から最長1年間滞在できます。家電として、冷凍冷蔵庫、洗濯機、電子レンジ、掃除機、電気炊飯器、テレビ、調理器具、食器、インターネットなどが備え付けられています。

料金は、4泊5日までは4,500円/泊ですが、1カ月以上は40,000円/月と安くなります。電気代などの光熱費は実費が徴収されます。

立地やサポートの体制も、本格的に移住と就農を考えている人を想定しています。応募する側も、ある程度の覚悟が必要でしょう。

市街地はゲストハウス・シェアハウス型

市街地にある「古民家 大鳥屋」は、築約120年の商家を改築したもので、ドミトリー(相部屋)中心のシェアハウス型です。

ドミトリーは男女別で、バス・トイレ・台所が共有です。料金は1泊3,000円からで、1カ月以降は要相談となっています。定住を目指す農村部の「長谷お試し住宅」に比べると、短期間で土地を体験することに重点が置かれています。

イベントも、「自分史講座」「ワークショプ」など、人との出合いを図る形式のものが中心です。ドミトリーやイベントを通じて、人と出会いに行くというタイプのお試し住宅です。

自炊ができる湯治宿

3つ目は、異色で温泉宿をそのままお試し住宅としているものです。

「関金温泉 湯楽里」というこの宿は、インターネット予約もできる普通の温泉宿です。部屋は12畳から、キッチンとトイレが付いた2LDKまで5種類用意されています。

素泊まりが基本で、朝食夕食は予約して置かなければ用意されません。共同キッチンか、部屋に付いているキッチンで自炊することになります。

宿泊費は、1泊約4,000円から。1部屋を何人で使うかで変わります。

これのどこが「お試し住宅」なのかと言うと、立地でしょう。関金温泉は、鳥取県のほぼ中央部の山間にあり、倉吉市からバスで40分、もよりの鳥取空港からタクシーで80分、岡山からの高速バスで約2時間30分かかります。

関金町自体は2005年に倉吉市に編入された時点で、約4千人の人口があった町です。そこそこの市街地がありますが、湯楽里は市街地の外れにある丘の上に立地していて、買い物にも自動車が必要です。

つまり、自動車を所有せず、JRや地下鉄で移動して暮らしている都会人にとって、“距離”という田舎暮らしの不便さを体験するのに適した施設なのです。本格的な一軒家を借りる前に、少し気軽に田舎らしさを確認するのに向いた施設といえるでしょう。

その土地へ行くことから始めよう

田舎暮らしを希望している方の中には、その土地を、理想化してしまっていることがあります。しかし、田舎は、自分が育った頃の自分の故郷の代用ではありません。もう帰れない幻の土地ではなく、そこで生活している人がいる現実の土地なのです。

今回紹介したような「お試し住宅」は、各県で用意されています。まず、その宿がドミトリーであれ、温泉宿であっても、その土地に赴いて、風土や住宅を眺め、土地の人とあいさつを交わすことから始めましょう。

短期間でも滞在することで、その土地の良い点と悪い点が見えてくるでしょう。その上で、本格的な移住を検討すれば良いと思います。

[シニアガイド編集部]