個人事業主の節税と退職金準備に使える「小規模企業共済」

[2015/10/13 00:00]

個人事業主も含む経営者のための退職金制度

「小規模企業共済」という企業のための積立制度があります。独立行政法人 中小企業基盤整備機構(中小機構)というお固いところが運営していることもあって、フリーランス(個人事業主)には、縁のない制度のように見えます。

しかし、中小企業とはサービス業であれば5人以下の企業を指します。自分一人や配偶者と共同経営している個人事業主も、立派な中小企業なのです。ただし、専業である必要があり、サラリーマンの兼業は対象になりません。

「小規模企業共済」は、簡単に言うと、中小企業の経営者が退職後の生活のために退職金を積み立てるシステムです。

わざわざ個人事業主が、この制度を使うのは、それだけのメリットがあるからです。

  1. 掛金が全額「小規模企業共済等掛金控除」の対象になる
  2. 掛金は月額1,000円~7万円の範囲内で、500円単位で決められ、変更もできる
  3. 掛金は月払い、半年払い、年払いが可能
  4. 65歳以上になって共済金を受け取る場合は「退職所得扱い」になり、税金面で優遇される
  5. 事業の廃業時、退職時に一括して共済金が受け取れる
  6. どうしても必要な場合は、中途解約できる
  7. 貸付制度がセットになっており、上限1,000万円まで事業資金の貸付が受けられる

説明がないと分かりにくいメリットもあるので、少しずつ紹介しましょう。

積み立て時は全額無税

「小規模企業共済」は、毎月掛金を支払い、退職時に一括で共済金を受け取るのが基本です。つまり、老後のための退職金を積み立てておくシステムです。

一般的な積立預金や年金保険よりも有利なのは、掛金に税金がかからないことです。「小規模企業共済」の掛金は「小規模企業共済等掛金控除」という専用の枠があり、確定申告すれば全額が控除されます。

しかも、月額の掛金は最大7万円まで変更でき、年払いもできます。フリーランスの方はピンとくると思いますが、たとえば「今年は資金面で余裕があるなぁ」と思ったら、掛金を月7万円に上げて、来年分を年払いしてしまいます。すると、7×12=84万円が控除できます。つまり、その年の税金を計算する基本となる課税所得が84万円下がりますから、それだけ税金が安くるわけです。

中小企業基盤整備機構の試算では、課税所得200万円で月額7万円の掛金なら、所得税と住民税を合わせて129,400円の節税になります。同じ条件で課税所得が400万円なら、節税額は241,300円に達します。

なお、共済金の受け取り時も、65歳以上で一括受け取りを選択すれば、「退職所得控除」の対象となります。20年勤務していれば800万円という大きな控除額が使えますから、無税になる場合が多いでしょう。

年齢を問わず退職時に受け取れる

「小規模企業共済」は、年金制度ではなく、退職金の制度なのが特徴です。つまり、共済金を受け取るの年齢による縛りがありません。その時の年齢にかかわらず、役員を退職したり、事業を廃業したときに共済金が受け取れます。

フリーランスによくある、「個人事業を廃業してサラリーマンに転職する」場合も対象です。

減額や解約ができる

自分の経済状況が悪い時には、「小規模企業共済」の掛金を減額することができます。

さらに、どうしても資金繰りがつかず、掛金が払えない場合は解約もできます。その場合でも、掛金合計額の80%~120%が受け取れます。納付期間が20年以下の場合は、掛金の合計額よりも少なくなってしまいますが、イザというときの資金として当てにできます。

また、現金が必要な用途が事業資金である場合は貸付制度が利用できます。上限1,000万円まで貸付が受けられます。利率は1.5%で、返済期間は最長60カ月です。解約に至る前に、貸付を利用する方が良い場合もあるでしょう。

Webで書類請求し、金融機関で手続き

「小規模企業共済」の加入に必要な書類は、Web上のフォームで申し込むと送付してくれます。

申し込み手続きは、中小機構に直接ではなく、窓口となる金融機関で行ないます。自分の口座がある金融機関で手続きすれば良いでしょう。

確定申告で必要となる「掛金払込証明書」は、9月までに加入すると11月に、10月から12月に加入すると翌年2月上旬に発送されます。12月に加入しても、その年の分の確定申告に間に合います。

共同経営者であれば配偶者も対象にできる

「小規模企業共済」は、個人事業主1人につき2人まで共同経営者として加入の対象となります。つまり、業務に深く関わっている配偶者や子も加入できるわけです。

共同経営者の資格は、「事業の重要な業務執行の決定に関与していること、または、事業に必要な資金を負担していること」と「業務執行に対する報酬を受けていること」です。

共同経営者の登録については、専用の書類が必要ですので、申込時に確認してください。

手持ち資金に余裕があるときに使おう

「小規模企業共済」は、退職金の準備手段として個人事業主にもメリットの多い制度です。とくに、全額が控除できるという税制面でのメリットは、一般の積立預金にくらべて有利な点です。

年金制度ではなく退職金制度なので、年齢に関わらず廃業時に共済金が受け取れるのがメリットです。どうしてもという場合は解約もできますから、制度面の不安が出ても対応できます。状況の変化に応じて、共済金の払い戻しができるフレキシブルさが魅力です。

とりあえず、手持ち資金に余裕があるときの用途として検討しましょう。制度や運営団体の名前が固くて、敷居が高く感じる制度ですが、個人事業主用の説明も充実していますから、まずWebでQ&Aを見てください。

[シニアガイド編集部]