地方移住希望者は知っておきたい「日本版CCRC」こと「生涯活躍のまち」構想

[2015/11/12 02:50]

「日本版CCRC」構想が具体化

政府の「まち・ひと・しごと創生本部」が、昨年から「日本版CCRC」と言う、シニア向けコミュニティの構想に取り組んでいます。

この夏には、構想の正式名称が「生涯活躍のまち」、愛称が「プラチナ・コミュニティ」に決まり、年内には正式に動き始めます。

公開された資料類を読みときながら、具体的に何が始まろうとしているのかまとめてみます。

米国ではたくさんの実例

日本版CCRCのCCRCは、米国で主に使われている用語で、「Continuing Care Retirement Community」の略です。

直訳すると「継続介護付き退職者向けコミュニティ」という感じでしょうか。地方に複数の施設が集まったコミュニティを作り、退職者が暮らします。

コミュニティは居住者のレベルに合わせて、「健常者」「介護度低」「介護度高」の3段階が用意されています。加齢によって介護度が上昇しても、ずっと同じコミュニティに住み続けられます。

米国では多数の実例があり、数千人単位の大きなものもあります。

早めに地方に移住し、コミュニティに参加

「生涯活躍のまち」は、これを日本に導入して、地方への移住に結びつけようと言う構想です。

これにより、大都市では増加する高齢者の介護/医療問題が緩和され、地方では新しい働き場所や人口増加が見込めるとしています。

参考にした事例としては、栃木県の「ゆいま~る那須」、千葉県の「ユーカリが丘」、石川県の「シェア金沢」などの名前が上がっています。「ゆいま~る那須」と「シェア金沢」は地方移住コミュニティの成功例として、よく名前が挙がる施設です。
一方、ユーカリが丘は高齢者施設ではなく、1つの街としてのコミュニティを作り上げ、維持し続けている点に注目されており、「生涯活躍のまち」に影響を与えています。

日本版CCRCの基本構想 出典:生涯活躍のまち会議資料

また、会議には、厚生労働省と国土交通省と文部科学省が参加しています。

ざっくり言うと、厚労省は介護/医療、国交省は移住者が手放す中古住宅市場と新たに建設されるコミュニティ、文科省はコミュニティに隣接して生涯教育を担当する教育機関について意見を出しています。

いろいろな話が進んでいますが、基本的には政府が補助金を出し、地方自治体が後押しする形で、受け皿となる団体がコミュニティを運営していくイメージです。そこに高齢者を支える医療、移住を可能にする住み替えのシステム、生涯教育を見る大学などの教育機関が参加します。

「生涯活躍のまち」と既存施設の違い

従来から、都会を避けて、地方に高齢者施設を建設する例はありました。

それらと「生涯活躍のまち」との違いは、身体が健康な早期に移住し、住民として地元コミュニティに溶け込み、仕事や生涯教育を通じて地元経済の支え手として活動することが求められています。

それに伴い、建設される施設も開放性の高い地元と交流しやすい形が想定されています。

立地も、土地が安い山間部ではなく、街の中心街に近い「まちなか」に住むことが想定されています。

従来の高齢者施設との違い 出典:生涯活躍のまち会議資料

積極的な県は7つ

すでに202の地方自治体が、「生涯活躍のまち」を推進する意向を表明しています。とくに積極的な75の団体は、この構想を地方創生の中心戦略に据えています。

面白いのは、地域によって熱意に差があることです。

たとえば、秋田県、山形県、鳥取県、山口県、徳島県、高知県、長崎県の7県は、県レベルで参加しています。市区町村単位ではなく、県全体で取り組んでいこうという意気込みです。

一方、岐阜県、三重県、滋賀県、佐賀県の4県は、県はおろか、市区町村レベルでも名前が上がっていません。とりあえず、構想が具体化するまで様子見の状態です。

これのどちらが正しい態度なのかは、今のところわかりません。ただし、「生涯活躍のまち」に絡んだ最初の交付金は、この10月にも交付されます。とりえず手を挙げた自治体は、思ったよりも早く報われる可能性があります。

「生涯活躍のまち」への不安

「生涯活躍のまち」は、高齢者を中心としたコミュニティを地方に作り、都会からの移住を促すというのが基本構想です。

これは、昭和の行動成長期に作られた団地やニュータウンの成り立ちに似たところがあります。そして、それらが残した課題は、「生涯活躍のまち」の課題でもあります。

  • 首都圏からの移住者を確保できるのか
  • 新しく作られたコミュニティが、地元のコミュニティに溶け込めるのか
  • 20年~30年を経過した時に高齢化が進んだコミュニティが維持できているか

また、本来のCCRCは、死ぬまでそこに住み続けられるという点が特徴となってます。

しかし、日本の高齢施設では、居住者の介護度が進むと、そこに住み続けることが難しくなり、別の施設へ住み替えを余儀なくされます。

その点を、本来の構想通り、介護度に関わらずシームレスに居住者をカバーする仕組みができるかということも、1つの課題でしょう。

すでに、東京駅八重洲口に「生涯活躍のまち移住促進センター」がオープンするなど、動きも出てきました。来年度は、もう少し目に見える形になってくるでしょう。

定年退職後に、移住を考えていらっしゃる方は、「日本版CCRC」「生涯活躍のまち」「プラチナ・コミュニティ」などのキーワードを覚えておきましょう。

[シニアガイド編集部]