年間20万人以上が運転免許証を自主返納している理由
【お知らせ】この記事は2016年10月13日に内容を更新しました。
高齢者の交通事故比率が上昇
日本の交通事故死者は減り続けていますが、65歳以上の高齢者の比率は高くなっています。
高齢者の交通事故死者数も減っているのですが、他の年代に比べて減り方が緩やかなため、すべての交通事故死者に占める割合が高くなっています。
また、高齢者による高速道路における逆走事故も増えており、高齢者による自動車の運転の危険性が注目されています。
このため、運転免許の更新時には、高齢者専用の講習や検査が行なわれるようになりました。
さらに、運転自体をやめる「運転免許証の自主返納」が、安全対策として進められています。自主返納は、ものすごい勢いで増えており、2014年だけで20万人を超えました。自主返納が、急に増えた理由を見ていきましょう。
急激に増えている自主返納
運転免許の自主返納は、運転免許証を持っている人が、自分の意思で運転免許証を警察に返却することを言います。
制度自体は1998年からあるのですが、正式には「申請による運転免許の取消し」と言い、その名前で呼ばれていました。これでは、まるで交通違反でもして免許を取り上げられたような印象があり、普及しませんでした。
自主返納数が増えたのは、次の3つの理由です。
- 「自主返納」という呼び方に変わったこと
- 運転免許証に代わる身分証明となる「運転経歴証明書」の発行
- 自主返納者への、公共交通機関などの優待
これにより、自主返納者は急激に増え、2012年には10万人を突破し、2014年には20万人を超えました。たった2年で2倍になりました。
ちなみに、2015年に自主返納した285,514人のうち、94.6%が65歳以上の高齢者です。
自主返納が増加した理由として挙げた「運転経歴証明書」は、なじみのない言葉かもしれません。これは、運転免許証に代わる公的な身分証明書です。外観も運転免許証そっくりです。
運転経歴証明書は、2002年に登場した当初は、6カ月しか有効期限がなく、あまり普及しませんでした。しかし、2012年に有効期限が無期限となったため、発行数が何倍にもなりました。2014年には、自主返納した20万人のうち、16万人が「運転経歴証明書」の交付を受けています。
つまり、運転免許証を持ち続けている理由の1つは、身分証明書として使えることだったのです。
自主返納者への優待策
自主返納が増えた、もう1つの理由は「自主返納者の優待」です。
さきほど紹介した「運転経歴証明書」の発行には、1,000円の手数料がかかりますが、地方自治体によっては無償になっています。
東京都のように「高齢者運転免許自主返納サポート協議会」という団体が結成され、電子マネー「WAON」カードの無料進呈、三越伊勢丹による自宅への無料配送、レストランの飲食割引などが用意されているところもあります。
自主返納者が、自分の代わりに運転してもらうために、新しく免許を取る人を紹介すると、現金で紹介料をくれる自動車学校もたくさんあります。
また、バスやタクシーなどの公共交通機関による優待も用意されており、共通バスカードの贈呈や、運転経歴証明書の提示によるタクシー料金の割引などが用意されている県もあります。
関東地方で言えば、東京都、千葉県、神奈川県、群馬県などは、ホームページでも「自主返納」という言葉を使い、優待制度を紹介するなど力が入っています。
地域による働きかけや事情の差が大きい
日本では、地域によっては公共交通機関が少なく、自動車の運転ができないと日常生活に差し支える場合もあります。
しかし、高齢者による交通事故を減らすための対策として、今後も警察や都道府県による働きかけは強まると予想されます。運転免許証の自主返納は、これからも増え続けるでしょう。
周辺事情を差し置いても、高齢の家族が運転を続けているのは心配なものです。もし、そういう家族がいるのであれば、「運転経歴証明書」のことなどを例に出しながら、自主返納という制度があることをお話ししてみると良いでしょう。