医療費の負担がゼロになる地方自治体の医療費助成制度
自己負担分がある日本の健保制度
国保や社保などの「公的医療保険」に加入していると、病院にかかった際の医療費の大半は、公的医療保険が負担してくれます。
治療にかかった医療費の一定の割合は自己負担分として支払います。国保でも社保でも、小学校から69歳までの自己負担分は3割で共通です。
地方自治体による医療費助成
しかし、一定の割合であっても、自己負担分が重く、医療を受けることができないこともあります。そのため、地方自治体によっては、福祉向上のため、独自の医療費助成制度を用意しています。
ここでは都道府県レベルの助成制度を、東京都を例にして見てみましょう。主な医療費助成は次の4つです。
- 乳幼児医療費助成制度(マル乳)
- 義務教育就学児医療費の助成(マル子)
- ひとり親家庭等医療費助成制度(マル親)
- 心身障害者医療費助成制度(マル障)
例えば、「マル乳」と「マル子」により、東京都に住所のある子供は、生まれてから15歳までの間、医療費の自己負担分がゼロとなります。
この場合、差額ベッド代などは自己負担となりますが、基本的に無償で医療が受けられます。
市区町村レベルでも制度がある
さらに、市区町村のレベルで、手厚い医療費助成制度を用意している場合があります。
例えば、「東京都千代田区」の場合、「高校生等医療費助成制度」が用意されています。
この制度では「15歳から18歳までの子供」の自己負担分が助成されます。制度の名称に「高校生」と入っていますが、高校に通っていなくても対象となります。
東京都の制度と併せると、生まれてから18歳になるまでの医療費負担が無償となります。
また、あらかじめ「医療証」をもらい、病院の窓口で見せると、千代田区内の医療機関では自己負担分を現金で払う必要もありません。立て替え払いが不要となるので、さらに受診しやすくなります。
移住促進のために医療費助成を行なう自治体も
東京都以外では、移住や定住の促進策として、医療費助成を行なっている自治体があります。
有名な例では、北海道南富良野町には「すこやか子ども医療費」という制度が用意されており、0歳から22歳までの医療費の自己負担分がゼロになります。
対象となっているのは、「乳幼児、児童生徒(小中高校生)、学生(大学及び専門学校生)」なので、15歳以上は高校生または大学生でなければなりません。子どもが高校及び大学進学により町外に転出した場合も対象となります。
高齢者の医療費助成は縮小・廃止の方向
ここまで、地方自治体による医療費助成制度を見てきましたが、未成年者を対象とする「子育て支援」としての施策が多くなっています。
実は、以前は各自治体によって「老人医療費助成制度」が用意されていましたが、各自治体とも廃止の方向にあります。
例えば、東京都では「マル福」という略称で、「老人医療費助成制度」がありましたが、2007年に廃止されました。
東京都以外でも、甲府市や船橋市のように廃止する自治体が増えています。
また、制度が残っている場合でも、京都府のように3割負担を2割負担にする補助に留めているところもあります。
これらの背景には、「後期高齢者医療制度」の創設をはじめとする、65歳以上の高齢者医療制度の枠組みの変化があります。
したがって、「老人医療費助成制度」については、現時点で制度があっても、今後変更される可能性が高いと言えるでしょう。
現状を確認するためには、自分がお住まいの都道府県や市区町村のホームページで、「老人医療費助成制度」や「高齢者 医療助成」「マル福」などのキーワードで検索してみてください。
自己負担分をゼロにする制度の危うさ
実は、日本では70歳以上の高齢者の医療費が全額無料だった時代があります。
1972年に「老人福祉法」の改正が行なわれ、70歳以上の老人保健費の公費負担が定められました。つまり、70歳以上の人の医療費が無償化されたのです。
しかし、無料であることによって、医療を受けることに抑制がなくなり、医療費が増大しました。
結局、1983年に「老人保健法」が施行され、老人医療費は有償に戻りました。
国が推進した制度にも関わらず、高齢者医療費が無償だった期間は約10年でした。医療費の無償化は、それを負担する公共機関にとって、それほど大きな負担なのです。
地方自治体による医療費の助成についても、予算面での負担が大きく、地方議会などで廃止を含む再検討が討議されている例が出てきています。
利用する側も、無償化の制度がずっと続くことを前提にするのではなく、将来的には一部負担の復活や廃止があり得ることを頭に入れておきましょう。