「年俸制は毎月均等の金額で受け取った方が得」は本当か!?
年俸制は均等払いの方が得?
管理職を中心に増えている「年俸制(ねんぽうせい)」ですが、これについて「毎月均等の金額で受け取った方が得をする」という噂というか伝説があります。
この記事では、そういう噂ができた理由を推理し、実際に、どう受け取るのが得なのか検証してみましょう。
年俸の受け取り方には2つある
「年棒制」というと、年に1度だけ年俸の総額が支払われる制度のようですが、実際には年俸を分割して月に1回支払いが行なわれます。これは、労働基準法に「毎月1回以上の支払いの原則」という決まりがあるからです。
年俸をどう分割するかは、会社によって異なりますが、だいたい次の2つの方法があります。
- 均等払い
- 年俸の総額を均等に12分割し、毎月支給する
- ボーナス払い
- 年俸の総額を18分割し、特定の2つの月(6月と12月など)に分割分の3つをボーナスとして支給する。つまり、年に2回、3カ月分のボーナスが出るのと同じになる
ボーナス払いがある理由は、住宅ローンなどでボーナス月だけ支払い金額が大きくなる人が多いからです。均等払いだけにすると、なんとなくお金を使ってしまい、ボーナス払いの支払いができなくなる人がいるのです。
また、ボーナス払いは18分割ではなく、16分割や14分割にする例もあります。それぞれボーナスが2カ月分と1カ月分になります。
年俸が900万円だと、貰い方で13万円以上も差がつく
では、実際に支払い方法によって、手取りの金額が変わるかどうか確かめてみましょう。
例えば、年俸を500万円として計算すると、均等払いとボーナス払いにしたときに、手取りの金額には大きな差は出ません。
しかし、年俸が750万円を超えると、「均等払い」の方が手取りの金額が大きくなってきます。
例えば、年俸を「900万円」として計算してみましょう。計算には、協会けんぽの今年度の東京都の計算表を使います。
「均等払い」の場合、毎月の給与は「75万円」になります。1年に払う保険料は「663,192円」です。
「ボーナス払い」の場合、毎月の給与は「50万円」、年2回のボーナスは「150万円」になります。1年に払う保険料は「802,260円」です。
つまり、年俸の貰い方を、ボーナス払いではなく、均等払いにすると年間で「139,068円」保険料が安くなります。その分、手取りが増えるわけです。
たぶん、これが「毎月均等の金額で受け取った方が得をする」という噂の根拠なのではないかと思われます。
標準報酬月額の上限が、保険料の上限になる
なぜ、こういう差がでるのかというと、保険料の計算の仕方に秘密があります。
「健康保険料」と「厚生年金保険料」については、給与の総額そのままの数字ではなく、「標準報酬月額」に変換してから計算します。
例えば、月収が「29万円以上31万円未満」であれば、標準報酬月額は「30万円」となります。これに、規定の保険料率をかけて、保険料を計算するわけです。
ところが面白いことに、月収から標準報酬に換算する場合に上限があります。
たとえば、月収が200万円のときでも、厚生年金保険料を計算するときは「62万円」、健康保険料を計算する時は「139万円」として計算します。
ちなみに、ボーナスは千円未満を切り捨てた金額を「標準賞与額」として計算します。こちらは、1カ月当たり150万円が上限となります。
支払う保険料が少ないので年金は減ってしまう
しかし、この「標準報酬月額の上限を利用して保険料を下げるテクニック」には欠点もあります。
厚生年金の金額の一部は「報酬比例部分」と言って、現役時代の報酬総額に比例しています。
したがって、1年間の報酬総額が少ないということは、将来貰える年金額も少ないということです。
実際にどれだけ年金が減るかという計算は、厚生年金の場合難しいのですが、ラフな試算をしてみましょう。そうすると、40歳から60歳までの20年間ずっと年俸が900万円だったとして、年間の年金額に20万円ぐらいの差が出ます。
つまり、「均等割」にすると年に13万9千円保険料が安くなるが、将来の年金が年に20万円ぐらい安くなる可能性があるわけです。どちらかが絶対にお得というわけではありません。
なかなか、おいしい話というのはないものです。
こうなると、いま手取りを増やすか、将来の年金を増やすかという選択になるので、本人の考え方しだいで選ぶしかありません。
均等払いにするか、ボーナス払いにするかは、どっちが得かではなく、どっちが自分の考え方や都合に合っているかで決めましょう。
実は会社にとってはメリットがある
ただし、「標準報酬月額の上限を利用して保険料を下げるテクニック」には1つだけ確実なメリットがあります。しかし、それは会社にとってのメリットです。
厚生年金保険料は、従業員と会社が折半して支払っています。
つまり、従業員の厚生年金保険料が下がれば、会社が支払う厚生年金保険料も下がります。
会社の立場から考えると、高額の年俸を支払っている従業員については、均等割にして毎月の給与額を増やした方が得です。そうして、給与額を標準報酬月額の上限以上にすると、厚生年金保険料が下がって人件費の削減になります。
たぶん、年俸制が増えている理由の1つはこれでしょう。
まだ年俸制を導入していない会社の経営層の方は、一度検討してみる価値があります。