読書ガイド 古田雄介著「故人サイト 亡くなった人が残していったホームページ達」

[2016/3/14 03:19]

亡くなった人が残した痕跡

この本の副題は「亡くなった人が残していったホームページ達」です。

その名の通り、103人の故人がインターネット上に残したホームページ、ブログ、Twitter、動画などが紹介されています。

この本では、1つのホームページについて2ページ単位で紹介されています。

1つのホームページの解説の分量は1,400文字ほどあり、物足りない感じはありません。

筆者はホームページを読み込み、周辺の取材をすることで、その人の来歴や人柄を把握し、どういう意図と経緯で、そのホームページが残ったのかを教えてくれます。

筆者の目はすみずみまで行き届きます。例えば、本人が病気を隠している場合でも、ちょっとした記述からその病状を推測し、心の動きを読み取ります。

また、本人の死後にコメント欄などで、周囲の動きがあった場合は、その反応を伝えることで、本人の死がどのように受け止められていったかという様子も伝えられます。

死への向かい合い方による分類

この本は、6つの章で構成されています。

  • 突然停止したサイト
  • 死の予兆が隠れたサイト
  • 闘病を綴ったサイト
  • 辞世を残したサイト
  • 自ら死に向かったサイト
  • 引き継がれたサイト/追憶のサイト

「突然停止したサイト」から「自ら死に向かったサイト」までの5章は、自分の死を予測していない事故などで急に人生が断ち切られたサイトから始まり、自殺を選択して死に向っていくサイトという順番で並んでいます。

これは、事故による、死に後ろから襲いかかられたような亡くなり方から、死から顔をそむけられない闘病後の死、考えのすべてが死で覆い尽くされた自殺へと、死と向かい合う段階が深くなっていくことでもあります。

読者も、この順で読み進めることで、だんだんと「死」と正面から向かいあうことができます。

最後の1章「引き継がれたサイト/追憶のサイト」は、この流れから離れ、本人以外の誰かの意思でホームページが管理され続けている事例を紹介しています。

周囲の人が、どのような意図でホームページを残しているのかという事情を紹介することで、故人とその死が周囲にどう受け入れられたかということがわかります。

よく死ぬということは、よく生きるということだ

この本には、私が生前に交流があった方のサイトも2つ入っています。

この本の筆者による紹介は、基本的にホームページを残した故人に寄り添った立場からの紹介なので、故人とゆかりのある人間が読んでも不快感は感じませんでした。

むしろ、この本をきっかけにして、その人達のサイトへの訪問が増えることを期待できるような記述です。

「死」という思いテーマの本でありながら、読み通していても暗い気持ちにならなくてすむのは、筆者のこのような立ち位置によるものでしょう。

また、この筆者が死を扱うときは、それが自殺であっても、その死の詳細ではなく、そこに至る本人の「生」について書いていることも、気持ちが重くなりにくい理由でしょう。

この筆者は、死は単独であるものではなく、それまでの生がもたらした結果なのだということがよくわかっているのです。

インターネットで何かを語った人々への「紙碑」

その人の生前の業績や伝記を本にまとめたときに、「紙碑(しひ)」という言葉を使います。

記念碑や歌碑などの物理的な形によって故人の記憶を留めるのではなく、文章と紙によって故人の生涯を記念するという意味です。

死を迎えた本人のホームページ自体が、その人の「生」を表す証拠であるとすれば、この本は、それを筆者が拾い上げることによって「紙碑」として定着させたと言えるでしょう。

自分でホームページを持っている方に限らず、自分の人生の成果をインターネット上に残すことに意味を感じているすべての方に一読をお勧めします。

なお、内容の一部は筆者の連載「死後のインターネット」や「死とインターネット」を加筆修正したものです。しかし、本書に向けて書きおろしされた分量が多く、またまとめて読むことによって、筆者の意図がよくわかります。

  • 出版社:社会評論社
  • 本体価格:1,700円(税込1,836円)
[シニアガイド編集部]