離婚して年金分割をしても、妻の年金は月額「2万6千円」しか増えない
2007年に始まった年金分割制度の実績
2007年に厚生年金保険法が改正され、離婚時に夫の年金の一部を妻が受け取る制度ができました。
この制度を「離婚時の年金分割制度」と言います。
2008年には、「第第3号年金分割」も始まり、2008年4月1日以降の年金については、妻の届け出だけで、強制的に2分の1ずつ分割されます。
この年金分割制度を何人が利用していて、妻の年金がいくら増えているのか、2015年までの8年間の記録を基に調べてみました。
なお、記事中では、わかりやすいように、サラリーマンの夫と専業主婦の妻という夫婦を前提にして表記しています。ご了承ください。
年間2万7千人が利用している
離婚時の年金分割制度は、2015年の1年間で「2万7千人」が利用しています。
このうち、2万3千人は制度ができる以前の期間も含めた「離婚時の年金分割」で、残りは2008年以降のみを対象にした「第3号年金分割」です
制度の詳細については、記事末の解説をご覧ください。
グラフで示したように、年を追うごとに、利用者は増えています。
年金分割をすると月額「2万6千円」増える
実際に、妻の年金はどれぐらい増えているのでしょう。
2016年の実績を見てみましょう。
「離婚時の年金分割」では、妻の年金の月額は54,819円から81,647円へと、「26,828円」増えています。
一方、夫の月額は136,995円から111,329円へと、「25,666円」減っています。
過去数年分の記録を調べても、妻の増加分は2万数千円~3万円前後となっていますから、このぐらいが目安とみて良いでしょう。
「第3号年金分割」では3千円しか増えない
同じように、2016年の「第3号年金分割」の実績を見てみましょう。
妻の年金の月額は、30,721円から33,727円へと、「3,006円」増えています。
夫の月額は、113,919円から111,546円へと、「2,374円」減っています。
第3号分割は、2008年4月1日以降の婚姻期間が対象となるため、年金の月額への影響は、ごく限られたものとなることが分かります。
年金分割以外の財産分与を考えよう
年金分割の実績を見る限り、離婚時に年金の分割に合意しても、増える金額は毎月「2万6千円」に留まっています。
年額で15万円ほどになりますから、少ない金額ではありませんが、これだけで暮らせる金額でもありません。
離婚時には、「年金分割」だけに頼らず、他の手段による「財産分与」を考える必要があることが分かります。
付録:離婚時の年金分割制度
「離婚時の年金分割制度」では、厚生年金の保険料は、夫婦が共同して負担したものであるという認識に立っています。
つまり、サラリーマンと専業主婦の夫婦の場合、厚生年金の保険料を払っているのは、サラリーマン(2号被保険者)だけですが、その保険料は専業主婦(第3号被保険者)の分でもあるという判断です。
妻からの請求があれば、厚生年金保険の保険料納付記録(標準報酬)の一律2分の1が、主婦のものとなります。
間違えやすいのは、夫の年金の金額の2分の1が貰えるのではなく、夫の厚生年金の支払い記録の2分の1が貰えるわけです。
妻は、分割された分の保険料を支払ったとみなされ、その金額を基にして、新たに年金の金額が計算されます。
また、妻は厚生年金の受給資格が得られますから、障害年金を受け取る際も手厚い「障害厚生年金」が受け取れます。
なお、2008年4月以後の保険料については、妻が届け出を出すだけで、夫の意思に関わりなく自動的に分割されますが、それ以前の記録については、夫と妻の合意によって年金が分割されます。
分割の比率は、最大5割(半分ずつ)とされており、裁判に持ち込まれた場合でも、この割合で決着が付く場合が多いようです。