第4回:国内最大規模に発展した公益社“遺族サポート会”
「グリーフサポート」と「ライフサポート」が車の両輪

[2018/7/9 00:00]


(株)公益社は、葬祭関連事業を行なう東証一部上場企業である燦(さん)ホールディングス(株)の中核子会社の葬儀社です。

同社は、社会貢献事業の一環として、遺族を対象にグリーフケアを行なう遺族会「ひだまりの会」を2003年12月に設立。会員数は953名に達し(2018年4月末現在)、グリーフケアを行なう遺族会の中では国内最大規模に発展しています。

そこで、「ひだまりの会」設立時から現在まで、運営スタッフとして携わってこられた燦ホールディングス 経営企画部の廣江輝夫氏に、同会の発展要因を中心にお話をうかがいました。

廣江輝夫氏

葬儀社に幅広い遺族ケアの機能が求められる時代

まず、グリーフケアとは、どういうことでしょうか。

大切な人を失った人々への支援は、グリーフケアやグリーフサポート、遺族ケアなどと呼ばれています。これらの用語の定義は、まだ専門家の間でも定まっていませんが、一つの定義として「喪失から回復するための喪(悲哀)の過程を促進し、喪失により生じるさまざま問題を軽減するために行われる援助」と言われています。

そのグリーフケアを行なう「遺族会」を、葬儀社として設立したのは御社が2番目ですが、設立した背景や狙いについてお聞かせください。

葬儀は、元来、故人の人生に意味を与え、遺族の死別の悲しみを軽減し、地域社会のような共同体の支援を促進するなど、グリーフ(悲嘆)の過程に大きな影響を与える機能を担っています。

公益社が1932年に創業して以来、社員は「グリーフケア」という概念を知らなくとも、遺族の悲しみに寄り添ってきました。

しかし、現代社会が抱える深刻な問題として、超高齢社会の到来、世帯の小規模化、地域の相互扶助機能の低下などの影響により、家族や地域社会による遺族への悲しみのケアが機能しづらくなり、葬儀社に幅広い遺族ケアの機能が求められるようになりました。

葬儀社には、葬儀の事前相談から葬儀施行、そして葬儀後の供養、諸手続きまで、長期間にわたって遺族をサポートする役割があり、グリーフケアの提供者として最適な立場にあります。

それで、葬儀社としてグリーフケアに力を入れ始めたわけですね。

そうです。2003年12月に「ひだまりの会」を設立した直接のきっかけは、コールセンターの女性社員や葬儀会館の女性社員が遺族に対する傾聴を通して感じ取った「遺族ケアの必要性」という現場からの声です。

公益社のグリーフケアの取り組みは、その2年前の2001年12月に、エンバーミングセンターを開設したときから始まっていました。

すなわち、エンバーミングがトップダウンによる経営判断で開始され、遺族会がボトムアップによる経営判断により設立されたことにより、グリーフケアは、公益社の全社的な取り組みとなりました。

そして、グリーフケア重視の方針は、2009年に燦ホールディングスグループ「10年ビジョン」の策定にともない再定義された「経営理念」にも盛り込まれました。

その経営理念とは、「私たちは、大切な人との最期のお別れを尊厳あるかたちでお手伝いいたします。そして、それにとどまらず、人生のマイマスからプラスへのステップを支える最良のパートナーを目指します」というものです。

「月例会」「分科会」「臨時会」などを開催

「ひだまりの会」では、どのような活動をしているのでしょうか。

本会は、先行するホスピスや緩和ケアで活動するサポートグループやセルフケアグループをモデルとして、遺族ケアの専門家など外部の協力を得ながら、公益社の社員が中心となって活動を続けてきました。

活動内容としては、「月例会」「分科会」「臨時会」「会報誌の発行」があります。

「月例会」は、毎月第3土曜日、13時~15時30分に開催し、会員の「体験談」あるいは専門家による「講演会」、遺族が小グループに分かれての「分かち合い」、専門家や本会スタッフによる「癒しの音楽」の3部構成のプログラムで行なっています。

「分科会」は、健康、交流、学習などをテーマに会員有志が行なう活動です。

「臨時会」とは、日帰りバス旅行などです。

そして、会報誌「ひだまり」は、医師等の専門家への取材、会員の寄稿、活動報告などを掲載しています。

「ひだまりの会」の活動 出典:公益社

また、本会は、悲嘆という情緒面に焦点を当てた「グリーフサポート」、それに加えて、日常生活の課題に焦点を当てた「ライフサポート」、さらに、会員の社会貢献活動を支援する「ボランティアサポート」を加えるという形で発展してきました。

しかし、「ひだまりの会」設立当初から順調に運営できてきたわけではありません。

「ひだまりの会」の軌跡 出典:公益社

どういうことでしょうか。具体的にお聞かせいただけますか。

例えば、「月例会」の参加人数は、第1回目は36名であったのに対し、第3回目はその3分の1まで激減しました。

この原因は、本会スタッフが、遺族に対して接客業の“お客様”という姿勢で接し、“寄り添うという姿勢”が欠け、また、遺族の要望を十分に聞き取ることができず、その結果、遺族に違和感を与えてしまったからだと思います。

例を挙げれば、遺族には、クリスマスやお正月を祝う気持ちになれない人も多くいます。ですから、月例会がクリスマスの時期だからといって、安易な気持ちでクリスマスの音楽を演奏したりすると、遺族を傷つけてしまう場合もあるのです。

遺族会では、「傷ついている遺族をさらに傷つけない」という姿勢が大切です。

そこで遺族への対応を見直し、「月例会」の改善策として、初期の「分かち合い」だけから、悲嘆の情報を得ることができる「講演」、遺族が安心して語り合える「分かち合い」、遺族の高まった感情を癒す「音楽」というようにプログラムを充実させました。

のちに「臨床アロマセラピー」、「アートセラピー」、「音楽療法」などの支援プログラムも積極的に取り入れました。

そして、遺族が悲嘆からの回復がみられる本会設立9カ月を過ぎた頃からは、「分科会」や「日帰りバス旅行」を開始しました。

「ライフサポート」も開始されたわけですね。

そうです。「グリーフサポート」に「ライフサポート」を加えることにより、運営はしばらく順調でしたが、月例会の参加者が100名を超えたころから、また大きな問題に直面しました。

一つは、大勢の参加者が一同に会するための会場の問題。もう一つは、悲嘆のレベルが違う遺族の間に生じる、不調和の問題です。

それは、前向きになった遺族が悲嘆に引き戻されたり、悲嘆の強い遺族が前向きな言動に傷つくという遺族間の問題です。また、前向きになった遺族が必要とする生活支援をどのように提供するかも問題となりました。

これらの諸問題を解決するための重要な試みが、「ひだまりの会」会員の有志が本会運営に参加する「自治的運営方式」の導入でした。

この「自治的運営方式」を遺族会運営の中核として、会員の多様なニーズに応えるために会員有志の「分科会」を充実させました。また、会員の自主運営サロン「シャンティ・結」の開設を支援し、さらに、会員の悲嘆の度合いで月例会の会場を午前と午後に分けるなど、会員の選択肢を増やしました。

こうしたことにより会員の自立心や相互扶助の意識が高まり、NPO法人「遺族支え愛ネット」が誕生する契機となりました。

そして、NPO法人と本会との協働により、長期的な視点に基づく遺族支援を軌道に乗せることができました。

「分科会」で特に人気があるのは「わいわい食堂」

いまお聞きした「ひだまりの会」の活動の中で、特に注目できる活動は何でしょうか。

「分科会」だと思います。分科会は、遺族のニーズに応え、「シルバー元気塾」「傾聴ボランティア講座」「わいわい食堂」「人生の後始末相談会」「上方落語サロン」「男前研究会」などが行われてきました。

その中でも参加者が多く人気があったのは「わいわい食堂」です。この分科会は、「ひだまりの会」の設立当初にスタートした「男性のための料理教室」を発展させる形で、2007年1月に開始しました。

「わいわい食堂」は、女性会員が男性会員をサポートするかたちで、会話を楽しみながら調理と食事をする機会を提供するものです。会員の中から有志数名が世話役(店長、料理長、お世話係)を務め、世話役は献立づくりから食材の購入、調理の準備まで行います。

この分科会は、社会的交流の場となると同時に、男性会員の調理技術の習得や食生活と栄養管理の改善のよい機会となりました。

「わいわい食堂」の人気の要因を調べられたことはありますか。

2007年1月の発足から2008年8月の間に、「わいわい食道」に参加した75名を対象にアンケートを実施し、配偶者と死別した63名から回答を得た調査結果があります。

『分科会に参加して良かったこと』との質問に対しては、「いろいろな人と知り合いになることができた」との回答が最も多く67%でした。

一方で、「調理のコツを学ぶことができた」が21%、「自分の気持ちを聞いてもらえた」が19%の回答があり、社会的交流の実現に加え、死別後の生活面や情緒面に対するサポート機能も有しているという調査結果でした。

「ひだまりの会」の有益さ

「ひだまりの会」を15年間運営してきたわけですが、「ひだまりの会」の有効性はいかがでしょうか。

「ひだまりの会」会員にアンケート調査を実施したり、2006年から日本死の臨床研究会において、グリーフケアの研究者と共同で「葬儀社によるグリーフケアの試み」をテーマにポスター発表を行なってきました。

こうした調査研究によって、遺族会の有効性や可能性が確認できました。

会員に対するアンケート調査というのは、どのような内容でしょうか。

2003年12月~2011年7月に本会に参加した会員649名に対し、アンケート調査を2006年8月と2011年8月の2回実施しました。330名から回答が得られ、そのうち配偶者喪失者286名からの回答を分析対象としました。

『ひだまりの会への参加動機』は、上位から順に次の通りでした。

  • 「同じような体験をした人の話を聞きたかったから」61.2%
  • 「講演会を聞きたかったから」34.6%
  • 「専門家の助言を聞いてみたかったから」31.8%
  • 「今の気持ちを誰かに話したかったから」26.9%

このような機会を提供する場として、本会が期待されていることが分かりました。そして、このアンケート調査結果に基づき、「月例会」では、会員の体験談と専門家による死別についての講演会を隔月で実施しています。

『ひだまりの会への参加動機』としてはさらに、「色々な人と知り合いになりたかったから」が25.9%、「外に出かけたかったから」が18.9%あり、本会は死別悲嘆へのサポートだけでなく、その後の人生に向けての人的交流の場として期待している人もいることが分かりました。

また、『本会に参加して良かったと思うこと』との質問に対する回答は、次の通りでした。

  • 「同じ思いの人がいるということが分かった」63.3%
  • 「悲しみが和らいだ」40.6%
  • 「考え方が前向きになった」32.5%
  • 「気持ちが軽くなった」30.4%
  • 「自分の気持ちが整理できた」28.3%
  • 「立ち直りのヒントを得た」25.9%

これらの回答からは、死別の悲嘆についての知識がなく、不安を感じている状態から本会に初めて参加し、気持ちが整理された様子がうかがえます。

加えて、「何か新しいことをしてみようという気になった」が23.8%、「新しい友人ができた」が28.7%の回答があり、本会に継続的に参加することが悲嘆からの回復の契機となっている人たちもいることが分かりました。

「ひだまりの会」の有効性や有益性として、他にはいかがですか。

「ひだまりの会」では、グリーフケアの社内研修や外部研修を行なっているほか、グリーフケア人材養成機関の実習生を受け入れています。

グリーフケアは、書籍や講座で学ぶことができますが、援助者の養成には実践的で体験的な学習が必要です。

本会のような大手葬儀社が行なう遺族会では、多くの遺族が参加しますので、年齢、性別、故人との続柄などが異なるさまざまな遺族と接することができ、また、一人の遺族が辿る悲嘆のプロセスを学ぶことができます。

遺族のケアを最優先にする遺族会では、一度に多くの実習生を受け入れることはできませんが、逆に、少人数だからこそ、きめ細かな専門家の指導に基づく質の高いプログラムを提供できていると思います。

「ひだまりの会」では、グリーフケアに関して、こうした実践、研究、教育を行なっていることも、有益性として評価できると思います。

会に長年関わってきた廣江氏の「気づき」や「学び」

「ひだまりの会」に15年間携わってこられた廣江さんの、「遺族会」運営についての「気づき」や「学び」についてお聞かせいただけますか。

遺族会は、一般的に「グリーフサポート」が主目的だと思いますが、「ひだまりの会」を運営してきて学んだのは、遺族サポートは、長期的な視点をもって、遺族の悲嘆レベルに合わせた段階的な支援が必要だということです。すなわち、「グリーフサポート」から「ライフサポート」までの長期的支援の必要性です。

「グリーフサポート」が情緒面に焦点を当てた、マイナスからゼロの遺族援助とすれば、「ライフサポート」は、日常生活の課題に焦点を当て、ゼロからプラスへの遺族援助と位置づけられます。

また、「グリーフサポート」と「ライフサポート」は車の両輪のようなもので、死別に向き合う「故人中心の生活」から人生の可能性に目を向けた「自分中心の生活」への移行を援助することに遺族会の役割があると気づきました。

そうしたことは、学術的な裏付けもあるのですか。

はい。死別体験への対処モデルとして二重過程モデルというのがあります。伝統的なグリーフワークの概念に対応する対処法「喪失志向コーピング」と、今後の生活や人生に向き合う二次的問題への対処法「回復志向コーピング」からなる対処モデルです。

ここで言う「コーピング」は“対応する方法”とお考えください。

この二重過程モデルが「グリーフサポート」と「ライフサポート」の関係性についての理論的裏付けとなっています。

また、二重過程モデルには、従来の死別に関するモデルには無かった「揺らぎ」という特徴的な概念があります。同じ人が「喪失志向コーピング」と「回復志向コーピング」に同時に取り組むことはできないため、二方向のコーピングの間の調整過程として、「揺らぎ」という概念が導入されました。
例えば、悲嘆から回復したように見える「ライフサポート」に位置づけられる遺族であっても、記念日(命日)前後に、故人の生きていた頃の記憶がよみがえって気分が落ち込んだ状態になり、「グリーフサポート」が必要とされる場合もあるということです。

今後は地域の中で遺族を支える体制を構築

最後に、「ひだまりの会」の今後の方針についてお聞かせください。

「ひだまりの会」発足からの15年間を振り返りますと、「グリーフサポート」から「ライフサポート」、そして、会員の社会貢献を支援する「ボランティアサポート」まで行なう長期的な遺族支援の活動によって、本会を社会資源化できたように思います。

「ひだまりの会」では現在、初回参加者の「分かち合い」は、遺族支援の専門家が担当しています。専門家が複雑性悲嘆などの精神状態の判断を行い、「月例会」後のカンファレンスにおいて、専門家とスタッフとの間で個々の遺族の支援計画を検討するためです。遺族のリスクレベルを評価するため、2015年4月から「遺族カルテ」も作成しています。

また、2012年4月から、「ライフサポート」の運営主体を「ひだまりの会」有志が設立したNPO法人「遺族支え愛ネット」に移行しました。

これに伴い、本会は、本会設立の原点である「グリーフサポート」に注力しており、今後は医療機関や公的機関、市民団体などと連携し、地域の中で遺族を支える体制を構築できればと考えています。

本日は、運営ノウハウまで詳しくお聞かせいただきありがとうございました。


【廣江輝夫氏のプロフィール】

燦ホールディングス(株)経営企画部所属。龍谷大学 文学部 特別講義 担当講師。eラーニング・ポータルサイト「エンディングノートの活用法」講師。

1998年(株)公益社に入社。「生前葬」などライフエンディング事業企画を手掛けると共に、遺族サポート「ひだまりの会」の設立時から、運営スタッフとしてグリーフケアに取り組む。また、エンディングワーク(終活設計)」をテーマに、行政、教育機関、企業、市民団体などで講演を数多く行なっている。

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塚本 優(つかもと まさる)
葬送ジャーナリスト。1975年早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。葬祭事業者向け月刊誌の編集長を務める。また、新規事業開発室長として、介護、相続、葬儀など高齢者が直面する諸課題について、各種事業者や専門家との連携などを通じてトータルで解決していく終活団体を立ち上げる。2013年、フリーの葬送ジャーナリストとして独立。葬祭・終活・シニア関連などの専門情報紙を中心に寄稿し、活躍している。

[塚本優]