在宅で胃ろうをするときの注意点とコスト対策
在宅でも「胃ろう」はできる
「胃ろう(PEG)」は、手術で胃にチューブを通して、身体の外から直接栄養を送り込めるようにする手術です。
「胃ろう」は、終末期の高齢者が寿命を伸ばすための手段として紹介されたたため、悪いイメージを持つ人が多いのですが、口から食事を摂ることが難しくなった人を救うためには有効な手段です。
ただし、病院で行なわれていた胃ろうを、引き継いで在宅で生活するためには、いくつか注意すべき点があります。
ここでは、実例をもとにして、在宅での胃ろうの注意点を紹介します。
「胃ろう」になったAさんの例
50代のAさんは、脳出血で倒れて、救急車で病院に入院しました。
幸い、命はとりとめましたが、後遺症の1つとして「嚥下障害」が残りました。
この障害によって、食べ物を口から食べて飲み込むことが難しくなりました。
そのため、入院中に「胃ろう」の手術を受け、現在は胃ろう経由で栄養を摂っています。
症状も落ち着いたので、退院を打診され、準備を始めたところです。
「嚥下障害」のリハビリテーションは続ける予定ですが、すぐに回復することは難しいので、在宅でも「胃ろう」から栄養を摂る予定です。
「胃ろう」はヘルパーさんにはできない
最初にAさんが困ったのは、胃ろうによる栄養補給は「医療行為」なので、医療関係者か家族でなければ行なうことができないことです。
Aさんの場合、1日3回の補給を行なうのですが、例えば、家族がいないときの補給を、介護保険で派遣されているヘルパーさんに頼むということができません。
かといって、そのつど訪問看護をお願いするというのは、コスト的にも大変です。
幸い、Aさんの場合は、在宅で働いている家族がいたので、その人が責任を持って補給することになりました。
「胃ろうの栄養補給は医療行為なので、ヘルパーさんには頼めない。家族の協力が必要になる」ということは覚えておきましょう。
「胃ろう」の作業は簡単だが練習が必要
「胃ろう」で栄養補給を行なう作業自体は、そんなに難しいものではありません。
現在は、専用の栄養剤を使うことが多く、それを専用のチューブで、身体の表面にある穴につなぐだけです。
ただし、普通の人が、いきなり胃ろうの栄養補給を行なうことは簡単ではありません。
家族とはいえ、「人のおなかに触ること」や「身体に入れるものだけに間違いがあってはいけないという気持ち」がプレッシャーとなるので、最初からできる人は多くありません。
Aさんの場合は、次のような手順で教えてもらいました。
まず、入院している病院で、「退院指導」として、胃ろうを扱う看護師さんの作業を見せてもらいました。
いわゆる「見取り」で作業を覚えたのです。
その上で、無償で公開されているマニュアル類など参考に、作業手順を整理しました。
胃ろうに関するマニュアル類は、何種類も無償公開されています。家族の胃ろうの状態や病院でのやり方に即したものを選んでください。リンクは、この記事の最後にあります。
最後に、マニュアルを見ながら、栄養補給を行なうところを、看護師さんに見てもらいました。
いざというときは、看護師さんが助けてくれるという安心感があるので、無事に栄養補給を行なうことができました。
なお、どうしても作業に自信がないときは、退院する際に、主治医の先生に「特別指示書」を書いてもらうと、2週間の訪問看護が可能になります。
その場合は、自宅に訪問看護に来てもらい、看護師さんの前で胃ろうの栄養補給の作業をして、作業の手順をチェックしてもらいましょう。
入院中は「食品」、在宅では「薬剤」
胃ろうでは、チューブを経由して「栄養剤」を胃に入れます。
実は、胃ろう用の栄養剤には「食品」と「薬剤」があります。
ほとんどの病院では、この栄養剤は「食品」として販売されているものを使用しています。
なぜなら、「薬剤」の栄養剤を使うと、それは「医療費」になってしまいます。
しかし、現在、長期で入院する際の医療費は「包括医療費支払い制度(DPC)」と言って、ほぼ定額になっています。
そのため、胃ろう用の薬剤を増やしても、病院側の収入は増えません。
しかし、「食品」であれば、それは「食事」になります。そうすると「食費」として入院費の一部として本人や家族に請求できます。
つまり、病院としては胃ろう用の栄養剤に「食品」として分類されているものを使うことが、経済的には望ましいのです。
しかし、「在宅」では、事情が変わります。
胃ろう用の栄養剤に「食品」を使っていると、それは医療費ではありませんから、健康保険の対象にはなりません。まるごと、自分の負担になってしまうのです。
しかも、医療費控除の対象にもなりませんから、その負担は大きな物になります。
Aさんの場合、「リーナレン」という栄養剤と「レフ」という補助剤を使用していました。
これをAmazonで購入すると、1日当たり2,250円掛かります。
30日分として計算すると、1カ月に67,500円も掛かってしまいます。
しかし、主治医の先生に、処方箋を書いてもらい、「薬剤」として栄養剤を出してもらうと、それは健康保険の対象になり、自己負担分は3割ですみます。
在宅で療養している場合には、もともと訪問医療や訪問看護で、そこそこの医療費が掛かっているはずですから、胃ろう用の栄養剤の分が増えても、負担する金額は大きくは変わらないはずです。
もし、医療費がかさんでも、高額療養費制度がありますから、規定の金額以上に医療費が掛かることはありません。
一般的な年収であれば、1カ月当たりの医療費の自己負担分の上限は「8万円+α」になります。
入院している病院に相談することから始めよう
ここまで見てきたように、「胃ろう」を在宅で行なうには、いくつかの障壁があります。
ただし、事前に準備を進めれば、栄養補給の作業自体は難しいことではありません。
まずは、退院する病院の主治医や相談室のスタッフなどに相談して、万全の準備をしてから退院するようにしてください。