指定した人や団体に、自分の財産を残す「遺贈」という制度

[2016/2/2 02:05]

指定した人に財産を分かち与える制度

一般的には、誰かが死亡すると、その財産は家族に渡されます。この家族を「相続人」と言います。

相続人が複数いる場合は、「遺産分割協議」を行ない、遺産を分かち合います。

遺産を分割する場合は、一定のルールが有り、亡くなった人との関係で分割する比率が定まっています。

ここまでが、一般的な遺産相続手続きです。

しかし、相続人ではない誰かに、財産を残したいという場合があります。

たとえば、「息子の嫁」は、通常の相続手続きでは相続人に入りません。また、子供がなく甥や姪に財産を残したいという場合も、甥や姪は相続人ではありません。

このような場合に使われるのが「遺贈(いぞう)」という制度です。

遺贈は「遺言」によって、特定の個人や団体に資産を分け与えることを言います。

遺言状には、いくつかの種類がありますが、遺贈の場合は確実に遺言を執行するために、公証人の立会のもので作成される「公正証書遺言」が推奨されます。

相続人がいる場合は遺留分は避ける

遺贈の相手は、個人でも団体でもかまいません。例えば「国境なき医師団」を始めとする諸団体は、遺贈による寄付を求めており、公正証書遺言書の作成も案内してくれます。公益法人に寄付した場合は、相続税が軽減されるという特典もあります。

一般的には、遺贈できる財産は、相続人の「遺留分(いりゅうぶん)」以外となります。

遺留分は、相続人が最低限確保できる財産です。

いくつかルールがありますが、「権利者が配偶者のみの場合は、配偶者に1/2」「権利者が子のみの場合は、子に1/2」「権利者が親のみの場合は、親に1/3」というように、一定の比率で取り分が決まっています。

例えば、子供がいない夫婦の片方が亡くなった際に、配偶者が居るにも関わらず、「甥の××にすべての財産を与える」という遺言を残したとします。しかし、配偶者が「遺留分減殺請求」という手続きを家庭裁判所で行なえば、配偶者の遺留分と定められている全財産の1/2は確保できます。

相続には、このようなルールがあるので、一般的には相続の争いを避けるために、遺贈する財産は、各相続人の遺留分を除いた部分とします。

もちろん、自分に係累がまったくなく、相続人がいない場合は全財産を好きなように遺贈してかまいません。相続人がいない場合の財産は国庫に入ってしまいますから、自分で財産の行き先を指定することは意味があります。

「遺贈」は相続争いを呼びかねない強力な制度

遺贈は、相続人ではない他人に財産を分与できる強力な制度なので、利用にあたっては注意が必要です。

例えば、さきほど例で挙げた、子供のない夫婦の片方が亡くなった場合に、配偶者は、自分がすべての財産を相続できると考えています。それが、遺言状を開けてみて初めて、自分以外の誰かに財産が遺贈されると分かったら、心穏やかでは居られないでしょうし、亡くなった配偶者に対する気持ちも変わりかねません。

少なくとも、遺贈分のある相続人がいる場合は、遺言の内容を相談し、こういう趣旨で遺贈を行ないたいという意思を生前から示しておくべきでしょう。

また、この記事では、「遺贈」や「相続」の制度については簡略化して説明しています。

実際に遺贈を行なう場合は、相続手続きに慣れた「弁護士」や「司法書士」、「税理士」など専門家に相談の上で行なってください。

遺贈は一歩間違うと、平穏に終わっていたはずの相続手続きに嵐を呼び込みます。

くれぐれも慎重に手続きを進め、「公正証書遺言」など信頼性の高いツールを利用して、確実に執行されるように心がけましょう。

[シニアガイド編集部]