年金の保険料を納めている人は6割しかいないから破綻する!?
保険料の不払いで年金は破綻するか
「公的年金の保険料を納めている人は6割しかいませんから、いずれ破綻します。こちらの投資で老後の生活費を確保しましょう」という趣旨のセールストークによく出会います。
これは、凄くうまいセールストークです。4割もの人が年金を払っていなければ、そんな制度は危ないと感じて当然ですから、すぐに信じたくなります。
しかし、身の回りの人を見ると、そんなに多くの人が年金の保険料を払っていないという気がしません。
このセールストークが、どこまで信じて良い話なのか調べてみました。
年金制度には3種類の保険者がいる
日本の年金制度は、加入者を3種類に分類しています。
- 第一号保険者(国民年金)
- 第二号保険者(厚生年金)
- 第三号保険者(厚生年金加入者の妻)
それぞれの比率は、下のグラフを見てください。
この3種類の人達は、それぞれ年金の保険料の払い方が違います。
第一号の人は、基本的には現金または口座振替で保険料を払います。
第二号の人は、サラリーマンないし公務員ですから、給与から天引きされ、会社や役所がまとめて保険料を納めます。
第三号の人の保険料は、第一号および第二号の納めた保険料によって保障されています。自分では保険料を納める必要がありません。
つまり、第二号と第三号については、「年金の保険料を払わない」という選択が、実際にはできません。
「年金の保険料を支払わない」ということが可能なのは、第一号保険者だけなのです。
第一号保険者の比率は、加入者全体の約26%です。
第一号保険者の保険料納付率
では、第一号保険者は、本当に60%の加入者しか保険料を払っていないのでしょうか。
厚労省では、第一号保険者(国民年金)の納付率を公開しています。
最新のデータは、2015年11月末時点のもので、納付率は「57.7%」でした。たしかに60%を切っています。
念のため過去のデータを追ってみても、だいたい60%台で、あまり上がっていません。
つまり、「第一号保険者の40%が保険料を払っていない」というのは本当です。
でも、40%の人の母数は、年金制度全体ではなくて、その一部である「国民年金」なのです。年金制度全体から見ると、保険料を納めていない人は、40%ではなくて10%です。
最初のセールストークは、「国民年金」を「年金制度全体」へとすり替えて、保険料の不払いをしている人を多く見せていたのです。
年金は一定期間払わないと貰えない
全体の10%とはいえ、その人達に将来払う年金は負担になります。
しかし、現在の年金制度には「受給資格期間」があって、25年分(300カ月)の保険料を払っていないと、年金は支払われません。
今の時点で保険料を払っていない人には、将来の年金が支払われないので、制度自体には影響を与えません。
つまり、10%ぐらいなら、不払いの人がいても、年金制度が破綻する可能性はありません。
なお、この受給資格期間は、消費税率が10%に上がると、その資金を生かして10年に短縮される予定です。
国民年金を納めている人が60%を切っても、年金が破綻しない理由
ここまで調べたことをまとめてみましょう。
- 年金の加入者は3種類に分けられる
- 年金の保険料を支払わないという選択ができるのは「第一号 国民年金」の加入者に限られる
- 第一号の人は全体の26%しかいない
- 第一号の40%が保険料を払っていないの本当
- 年金制度全体からみると、保険料を払っていない人は10%にあたる
- 保険料を25年納めていない人には年金は支払われない
というわけで、国民年金の加入者の60%しか保険料を払っていなくても、年金制度に与える悪影響は、それほど大きくないのです。
「公的年金の保険料を納めている人は6割しかいませんから、いずれ破綻します」というセールストークは、信じないほうが良いでしょう。
なお、年金の保険料を不払いしている人達は年金制度には影響しなくても、将来的には、なんらかの形で国の福祉制度への負担となる可能性があります。
また、年金保険料の支払いは法律で定められた義務です。
したがって、収入が少なくて保険料が支払えない場合には「免除制度」の利用が勧められています。免除制度を受けると、年金の額は減りますが、年金を受け取る資格が取りやすくなります。
また、収入があって不払いの場合は督促状の送付や財産の差し押さえが行なわれています。2014年度の督促状は46万件、差し押さえ数は1万5千件に及んでいます。
もっと怖いことは他にある
今回は「年金の保険料を不払いしている人が多少いても、年金制度はゆるがない」ということがわかりました。
しかし、それは「年金制度は信用できるから、全部任せておけば良い」ということではありません。
本当に怖いのは、少子高齢化の進行によって「貰える年金が減額されて少なくなる」ことと「年金が貰える年齢が引き上げられる」ということです。
つまり、“公的年金制度だけ”に頼っていると、将来の生活費が不足する可能性があるということが、一番怖い事実なのです。
公的年金がゼロになると考える必要はありません。しかし、予想よりも金額が少なくなる可能性は高いので、それをカバーする方法は用意しましょう。