読書ガイド 今井多恵子 他著「事実婚・内縁 同性婚 2人のためのお金と法律」

[2016/2/24 05:50]

日本の法律は事実婚に厳しい

この本は、「事実婚・内縁」と「同性婚」の場合に必要となる知識が、ライフイベントごとに紹介されています。

弁護士、税理士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(FP)の共著で、「法律」「税務」「社会保険」「ライフプラン」の専門家が分担して執筆しているので、必要となる知識がもれなく紹介されています。

また、目次とは別に、折り込みになっている「ライフプラン表」から目的のページへ飛ぶこともできるので、必要なページにたどりつきやすくなっています。必要な知識を引きやすいように構成されています。

本の構成は、二人で夫婦として暮らしているが籍は入れていない「事実婚」のパートと、同性カップルによる「同性婚」のパートの2部構成になっています。

事実婚のパートでは、日本の法律は籍を入れていないカップルには厳しいことがよくわかります。「所得税や住民税」「相続」「年金」など、さまざまな場面で婚姻関係にある配偶者と、そうでない場合とでは差があることがわかります。

こういう方面について、多少の知識はあるつもりでしたが、これほどの差があるとは思っていませんでした。

しかし、本書の良い点は、「事実婚は不利だから籍を入れましょう」という価値判断を押し付けられるような書き方ではなく、事実婚という選択を尊重して、寄り添うような態度で書かれていることです。

したがって、読む進めていても画一的な押し付けがましさがなく、事実として事例や法律を読み進めることができます。

同性婚についても冷静な筆致

「同性婚」のパートに入ると、「異性でない」ということによって、さらに権利が制限されることがわかります。

こういう事例の紹介では、怒りをもって現状を告発して、戦闘的な姿勢で臨む文章に出会うことが多いのですが、本書の特徴である、価値判断を押し付けずに、淡々と事実に立ち向かうという姿勢は「同性婚」においても貫かれています。

例えば、2015年に渋谷区が開始した「同性パートナー条例」についても、どうして必要だったかという背景や、それによって何が可能になったかということが紹介され、「課題も少なくありませんが、大きな第一歩と評価するべきでしょう」と冷静に評価されています。

こういう書き方が物足りないと感じるかもしれませんが、その人の立つ立場に関わらず、圧迫感を感じさせずに読み進めることができます。

知識を提供してくれるが、価値判断を押し付けない良書

シニア世代が出会う、「介護」「退職」「入院」「老後」などのイベントは、二人の関係を問う場面を含んでおり、事実婚や同性婚を続けるためのハードルとなります。

それぞれのライフイベントに対して、豊富な知識を提供してくれる本書は、事実婚や同性婚を生きているシニア世代にも、ぜひ一読をおすすめしたい良書です。また、自分の子供が事実婚や同性婚を選択している親世代の方にもお勧めします。

  • 出版社:日本法令
  • 本体価格:1,800円(税込1,944円)
[シニアガイド編集部]