相続の際に知っておきたい、年間18万人が利用している「相続放棄」という手続き
相続に対する3つの対応
この記事のテーマは「相続放棄」です。
相続放棄は、遺産相続の過程で使われる言葉です。
ここでは、簡単に「相続放棄」の意味を紹介し、次に、どのような理由でそれが行なわれているのかを見ていきます。
後半のアンケートの部分は、生保系の研究機関である明治安田生活福祉研究所が行なった調査の結果を引用します。
「相続放棄」の意味と規定
自分の身内が亡くなって、自分が「相続人」となったときには、次の3つのうち、1つを選択する必要があります。
- 単純承認
- 相続人が「被相続人(亡くなった方)」の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ
- 相続放棄
- 相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない
- 限定承認
- 相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ
遺産相続の場合、通常は「単純承認」を選択します
しかし、相続人の意思によって「相続放棄」も選択できます。相続放棄を行なうと、最初から相続人ではなかったという扱いになります。
例えば、亡くなった人が残した財産やお金よりも、残した借金のほうが多いときに相続放棄を選択します。
相続放棄をすることによって、残された財産を受け継ぐことはできなくなりますが、その代わり、亡くなった人が残した借金を引き継がずにすみます。
なお、被相続人の債務がどの程度あるのか不明であり,財産が残る可能性もある場合は「限定承認」を選択します。
「相続放棄」や「限定承認」は、「自分が相続人であることを知った時から3カ月以内」に裁判所に届け出を行なう必要があります。
しかし、自分が相続人であることや、相続財産があることを知らなかった場合には、3カ月を経過していても届け出が受け入れられることがあります。
20%以上の人が「相続放棄」の経験がある
ここからは、明治安田生活福祉研究所の調査をもとに、「相続放棄」の実態を見てみましょう。
調査対象は、全国の40代~60才台の男女4,800人です。
まず、「相続放棄の経験があるか」を聞いています。
「遺産分割の際にいらないと権利を放棄した」人も含めると、相続放棄を経験している人は、男性では約20%、女性では約25%でした。
なお、裁判所の統計によれば、平成26年度の「相続放棄」の届出数は「182,089件」に達しています。
調査の結果からも、届出数の多さからも、相続放棄という手続きが、意外と身近なものであることがわかります。
相続放棄の理由は「別の兄弟に譲るため」
次に「相続放棄の理由」を聞いています。
1番多いのは、「別の兄弟が継いだから」で、次が「別の兄弟が親の世話をしているから」、3番目が「負債のほうが大きいから」でした。
一般的に相続放棄は、負債の相続を避けるためと捉えられていることが多いのですが、実は、他の兄弟に相続財産を譲るために利用されていることがわかります。
現在の民法では、戦前の民法の「家督相続(かとくそうぞく)」にあたる、“家の相続”という概念はありません。
しかし、実生活の中では、「家を継ぐ」という概念が行き残っていることがわかります。
年齢が進むほど「家」の意識は強い
次に、相続放棄の理由を、年代別に見ています。
すると、「別の兄弟が継いだから」と「別の兄弟が親の世話をしているから」という「家」を意識した回答は、年齢が高くなるほど増えていることがわかります。
「家」の意識は地域による差が大きい
さらに、相続放棄の理由を、地域別に見ています。
すると、男性では「北陸」で、女性では「北陸」と「中国」で、「別の兄弟が家を継いだから」という回答が多くなっています。
各地域の回答者数が2桁と少ないので、ある程度の偏りはありますが、これらの地域では「家」を尊重する傾向が強いと言えるでしょう。