グラフで分かる、シニア起業の実情と対策

[2016/5/6 00:55]

シニア起業の実情が分かる調査

「シニア起業」などの名前で、定年退職または早期退職したシニア層への選択肢として、「起業」を勧める動きがあります。

しかし、これまで長期間にわたって、サラリーマンとして雇われる立場だった会社員が、自分で起業することは簡単なことではありません。

今回は、政府系の金融機関である日本政策金融公庫が起業家に行なったアンケートから、「シニア起業」の特徴と、気をつけるべき点を探ってみましょう。

調査は、日本政策金融公庫から融資を受けた2,644社が回答しています。

回答データは、「20歳代」「30~54歳」「55歳以上」の3つの年代ごとに集計されています。他の2つの年代と比較しながらグラフを見ていきましょう。図版の出典は、すべて日本政策金融公庫の報告書です。

シニアの起業は、売上額が少ない

現在の月商

まず、上のグラフを見てください。

これは、起業した人の起業後の「月商」、つまり「売上」です。

55歳以上のところを見ると、「100万円未満」が37.6%もいます。

つまり、起業しても4割近くは、月商が100万円以下ということになります。

これは他の年代よりも10%ほど多く、シニア起業家が、売上を上げることに苦労している要素がうかがえます。

なお、サラリーマンの「給与」の感覚で言うと、100万円未満でもなんとかなりそうに感じてしまいます。

なぜなら、「給与」はそのまま全部使って良いお金だからです。

しかし、企業の場合は「売上」から「経費」を引いた「所得」が出て、初めて「利益」が上がります。実際に使えるお金は、「売上」の数%か、良くても十数%なのです。

ある程度の金額の「売上」が上がらないと、会社として継続していくことは難しいのです。

シニアの起業は、売上目標の設定が甘い

現在の月商

さらに問題なのは、55歳以上では、51%が予想の月商が達成できていないことです。

つまり、半数以上の企業で、「売上目標」が「未達」となっているのです。

売上の目標が達成できないということは、現実が把握できておらず、楽観的に見すぎているということです。

営業系のサラリーマンであれば、自分の会社が設定した売上目標を半分以上の部署が達成できないと考えれば、どんなにひどい状況であるかおわかりでしょう。

シニアの起業は、赤字のところが多い

現在の採算状況

次に、現在の採算を見てみましょう。

55歳以上の起業家は、黒字基調が少なく、56.1%に留まっています。

他の年代では70%前後が黒字基調ですから、それより10%以上も低くなっています。

シニアの起業は、黒字になるまでに時間がかかる

黒字基調になるまでの期間

黒字が出ていないということは、次の仕事のための仕入れなどの経費が、日常の企業活動から得られず、手元の資金から出て行くということです。

つまり、どこかで黒字にならないと、企業としての活動を続けていくことができません。

しかし、55歳以上の場合、黒字基調になるまでの期間が長くなっています。

起業から半年以内に黒字基調になっているのは46.4%と、半分以下です。

さらに、1年経っても黒字基調になっていないところが19.9%もあります。

1年間ずっと手持ち資金で業務を回していくのは、苦しい状況と言えるでしょう。

シニアの起業の問題点は、売上が少なく、採算が取りにくいこと

ここまで、55歳以上のシニア起業家の特徴を見てきました。

まとめてみると、「売上が上がらず、売上目標を下回っている。赤字基調のところが多く、黒字に転換するまでに時間がかかっている」ということです。

では、どうして55歳以上の場合、売上が少なく、採算が取りにくいのでしょう。ここからはそれを探してみましょう。

幸い、調査報告書の中に、いくつかのヒントがあります。

シニアの起業は、法人企業が多い

まず、「経費が掛かりやすい体制」です。

「売上」を伸ばすことは難しいのですが、「経費」を減らすことができれば、「利益」が出やすくなります。

売上が伸び始めるまでの期間は、いかに経費を少なくするかということが重要なのです。しかし、シニア起業の場合、これが実現できていないようです。

開業時の組織形態

上のグラフは、開業時の組織形態です。

55歳以上だけが、「個人企業」よりも「法人企業」の方が多くなっています。

簡単に言うと、法人企業は社会的な信用度が高い代わりに、経費が掛かりやすい形態です。

法人企業は、会社組織として登記する場合でも、運営していく上でも、一定の経費がかかります。

もちろん、個人企業とは取り引きしないという大手企業もありますが、どうしても法人企業でなければならないという場面は、そんなに多くありません。

また、法人企業である必要が出てくれば、その時点で、法人企業に転換すれば良いのです。

起業時に、組織形態を選ぶときに、「法人企業でないと人並みの会社ではない」という意識が残っているのかもしれません。

シニアの起業は、借り入れが多い

資金調達額

「資金調達額」にも、シニアの起業の特徴が現れています。

55歳以上の場合、起業に向けて調達した資金の平均は1,508万円で、他の年代よりも多くなっています。

自己資金も多いのですが、金融機関からの借り入れが総額の半分以上を占めます。

今は極端な低金利時代ですが、それでも金融機関からの借り入れには「利息」というコストがかかります。

シニアの起業は、経費削減の努力が少ない

また、資金が潤沢なことは、良いことばかりではありません。

過大な借り入れは、不要な経費の温床となりやすいのです。

実際に「開業費用削減の工夫」を見ると、55歳以上では「取引先と交渉して有利な取引条件にした」などの項目が目立って少なくなっています。

逆に「特になし」、つまり「削減の工夫をしていない」人が16.4%もあり、20歳代の7.3%に比べると2倍以上になります。

手元に潤沢な資金があることで、資金不足に対する危機感が薄くなり、経費削減への努力を怠りがちになるのです。

ここまでをまとめると、55歳以上の起業の問題は、「経費の掛かりやすい組織になっており、経費削減にも熱心ではない」ということになります。

開業費用削減の工夫

シニアの起業は、定年退職を理由にしてはいけない

最後に、シニア起業が陥りがちなワナを避けるための方法を2つ挙げて終わりにします。

まず、「定年退職や早期退職だから起業する」という考えを捨てることです。

調査報告書の中に「その年齢で開業した理由」という項目があります。

55歳以上で多いのは「退職・就業上の問題」と「支援者が見つかった」です。

つまり、定年退職やリストラにあったり、経営上のパートナーや資金面の支援者が表れたという、自分の外部からの理由です。

一方、他の年代で多いのは「開業準備が整った」や「アイデアをすぐに実現したかった」という自発性の高いものとなっています。

シニアの起業は、定年退職後に会社勤めを続けるための手段ではなく、まったく次元の違う世界に入るようなものです。

周辺の環境に惑わされず、本当に「起業」が自分のやりたいことなのか、もう一度、よく考えましょう。

その年齢で開業した理由

シニアの起業は、人に学ばなければいけない

もう1つは、「自分の能力には足りないところがあり、人に学ばなければいけない」という意識を持つことです。

下の表は、「知識・能力を向上・補完するための取り組み」という項目の回答です。

割合が50%以上の項目は濃い赤で、30%以上50%未満の項目には薄い赤で網掛けされています。

55歳以上の欄を見ると、他の年代に比べて網掛けされた項目が少ないことがわかります。

必要な知識を得るためには、人に直接聞くこと以外でも、「インターネットによる情報収集」や「専門書などの書籍を通じた知識取得」、「専修・専門学校への通学」などの手段があります。

しかし、これらの間接的な方法でも、シニア起業家は他の年代よりも低い数字になっています。

シニア起業の場合、会社員として実績を上げてきた人が起業に臨むため、どうしても自分に自信を持ち、人に学ぶことを怠りがちになります。

起業という新しい分野で実績を残すためには、自分の足りない部分があるという意識を持ち、足りない部分を学ぶという意識を持ち続けている必要があるのです。

知識・能力を向上・補完するための取り組み
[シニアガイド編集部]