読書ガイド 石蔵文信著「男のええ加減料理 60歳からの超入門書」
「妻を昼食の準備から開放する」ための料理
「男の料理」を表題にした料理本はたくさん出ていますが、「手作り餃子を何十個も作る」的な、パワフルな本が多く、これまで台所に立ったことのない男性には荷が重すぎます。
「男のええ加減料理 60歳からの超入門書」は、そういう類書とは異なり、明確な目的が設定されている本です。
一番の目的は、「妻を昼食の準備から開放する」ことです。
定年で自宅に居るようになった夫に毎日毎日、お昼ごはんを用意しなければならないことは、夫の想像以上に妻の負担となります。
男性が、自分のために料理をできるようにすることで、妻を昼食の準備から開放し、日中の行動の自由を与えることになるのです。
自分のために自分で作るのがルール
「妻を昼食の準備から開放する」が目的ですから、それに従ってルールが設定されています。
- 一人で一からすべて責任を持って調理する
- 原則、味付け調味料は1種
- 調理と食器を兼ねた土鍋を使う
- 使う道具は最小限、だから片付けが簡単
- 人(妻)にふるまわない
つまり、妻の城である台所で大騒ぎをして、なんとか妻の手助けで料理を成し遂げたものの、ろくに後片付けもしないうちに、「どうだ、俺の料理は旨いだろう」と賛辞を強要するような、「男の料理」は止めましょうということです。
そんな料理をされるぐらいなら、自分で昼食の準備をしておくから、台所に立ち入らないでほしいというのが妻の本音でしょう。
そうではなく、台所をお借りして、自分で調理して、自分だけで食べ、後片付けもきちんとしてお返しするのが、この本の流儀です。
失敗しにくいルールなので、それなりに美味しいものが出来る
「妻のためというような料理が美味しいの?」と思うでしょうが、それなりにおいしいものができるレシピになっています。
最初のレシピは「豚にらもやし」です。
豚バラ肉、もやし、にら、を水と酒で煮て、塩で味付けするだけなので、まず失敗しませんし、ちゃんと美味しいものができます。
また、これが成功すれば、もやしを白菜に変えてみたり、ホウレンソウにして「常夜鍋」にするなど、応用も効くメニューです。
ほかの料理も、味付け調味料に「うどんだしの素」「すき焼きのタレ」「白だし」「だし入りみそ」などを使うので、味付けを失敗して食べられないものができるということがありません。
素材も、缶詰やチルド餃子、冷凍シーフードなど活用するので、包丁の技を求められることもありません。
火加減についても、「強火」を禁止することで焦げ付きを予防しています。
つまり、食べられないような失敗をしにくいことを重視したルールなのです。
どんな料理か興味のある方は、講談社の書籍情報ページに一覧がありますから、ご覧になってください。
とりあえず、半月ぐらいは自分一人で昼食を食べ続けられるぐらいのネタはあります。
自分で生活するための技術を身に着ける
この本は2014年に発売されましたが、好評だったようで、手元にある本は第6刷になっています。
また、続巻として、「缶詰」を使う本と、「フライパン」を使う本が出ています。
しかし、最初に読む本としては、絶対に「男のええ加減料理 60歳からの超入門書」をお勧めします。
続巻の方は、どうしても応用編という感じになって、失敗する要素が増えているからです。
男性の場合、料理を「道」として捉えてしまうことが多く、「そば打ち」に代表される技術を必要とする難しい料理を求める傾向があります。
しかし、この本の目的は、「妻を昼食の準備から開放する」ですが、それは同時に「自分で食べるものを自分で作れるようにする」ということです。
難しい料理を成功させることよりも、たとえ簡単なものであっても「自分自身で自分を養う」という生きるための技術を身につけることのほうが、ずっと重要なのです。
「自分で料理をしてみよう」と思い立った男性が頼るべき最初の1冊として、強く推薦します。