相続税対策の賃貸アパート建設で、首都圏でも空室が増えている
市況を知るための道標となるタスのレポート
自宅以外の不動産を持っている人に、「せっかくの土地が空き地や駐車場のままではもったいない、ここに賃貸アパートを建てることで、相続税対策になります。また、建築費などの経費も所得税から控除できますから、所得税の節税対策にもなります」というセールストークで、アパート経営を持ちかける例が、よくあります。
また、自宅用以外にマンションを買って、ワンルームマンション投資をしていると、「1部屋単位で投資していても、それだけでは稼げません。ちょうど売りに出ているアパートがありますから、1棟まるごと買いませんか。複数の部屋があれば、毎月の家賃が増えますし、空室になる率も下がりますから、安定した投資になりますよ」と、アパート経営に誘われます。
こういう時に、まず読んでいただきたいのが「タス」という不動産情報会社のレポートです。タスはトヨタグループの企業で、個別の不動産評価データの提供が本業です。
しかし、タスは毎月月末に「首都圏賃貸住宅指標」と「関西圏・中京圏・福岡県賃貸住宅指標」を無償で公開しています。
このレポートには、「空室率」「募集期間」「更新確率」「中途解約率」を始めとして、その地域の賃貸住宅の状況が把握できるデータが掲載されています。
特に、空室率は「アパート系」と「マンション系」に分けてあるので、自分が勧誘されている分野の商品の状況が把握できます。このレポートでは、アパート系とマンション系では空室率に大きな差があるのが、一目でわかります。
首都圏の空き室率は悪化の傾向
タスによるレポートの、ここ数カ月の最大のトピックは一都三県の「アパート系」空室率が上昇していることです。
特に2016年7月28日発表のレポートでは「なぜ賃貸住宅の空室率が悪化しているのか?」というトピックを設けて、空室率悪化の原因を解説しています。
消費税増税後に持ち家の需要が落ち込んだためハウスメーカーが賃貸住宅に注力し始めたこと、相続税増税の影響を受け相続税対策目的の賃貸住宅着工が増加したこと等の要因で、賃貸住宅の着工数は更に増加しています。
つまり、消費税や相続税の増税をきっかけとして、実際の需要以上に賃貸住宅が供給されているという分析です。そのため、首都圏のアパート系賃貸住宅については、新築に限っても空室率が上がっています。
もちろん、賃貸住宅については、立地や建物の良し悪しで大きく状況が変わりますから、実際に成功している事例もあるでしょう。
しかし、投資を行なう前には、個別の事例だけではなく、全体の市況がどういう状況なのかということは把握しておくべきでしょう。
他の分野、たとえば株式投資で言えば、円ドルレートや日経平均など、市場全体に影響する動向は日常的なニュースとして把握できます。
しかし、不動産分野については、一般人には「いま業界がどういう状況なのか」という基本的な市況もわかりません。
タスのレポートは、アパート経営やマンション投資を考える際に、市況を把握するための最初の一歩です。
アパートやマンションなど、賃貸住宅への投資を検討する際は、まず、その月のレポートをチェックすることをお勧めします。