葬儀スタイルの変化などで、葬祭ビジネス市場は「横ばい」

[2016/11/14 00:00]

2015年の死亡者数は過去最高だった

厚生労働省によれば、2015年に死亡した日本人は、130万2千人と推計されています。

これは、昨年を上まっており、昭和22年(1947年)以降で最大となっています。

昭和22年からの死亡者数の推移 出典:厚労省

死者が増えるということは、葬儀が増えるということでもあります。

しかし、2015年に矢野経済研究所が公開した調査結果によれば、日本の葬祭ビジネス市場は大きくなっていません。

2010年以降は、ほぼ横ばいと言って良い状況です。

2015年の売上推計は、1兆7,593億2,100万円で、対前年比100.3%となっています。

葬祭ビジネス市場規模の推移 出典:矢野経済研究所

これを裏付ける数字として、葬儀に使用される“葬儀花市場”の調査があります。

2014年の調査では、葬儀花市場の売上は1,169億円で、対前年比101.1%です。

グラフを見ても、葬祭ビジネスと同様に「横ばい」の状態が続いています。

葬儀花市場規模の推移 出典:矢野経済研究所

葬儀ビジネス市場が伸びない理由

では、どうして葬祭ビジネス市場は伸びていないのでしょうか。

矢野経済研究所のレポートでは、2つの理由を挙げています。

  • 異業種からの新規参入事業者が増加

    葬祭ビジネス市場は、法的規制がなく、特に初期投資を必要としないことから新規参入が比較的容易であるため、ビジネスへの新規参入が全国規模で進んでいる。近年は、流通小売業、鉄道業、JA(農業協同組合)、生活協同組合などの異業種企業・団体の参入が活発化しており、参入事業者間の競争は激化している。


  • 多様化する葬儀スタイル

    現在では、従来型の一般葬(出席者の範囲がより広い伝統的な葬儀)に加え、家族葬(通夜と告別式は行うが出席するのは家族や親しい親族とごく少数の故人の友人だけという内輪だけの葬儀)、直葬(通夜も告別式もせず火葬と遺骨の引き取りのみを行う葬儀)、樹木葬(遺骨の周辺にある樹木を墓標として故人を弔う葬儀)、散骨(粉末化した遺骨を海上や山林に撒く葬儀)など、様々なスタイルの葬儀が行われているが、葬儀会館で実施する小規模な「家族葬」の需要が高まっている。


つまり、死亡者の増加という追い風があっても、新規参入者による競争と、葬儀スタイルの変化によって、1案件ごとの単価が低下しており、葬祭ビジネス市場は横ばいの状態となっているわけです。

また、これは葬儀花市場についても同様で、生花祭壇を選択する喪主は増えていても、葬儀規模の縮小で単価が下がっているとしています。

葬祭ビジネスはどう変わる

では、このような状況に対して、葬祭ビジネスは、どのように変化するべきなのでしょう。

レポートでは、次のように提案しています。

今後、フューネラル(葬祭)ビジネスに関連する事業者は、自社の事業領域の捉え方をフューネラル(葬祭)サービスからライフエンディング全般に関わるサービスへと変革(パラダイムチェンジ)し、葬儀の事前・事後のサポート強化に向けて、有形・無形のサービスをトータルでサポートする事業形態へと変化する必要があると考える。

例えば、事前サービスとしては資産運用に加えて、相続や医療・介護等の情報提供、エンディングノートや遺言等の作成支援、葬儀や埋葬(仏壇・墓石など)の生前契約等の支援、葬儀後のサービスとしては年期法要等の相談、遺品整理代行、墓参代行、遺族へのメンタルサポートなどが挙げられる。

つまり、死者を中心とした「弔い」のビジネスから、生者(家族)のサポートに力点を置いた「生活支援」への移行を勧めています。

家族が死亡した際に初めて連絡される業種から、終活も含めて事前に接触がある「葬儀前後の遺族を支える存在」を目指せというわけです。

こうした葬祭ビジネス業界の状況は、「終活」を目指す個人も知っておくべきでしょう。

葬儀費用については、インターネットで横並びの比較が簡単にできる状況となっているだけに、それぞれの葬祭業者が何を目指しているかという姿勢も、業者を選択する際の要素として参考にしましょう。

[シニアガイド編集部]