「高齢者ストーカー」の正しい怖がり方
高齢者のストーカー事件は増えている!?
「高齢者によるストーカー行為が増えている」というニュースを、よく目にします。
例えば、1月30日に掲載された「教えて! goo Watch」というWebサイトの「急増する高齢ストーカー……その心理を精神科医が解説」というコラムでは、次のような文章が書かれています。
近年、高齢者が起こすストーカー事件が目立つようになった。警察庁の発表によると、2015年のストーカー事案で、加害者のおよそ1割が60歳以上の高齢者。ストーカーというと若者の犯罪というイメージがあるが、なぜ高齢者によるストーカーが増加しているのだろうか。専門家に聞いてみた。
この文章を読むと、「高齢者のストーカーが増えてきていて、まだ1割ぐらいだけど、これから増々増えていくのだろうなぁ」という印象を受けます。
しかし、それは事実ではありません。
都合の良い数字だけで作られた誤ったイメージ
実際に警察庁のデータにあたってみると、この文章に書かれている「ストーカー事案の加害者のおよそ1割が60歳以上の高齢者」と「高齢者によるストーカーが増加している」という内容は正しいことがわかります。
しかし、この記事を書いた人が隠している事実が2つあります。
最初の1つは「ストーカー事件全体の件数も5年間で1.5倍に増えている」ことです。
ストーカー事件の相談数は、2011年の「14,618件」から、2015年には「21,968件」に増えています。
「高齢者によるストーカー事件が増えている」のではなく、「ストーカー事件全体が増えている」のです。
もう1つは、「60歳以上の高齢者によるストーカー事件の比率は、この5年間で0.8%しか増えていない」ということです。
加害者が60歳以上だった相談事例の比率は、2011年の「8.9%」から、2015年は「9.7%」にしか増えていません。
つまり、5年前から、ストーカー事件の1割弱は高齢者によるもので、その割合はほとんど変わっていません。
事実を正しく捉えることで、初めて対策ができる
最初に引用した記事を書いた人は、巧妙に選択した事実だけを提示することによって、「ストーカーになる高齢者が増えているし、これから増々増えていく」という印象を与えようとしています。
しかし、それはストーカー事件に対する正しい怖がり方ではありません。
例えば、ストーカー事案の加害者の4割以上は「20代」と「30代」です。
コラムの筆者は「ストーカーというと若者の犯罪というイメージがある」と書いていますが、イメージではなく、事実がそうなのです。
また、加害者の85%は「男性」です。そして、被害者との関係では、その半数以上が「交際相手(元を含む)」です。
つまり、ある程度、密接な間柄にあった人がストーカーとなるのです。
決して、「ちょっと顔見知りだと、やたらに挨拶する、ご近所の高齢者」ではありません。
そして、ストーカー事件について考えるべきことは、「どうして高齢者のストーカーが増えたのか」ではなく、「ストーカー事件全体の件数を減らすためには、何をしたら良いのか」でしょう。
少なくとも「高齢者」に限定した話題にすることによって、悪意のない高齢者がストーカーとして警戒されるようなことは望ましくありません。
もちろん、「相手が高齢者だから安心」というわけではありません。しかし、「相手が高齢者だし、最近増えているようだから怖い」という恐怖を抱く必要はありません。
実際には高齢者がストーカーになる確率は、他の年代よりも低いのですから。