第52回:みずほ信託銀行のプライベートデータ信託「未来への手紙」の可能性を探る

[2020/8/27 00:00]

みずほ信託銀行が7月からプライベートデータの信託サービス「未来への手紙」の提供を始めました。

葬儀やお墓の希望から、データファイル、医療・介護に関することまで銀行に託し、必要なときに望む人へ渡せる仕組みです。実際に使ってみて、その実用性と将来性を確かめてみました。

「未来への手紙」のPC画面

デジタルデータで扱える大切な情報を預ける

「未来への手紙」は信託銀行にプライベート情報を預けておけるサービスです。

申し込み手数料4,290円と月額使用料550円(もしくは年額6,600円)はみずほ銀行の普通口座から引き落とされる仕組みなので、グループ内に預金していることが使用条件といえるでしょう。

年齢や家族構成、資産総額などは無関係に利用できます。

会員専用サイト。生前や相続前に必要な情報と、相続時に必要な情報に分けられている

プライベート情報の定義は、公式ページに「お客さまの財産情報やお客さまだけが知っている情報(大切なものの保管場所、契約情報、デジタル遺品など)、もしものときの希望・要望、大切な方へのメッセージなど」と書かれています。

デジタルで表現できる個人の意思やデジタル化できる持ち物なら、まとめて預けておけるサービスといえるでしょう。

ただし、財産情報は資金の移動ができない範囲の情報に留める必要があります。たとえば、預貯金の情報なら、銀行の口座番号や取引用のパスワードを残すことはできません。

クレジットカードや保険、○○ペイのIDやパスワードも同様です。換金性のある資産情報を残す際は、特定の誰かが財産を勝手に持ち出すといった事態を避けるために、「財産が存在する」ということだけを示す書き方にする必要があるわけです。

預貯金ページ。入力欄は金融機関と支店名、通帳や証書の保管場所にあえて留めている。ただし、自由記入欄に補足事項を書き込んでおける

テンプレートに委ねず、自己流でファイルを残す手も

一方で「大切なもの」や「デジタル遺品」といった項目は、内容ごとに細かく分類されていて、しっかりと作り込まれている印象を持ちました。

たとえば、「デジタル遺品」項目は、スマートフォンやパソコンを個別に指定してログインパスワードなどを保存できるだけでなく、SNSアカウントやファイル単位で保存場所やID、自由メモなども残しておけます。

「万が一のときは、書斎のパソコンのデスクトップにある××というフォルダをチェックしてほしい」「このSNSには訃報を載せてほしい」など、コンテンツごとに細かな希望が伝えられるのは便利です。

市販のエンディングノートでもデジタル遺品に関する項目は増えてきましたが、ここまで詳細に分けられているものはなかなかありません。

「デジタル遺品」ページでスマートフォンの情報を入力。不要な項目は無視して、「ログインパスワード」のみ記入した。これだけは伝わらないと手出しできないため

そのほか、上記のカテゴリーを一切使わず、自前のデータファイルをアップロードして保管することも可能です。対応するファイル形式はPDFとDOCX、XLSX、JPEG、PNG、GIF、LZH、ZIP、ODP、ODS。1ファイルあたり5MBまで対応しており、相続前用と相続後用でそれぞれ2つ登録できます。

自分なりに重要な情報をリスト化していたり、家族へのメッセージなどを残していたりする人は、上記の対応ファイルに変換した上で、このアップロード法のみ利用するのも手でしょう。

相続前向けのデータファイルをアップロードした

なお、「大切なもの」項目にある「大切な方へのメッセージ」欄でも別個に5MBまでにデータファイルがアップできます。

容量やファイル形式的にビデオメッセージを残す使い方には不向きかもしれませんが、ショート動画や音声ファイルを圧縮ファイルにして預けるなど、ある程度の応用は利きそうです。

相続前後で2段階のアクセスを用意

「未来への手紙」の情報を受け取る相手は最大5人まで指定できます。

指定受取人には自分が死んだときに相続人になる相手(推定相続人)、が推奨されていますが、相続財産に関係しない情報のみを受け取るのであれば、非血縁者を選ぶことも可能です。

ただ、推定相続人等(推定相続人や相続財産受贈者、受遺者、遺言執行者など)がいない場合は、非血縁者の人でも相続財産が閲覧できる場合があります。

血縁者との人間関係によっては面倒な縛りといえますが、このあたりは相続法等の法律を守ったうえでのサービスとなるので、致し方ないところでしょう。

指定受取人は受取人側の専用サイトからIDやパスワードを入力することで、相続前のプライベート情報にアクセスできます。相続後の情報に関しては、相続の届出資料を同行に提出することでアクセス可能になる立て付けです。

指定受取人側の専用ページ

個人情報を大切にする機運を背景に生まれたサービス

同行によると、「未来への手紙」の開発を検討し始めたのは2018年頃といいます。

巨大IT企業による個人情報の取り扱いが注目され、2018年5月にはEUが一般データ保護規則(GDPR)を施行。国内においても情報銀行という個人情報の流通を整理する新サービスの実現が目前に迫った時期でした。

そのなかで「信託銀行の既往業務(遺言信託等)と親和性の高い非対面サービス」(同行 広報チーム)ということで、実現を目指したそうです。

一定のデジタルリテラシーのある終活世代だけでなく、デジタル貸金庫としての活用を考えるミドル世代以下の活用も想定して開発したとのこと。

プライベート情報という、とりとめがないながらも主観的に重要性の高いデータを安全に保管したいとき、たしかに信託銀行のリソースは重宝しそうです。

2019年12月には三井住友信託銀行が「おひとりさま信託」という、死後事務委任契約とからめた終活系サービスがスタートして注目を集めています。

このコラムでも『おひとりさま信託における「デジタル遺品の消去」の意味を見極める』で紹介しました。

こちらもサービスの根底に近いコンセプトがありそうです

今後も信託銀行や周辺業界から、さまざまな終活サービスが生まれていきそうです。

そんななか、「未来への手紙」の行く末は大きな試金石になるのではないでしょうか。大手信託銀行のノウハウと信頼性を十分に活かしたサービスで、使いやすく、設定の自由度も高いと感じました。しかし、利用するには相応の費用がかかります。

申し込み手数料4,290円と月額使用料550円(もしくは年額6,600円)。これを消費者が高いと受け取るか、安いと受け取るか――。

人によって感触が別れるのではないかと思います。後者に感じる人が伸び、サービスとして成長していくことを期待しています。


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行した。

[古田雄介]
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