第45回:おひとりさま信託における「デジタル遺品の消去」の意味を見極める

[2020/1/30 00:00]

三井住友信託銀行が2019年12月に取り扱いを始めた「おひとりさま信託」には、デジタル遺品の消去というメニューが用意されています。どのようなかたちで、どこまで処理してもらえるのか調査しました。

三井住友信託銀行の「おひとりさま信託」パンフレット

身よりに頼らず死後まで安心できる信託

おひとりさま信託は一人で亡くなることに不安を覚えているシニアに向いたサービスといえるでしょう。

お金や不動産に係る信託と一緒に死後事務委任契約を交わすことで、自分の葬儀と埋葬の希望、家財やデジタル遺品の処理方法、ペットの預け先なども決めておけるのが特徴です。

正確には、死後事務委任契約は「安心サポート」という一般社団法人と交わすことになります。

利用者(委託者)はまず所定のエンティングノート「未来の縁-ingノート」(みらいのえんでぃんぐのーと)に資産や連絡先、希望する対応方法などを記入。それをベースに銀行窓口で死後事務の項目を紡ぎ出して、その後に安心サポートと契約する流れです。

ノートの書き換えはいつでもでき、それによる契約の見直しも可能です。

おひとりさま信託で使う「未来の縁-ingノート」。2020年4月からは電子版も提供予定

三井住友信託銀行はノートをデジタル化してバックアップを保管しますが、契約には直接関わりません。相続発生時に契約にかかる費用などを精算したうえで残余財産を託す相手(帰属権利者)に支払う仕組みになります。

信託銀行と社団法人が協力してサービスを提供する

安否確認はあらかじめ指定した推定相続人や死亡通知人を通すことになりますが、2020年4月からはSMS(ショートメッセージ)での週1~年1回のやりとりで普段の安否を伝えるかたちになります。SMSでの返信がない場合に銀行側が通知人等に連絡して状況を確認するという流れです。

対象となるのは、入金金額が300万円以上ある個人です。身寄りのない人ばかりでなく、離れて暮らす家族がいたり疎遠な相続人がいたりする人でも受けられます。

スタートからまもなくの2020年1月時点では日本橋営業部と新宿支店、新宿西口支店の3店舗でのみの取り扱いとなりますが、毎日2~3件ペースで相談があり、非対応店舗でも多数の資料請求依頼があるそうです。

同行の広報室は「従来の相続に関する商品に比べて若い世代の方、50~60代のお客様が多いことも特徴です」といいます。

「デジタル遺品の消去」はどこまで頼める?

さて、本連載でとくに注目したいのは、死後事務委任契約のひとつである「デジタル遺品の消去」項目です。

デジタル遺品は一般に「デジタル環境を通してしか実態が掴めない遺品」と定義されます。スマホやパソコン、その内部に保存されたファイル、インターネット上のデータや契約などを含めることがありますが、細かな輪郭はまちまちです。

おひとりさま信託ではどこまでの範囲で「デジタル遺品」を「消去」してくれるのでしょうか。

安心サポートが対応する業務ですが、同行広報室が答えてくれました。

「デジタル遺品の範囲は、財産性のないものに限定させていただいており、具体的には、パソコン内のデータ、スマートフォン内のデータ、SNSのアカウント削除などを対象としています。ネット口座、電子マネー、QR決済等の解約(換金)は対象外となります」

さらに、パンフレットに「デジタル遺品の消去―パソコンやスマホのデータを確実に消去してほしい」とあるように、デジタル機器自体の破砕や初期化といった処理も対象外となります。

パンフレットにある対象項目

「未来の縁-ingノート」のデジタル遺品に関する項目をみても、「PCのデータ」「スマートフォンのデータ1」「アップルID」「LINE」「Facebook」などの項目が並んでいています。

これらから、直接的にお金が絡まない契約やソフト面での処理が対象といえます。

また、デジタル機器においては「このファイルは誰かに託して、このフォルダーは抹消して」といった細かな指定は難しいことも読み取れます。

たとえば、スマホのなかに抹消したい領域がある場合、端末のパスワードをノートに書いたうえで、中身がすべて空っぽになることを覚悟したうえで指定することになります。

お金関連は別の項目でアカウント情報を明示しておけば、端末に依らず処理できるので問題ないでしょう(仮想通貨のモバイルウォレットなどを保存している場合は個別対応が求められるでしょうが)。遺影候補の写真や誰かに託したいファイルなどがある場合は、消去対象ではない機器やクラウド上にコピーしておくといった措置を講じておくのがよさそうです。

「未来の縁-ingノート」のデジタル遺品関連項目

相続人がいる場合は生前からの同意が欠かせない

相続人がいる場合は、相続人と事前に合意形成しておくことも重要です。

「原則として、相続人の方々と連携しながら進めていくため、生前に相続人関係をお届け出いただくこと、相続人関係に変化があった場合には弊社にご連絡いただくことを必須とし、生前に委託者さまより、その旨お伝えいただくことをお願いしています」(同行広報室)

いくら完璧なノートを作ったとしても、相続発生時に相続人が異を唱えると契約の遂行は厳しくなります。自分の死後、自分の遺品に関わる人たちがいます。その人たちの足並みが揃わないことには望み通りに事は進まないわけです。

疎遠であっても相続人が存在する場合は、自分の意思をきちんと伝えておくことも重要です。独りよがりで事を進めるのはとてもリスキーだといえるでしょう。

広報室はこう続けます。

「おひとりさまといっても、相続人不存在のケースは少なく、相続人がいても疎遠なケースや、離れて暮らす人に迷惑をかけたくないというケースが大宗を占めていると思いますので、できるだけ相続人に想いを伝えておくことが、身の回りのことをスムーズに整理するうえで大事です。

人生100年時代の長い高齢期を憂いなく過ごすためにも、早めに準備しておいて、ご自身の希望、家族関係の変化に沿って、定期的に見直すことをお勧めしています」

2015年の国勢調査では、単身世帯が全世帯の3分に1に達したことが話題になりました。老後に“おひとりさま"として過ごす可能性は、今後益々増えていくでしょう。その備えとしてこうしたサービスを利用するのは効果的です。ですが、きちんと機能させるためには様々な人との連携は欠かせません。これはデジタルに限らない終活全般にいえることだと思います。


まとめると、死後に消去してほしいデジタル遺品があり、おひとりさま信託を利用する場合は、以下のように準備すると成功率を上げられるでしょう。

  • 自分の相続人候補を把握して、できるかぎり意思を伝えておく。
  • スマホやパソコン内にある財産性のあるデジタル遺品は、ノートに目録を残したり別の場所の移したりしておく。
  • 消去したい端末のパスワードとオンライン上のアカウントをノートに記載する。
  • スマホやパソコン自体は家財としての処理の希望もまとめておく。
  • 万が一の情報漏洩をふせぐため、端末内は普段から暗号化しておく。


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古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。著書に『故人サイト』(社会評論社)、『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)など。2020年1月に、『スマホの中身も「遺品」です』(中公新書ラクレ)を刊行する。

[古田雄介]