返礼品の代わりに現金がもらえる、ふるさと納税サイト「キャシュふる」が3日間で終了
返礼品として「現金」を提供
「返礼品の代わりにキャッシュがもらえる」がキャッチフレーズのふるさと納税サイト「キャシュふる」が、サービス開始から3日間で終了しました。
「キャシュふる」は、ふるさと納税の返礼品の代わりに、現金が振り込まれるという、ある意味では魅力的なサービスでしたが、短命に終わりました。
「キャシュふる」については、2つの問題が、相次いで発生したため、終了に至った事情がわかりにくくなっています。
この記事では、オープンから、6月10日のサービス終了に至った経緯を紹介します。
「キャシュふる」の3日間の動き
- 2022年6月8日 「キャシュふる」サービス開始
- 2022年6月9日 勝手に掲載した自治体に関するお詫びとお知らせを掲載
- 2022年6月9日 すでに入金した利用者への返金のお知らせを掲載
- 2022年6月10日 「キャシュふる」サービス終了
断りなく自治体名を表示
「キャシュふる」は、ソフトウェア開発会社である「株式会社 DEPARTURE(デパーチャー:出発)」が、2022年6月8日に開始したサービスです。
最初に問題になったのは、「寄付の予定先」として、事前の断りなく、特定の自治体の名称を表示していたことです。
これでは、利用者が、「キャシュふる」と自治体とが、提携や協力関係にあると見えてしまいます。
名前を出された自治体からの抗議を受けて、6月9日には「当サイトに掲載した自治体様に関するお詫びとお知らせ」が掲載されました。
ここでは、「寄付の候補先として一方的に例示したに過ぎず、各自治体様から掲載の委託を受けたものではございません」と明記して謝罪しています。
利用者には120%を返金
同時に、利用者に対しての「お知らせ」が掲載されました。
そして、「あたかも弊社が同自治体と提携しているものと誤解をさせて、弊社サービスをご利用頂いた方がいらっしゃる可能性を鑑み、以下の通り、ユーザー様に対して全額ご返金いたします」として、返金を行なうと発表しました。
しかも、ただ、振り込まれた入金額を、そのまま返金したのではありません。
6月9日10時までに入金が確認できた利用者には「入金額+違約金20%」、つまり、入金額が10万円の場合は、12万円が返金されました。
それ以降に、入金確認できた利用者には、「入金額+振込手数料1,000円」、つまり入金額が10万円の場合は、10万1,000円が返金されました。
つまり、「キャシュふる」の利用者は、当初期待していたサービスは受けられなかったとはいえ、金銭的な損害は受けていません。
利用者からのクレームを恐れたのか、手厚い対応と言えるでしょう。
なお、6月10日時点で、すでに返金は終了したとしています。
返礼品を転売して利益を得る
次に問題になったのは、「返礼品の代わりにキャッシュがもらえる」という、サービス内容そのものです。
まず、「キャシュふる」の仕組みを見てみましょう。
利用者が「キャシュふる」に送金します。
「キャシュふる」から、「返礼品」の代わりに、送金された金額の20%が振り込まれます。
「キャシュふる」は、自治体から送られて来る返礼品を転売します。
その売上が「キャシュふる」の利益となるわけです。
「Amazonギフト券」でもダメなのに
しかし、「キャシュふる」のビジネスモデルは、ふるさと納税の“理念”に反したものです。
ふるさと納税は、利益だけでできている制度ではありません。
金子恭之(やすし)総務大臣の言葉を借りれば、次のような理念に基づいた制度なのです。
ふるさと納税は、ふるさとやお世話になった自治体に感謝し、もしくは応援する気持ちを伝え、または税の使い途を自らの意思で決めることを趣旨とするものです。寄附に対する返礼品は、寄附を受け入れた自治体が、お礼の気持ちを表すものです。
このような理念があるため、ふるさと納税の歴史は、換金性の高い返礼品を排除してきた歴史でもあります。
例えば、大阪府泉佐野市が、ふるさと納税の返礼品として「Amazonギフト券」を設定した問題では、総務省と泉佐野市が、最高裁まで争う結果となりました。
総務省にとって、換金性の高いギフト券を、ふるさと納税の返礼品とすることは、最高裁まで争うほど許せないことなのです。
ましてや、今回は「キャッシュ」、つまり「現金」そのものですから、放置しておくはずがありません。
金子総務大臣は、6月10日に行なわれた記者会見において、記者の質問に答える形で、次のように非難しました。
「寄附者が返礼品の代わりに現金を受け取ることは制度の趣旨から大きく外れたものであると考えており、担当部局に対応の検討を指示したところです」
これに対して「キャシュふる」は、「本日の金子総務大臣の発言を重く受けた」として、即日サービスを終了しました。
6月8日のサービス開始の翌々日のことでした。
「ふるさと納税」に対する理解が足りなかった
「キャシュふる」のどこがいけなかったのでしょうか。
ひとことで言えば、「ふるさと納税」という制度の理解が足りなかったのだと思われます。
まず、勝手に自治体の名前を出したことは、自治体を軽視しているように見えます。
ふるさと納税は、あくまでも自治体が主役であり、それを助けるための制度です。
それなのに自治体をないがしろにしては、受け入れられるはずがありません。
そして、総務省と泉佐野市との裁判を知っていれば、「キャシュふる」に対して、総務省がどのような態度を取るかは予測できたはずです。
返礼品は、換金性が高いものであってはならない「縛り」は、最高裁まで争うほど強いものです。
単に「便利だから」「儲かれば良い」という思いつきで、「返礼品」を「現金」に置き換えてはいけないのです。
総務省との裁判に勝った泉佐野市も、判決の参考意見では「返礼品の提供の態様は、社会通念上節度を欠いていたと評価されてもやむを得ないものである」と非難されました。
「キャシュふる」は、「ふるさと納税」という市場についての理解が足りず、短期間での退場を強いられたと言って良いでしょう。