シニアが良い気分で買い物をするための試み「Amazonおとなセレクト ストア」
「おとなセレクト ストア」オープン
4月12日に「Amazonおとなセレクト ストア」がオープンしました。
この「おとなセレクト ストア」は、“アクティブシニアに向けた付加価値のある商品を多様なカテゴリーから厳選した”もので、団塊の世代(60代半ば~後半)をターゲットにしています。
Amazonがシニア層に特化したストアを展開するのは日本が初めてです。これは、米本国にあるサービスを日本語化して提供することが多いAmazonとしては異例のことです。
それだけ、日本の小売市場においては、団塊の世代の存在感が大きいということでしょう。
この世代には、新しいものを好み、自分の趣味に投資を惜しまないなど、消費に積極的という特徴があり、活発的に新しい事にもチャレンジをするという特性があり、「アクティブシニア」という呼ばれ方もします。
最近ではインターネット通販(EC)の体験率も上がってきており、そこに向けてのマーケティングとして専用ストアを設けたわけです。
元メンズクラブ編集長が編集協力
「Amazonおとなセレクト ストア」は、元メンズクラブ編集長の林信朗氏が協力しています。
その甲斐があって、次のような特徴が出ています。
- 質の高い文章と写真
- 6つのカテゴリーによる商品分類
- 読み物としても楽しめる3つの特集
つまり、商品を価格順や新しい物順に並べた“インデックス”ではなく、旅行会社やセレクトショップのカタログのような雰囲気となっています。
林氏のコメントを借りれば、「何度も検索をかけたり、値段などの比較サイトをつかったりして、めんどくさいことこの上ない。せっかくの買い物が仕事っぽくなって楽しくないのである」というシニア層がECに感じている不満の解消にもつながるでしょう。
ストアの構成と特徴
現在、6つのコーナーは次のように設定されています。
- 食の逸品
- プレミアムな日用品
- お酒の時間
- おとなの美容
- こだわりのギフト
- ペットと暮らす
また、3つの特集は次の通りです。
- 「旅名人の旅小物」
- 「手軽にダイエット」
- 「家族が集まる休日は焼き肉&BBQ」
これらの表題を素直に、「おっ、上質でよさそうじゃないか」と受け取るか、「気恥ずかしい」と受け取るかに、ユーザーの反応は二分されるでしょう。
しかし、後者のユーザーはこれまで通りのECサイトを使えば良いわけです。
“昔メンクラを読んでて、今でも格好良く生きたいと思っている”アクティブシニアには響く設定と言えるでしょう。
3つの課題
現在の「おとなセレクト ストア」を見ていると、3つの課題があると感じます。
- 販売する商品の選択
- 3つの特集のクオリティ
- 「最近閲覧した商品とおすすめ商品」など、ECの仕組みとの共存
「おとなセレクト ストア」のニュースリリースでは“約1,500アイテムを取り揃え”と、商品の点数を誇示しています。
しかし、セレクトショップにおいて大事なのは「何を売って、何を売らないか」という選択であって、商品点数ではありません。良い物を売り、あえて売らない物も判断できることが重要なのです。
ニーズの小さい商品までカバーするロングテール戦略に慣れたAmazonのスタッフが、どこまで商品の拡大をガマンできるかが課題でしょう。
2つ目の課題である「特集」については、特に写真に手間とお金がかかっています。
ただし、文章については、そのテーマ自体の説明が短すぎて企画の主旨について触れられていないため、夢が広がりません。
雑誌で言えば、特集ページの最初のページに書かれたら数百文字の「特集の意図」を説明する文章が弱いのです。
例えば、美術展で言えば、展示室に入った最初の文字パネルで、きちんとテーマを説明していないと、「展示」という企画ではなく、単なる作品の羅列になってしまいます。現状は、そこが弱く、写真のビジュアルの美しさに頼りすぎているように感じます。
また、商品説明については、文字数制限で長さを調整しているのは良いのですが、体言止めを許しているため、統一した文体という印象が弱くなっています。
600文字ぐらいで説明でき、たくさんの商品を貫くバックボーンとなる強いテーマを用意しつづけることが、一つの課題となるでしょう。
3つ目として、「おとなセレクト ストア」は、写真を中心に、ある程度の「特別感」を演出することに成功しているのですが、画面をスクロールしていくと、PC版では「最近閲覧した商品とおすすめ商品」、スマホ版では「ベストセラーリスト」が表示されます。
せっかく良い心地で、画面を眺めていると、いきなり「ネイチャーメイド スーパーマルチメイド ビタミン&ミネラル 120粒」の薬瓶や、「ニオイをとる砂 5L」という猫のトイレ用品が表示されてしまい、夢が破れます。
ECサイトの仕組みとして、「リコメンド」(推奨)は重要な機能なのですが、そういう要素と、特別な閉じた世界とをどうやって共存させていくのかはWebページのデザイン上の課題でしょう。
これから「おとなセレクト ストア」が、どのように変化していくのか見守りましょう。