古田雄介のネットと人生
第1回:なぜ終活系ネットサービスは短期間で消えていくのか

[2016/6/27 00:00]

便せんの手紙と電子メール、電話連絡網とグループチャット、ショッピングとネットショッピング。いまの時代、インターネットは従来の手段とあえて区別するのが無意味なくらいに生活に溶け込んでいます。

その一方で、固有のリスクと便利さを持っているのもの確か。この新たな日用品と人生の終わりまでうまく付き合うにはどうしたらいいのでしょう。連載を通してさまざまな角度からじっくり調べていきたいと思います。

死後に送信するはずのメッセージが、生きている間に消滅……

今回は消えていった終活系ネットサービスにスポットを当てたいと思います。「終活」という言葉が出回るようになったのは2009年からですが、老後や死後に向けた取り組みをサポートするネットサービス自体は2000年前後からみられるようになりました。以後、今日までトライ&エラーが繰り返されています。どんな“エラー”があったのでしょうか。

洋の東西を問わずに数が多いのは“遺言送信サービス”です。

利用者が亡くなったとみなされたとき、あらかじめ保管されていたメッセージを指定したメールアドレスに送信するというもので、いってみれば、夏目漱石の小説『こころ』の有名な一節、「この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう」をネットで実現してくれるわけです。

大抵の場合、SNSのログインや運営側から送られるメッセージへの返信、公式サイトへのアクセス履歴から利用者の生存確認を行ない、確認がとれなくなったら送信に向けた段取りに入るという仕組みが用いられます。

国内では「ラストメール」(2009年~2014年)や「LastMessage」(2014年~2015年)など、国外では「PassMyWill」(2011年~2014年)に「Dead Man's Switch」(2009年~2014年)、「Deathswitch」(2006年~2015年)など、ある程度メディア露出のあったサービスでもここ1~2年で終了しているものが多々あります。

また、ヤフーが2014年から提供している総合終活サービス「Yahoo!エンディング」は、公的書類である火葬許可証を参照することによって確実な死亡確認を行なう「ヤフーの生前準備」機能が話題を呼びましたが、こちらも2016年に規模を縮小して当該機能は終了しています。

2010年代前半に目立った“エンディングノート系サービス”も淘汰の真っ最中です。

オリジナルの高級ノートを販売する「いにしえ」公式サイトは2013年に姿を消し、USBメモリに入れたエンディングノート「ライフノート 絆」の販売サイトも運営会社の自己破産のため、2015年のうちに閉鎖されました。生存確認機能を備えるスマートフォン向けの簡易ノート「ウケツグ」は2016年のうちにダウンロードできなくなっています。

そのほか、実際の通夜や葬儀の期間だけ弔問メッセージと供物の注文を受け付けるネット窓口「ネットで弔問」(2011年~)のように、開店休業状態のものもしばしば見られます。サイトの更新履歴が何年も前から止まっていたり、スマートフォンの最新端末で表示するとサイトのレイアウトが崩れたりするものは、細やかなメンテナンスが行なわれていないことが多いです。利用を検討しているなら、注意が必要でしょう。

ネットサービスは、死後までもたないリスクをはらむ

「利用者が思ったよりも伸びなかった」――これが撤退理由を表明している多くのサービスが挙げる要因です。

有料サービスはもちろんですが、無料サービスであっても、企業からの広告収入を得るといったビジネスモデルを組んでいることが多く、独立採算で長く運営するには多くの会員を獲得することが欠かせません。

それが叶わなければ、ヤフーのような大手でも、Deathswitchのような10年近く続いた老舗でも継続は難しいというわけです。
サービス縮小直前のYahoo!エンディングの会員数は「4桁」、つまり数千人ということでした。メディア露出の多かったLastMessageにいたっては1年間で約200人しか集まらなかったそうです。

ネット全体でみればニッチなジャンルだけに数百万人規模で事業計画を立てるのは厳しいでしょうが、最低でも数万人、できれば数十万人の会員を集めるのが理想だったと思われます。

しかし、終活のなかでも枝葉といえるインターネット上の終活となると、そこまで人数を集めるのは簡単ではありません。生前準備の考えが浸透している欧米であっても事情は似ています。

ネットと死の組み合わせはギャップが大きいので、メディアではわりと採り上げられやすいですが、それを見て実際に利用する人はまだまだ少ないのが現状です。

その結果、?分が死んだ後のことを考えて登録しても、余命よりもずっと先にサービスがなくなるという、何ともやるせないことがしばしば発生するようになってしまいました。

有望株も多い。「いつ発動するか」を心がけて利用したい

そうした多くのエラーが起きている一方で、トライして成功しているサービスも増えています。

遺言送信系では、2013年からGoogleが提供している「アカウント無効化管理ツール」が外せません。

自分のGoogleアカウントに一定期間ログインしなかったときに、アカウントを抹消したり、指定した相手へメッセージと一緒にデータを託したりできる機能で、厳密には死後に限定されるものではありませんが、終活との親和性がとても高いのです。

Googleの「アカウント無効化管理ツール」。最終ログインから発動するまでの期間は、3/6/9/12/15/18カ月の6段階から選べる

SNSで終活サービスを牽引するのはFacebookです。知人の報告により故人のページを保護する「追悼アカウント」機能を2009年から実装していますが、2015年には本人が生前に望む設定を登録できるようになり、使い道が広がりました。

くわえて、自殺を示唆する書き込みを検知して個別に対応する取り組みを始める計画も表明しており、生死に関わるサポートに積極的な姿勢がみられます。

何かあったときに自らのページの「追悼アカウント」の設定が決められるFacebookの画面。PCの場合は、設定>セキュリティ>追悼アカウント管理人と辿る

また、遺影加工大手のアスカネットが2011年から提供する遺影写真登録サービス「遺影バンク.com」や、葬儀系出版社の鎌倉新書が1999年に開設した葬儀社・斎場斡旋サイト「いい葬儀」など、実際の葬祭に結びついて定番の存在となっている国内サービスも少なくありません。

最近では、2015年末にAmazon.co.jpでも取り扱いが始まった、みんれびの僧侶派遣サービス「お坊さん便」の成長が目立っています。

これらのサービスを“いま利用する”なら、額面通りのサービスが受けられるのは確かです。当たり前のことかもしれませんが、登録や注文からサービスの発生までの期間を考えると、少し違った意味になります。

葬儀社斡旋や僧侶派遣サービスなら、注文から実際のサービスが行なわれるまであまりタイムラグがないので問題ないでしょう。

しかし、自分の死後に発動することを見据えて登録するタイプは、数年~数十年と経つうちにサービスが終了してしまうリスクがどうしても避けられないのです。人生の終わりまでサポートするサービスには、生命保険や遺言信託、互助会の積み立てなどがありますが、それらと比肩するほど強固な保証が背負えるネットサービスはほとんどないのが現状です。

「現時点で機能しているか」「発動するのはいつか」。玉石混淆の玉を拾うためには、この2つの視点は欠かせません。多くのエラーを生みながら、玉のバラエティと品質は着実に上昇しています。勘所を押さえて、うまく付き合っていきましょう。

追記:インターネット終活&デジタル遺品に関する相談を募集します!

「古田雄介のネットと人生」では、インターネット終活やデジタル遺品に関する読者の方からの相談を受け付けています。デジタル機器の中のデータやネットサービスのアカウントは、持ち主の死後どのような道を辿るのか。また、どうすれば意図するままに処理できるのか。日頃疑問に感じていることがあれば、下記の情報をご記入のうえ専用アドレスnetlifelab@gmail.comにご連絡ください。個別に直接ご回答することはできませんが、この連載で可能な限りお答えします。



古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2017年8月にデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行した。

[古田雄介]