見直しが話題になっている「配偶者控除」ってどんな制度

[2016/11/21 00:00]

「103万円の壁」で注目

12月が近づくと、パートタイマーの主婦は今年の年収を計算して、12月の働き方を調整します。

日本には、いくつかの“収入の壁”があって、主婦の収入が一定の金額を超えると、専業主婦を守るための有利な制度から外されてしまうためです。

代表的な収入の壁の1つが「配偶者控除」です。「103万円の壁」という呼び方で知っている方も多いでしょう。

しかし、いま配偶者控除については、廃止や枠の拡大などが検討されており、近い将来に制度の変更が見込まれています。

法の改正を前にして、改めて「配偶者控除」がどういう制度であり、制度が変わることによって、どのような影響が及ぶのかを紹介します。

婚姻届を出していないと「配偶者控除」が受けられない

「配偶者控除」は、一定の基準に当てはまる配偶者(妻や夫)がいると、税金を安くしてくれる制度です。

この制度を利用するためには、次の4つにすべて該当している必要があります。

  • 法律上の配偶者であること
  • 生計を一にしていること
  • 年間の合計所得金額が38万円以下であること(給与による収入は103万円以下)
  • 青色申告者の事業専従者や白色申告者の事業専従者でないこと

すごくおおざっぱにまとめると、「婚姻届を出していて、サラリーマンである配偶者の収入で暮らしている場合、パートの収入が103万円以下なら税金を引いて上げます」というわけです。

引いてくれる金額は、一般の配偶者の場合「38万円」、その年の12月31日に70歳以上の場合「48万円」です。

「えっ、税金が38万円も安くなるの」と思いがちですが、そうでではありません。

これは「所得控除」と言って、税金を計算する元となる金額を計算するときに、収入から引かれる金額です。

夫を「A」、妻を「B」とすると、Bのパート収入が103万円以下なら、Aに38万円の控除が付く 出典:国税庁

例えば、夫の年収が300万円とすると、300万円から38万円を引いた262万円で、税金を計算してくれます。

夫の所得税率を10%とすると、38万円の控除で、税金が3万8千円安くなります。

サラリーマンは「配偶者控除」を知らない

ちょっと余談になりますが、「自分は結婚しているけれど、これまで一度も配偶者控除を受けたことがない」というサラリーマンの方も多いでしょう。

サラリーマンの場合、会社が年末調整をしてくれるので、自分がどのような控除を受けているのか知らないですんでいるのです。

実際には、年末調整にあたって会社に提出した書類に「配偶者」の記載があれば、会社が「配偶者控除」を適用して、最終的な所得税額を計算してくれます。税金を損していたということはありませんので、安心してください。

面倒くさい年末調整の書類も、きちんと書いて提出しておけば、「配偶者控除」などによって税金が安くなるのです。

北風と太陽

いま、なぜ「配偶者控除」が注目されているかというと、政策の方向として、家庭の主婦を労働市場に戻したいという意図があるからです。

ここからは、「北風と太陽」というおとぎ話にたとえて見ましょう。

「配偶者控除を廃止しよう」というのは、北風のような政策です。つまり、「専業主婦に有利な配偶者控除が無くす」という冷たい政策を取ることで、女性が専業主婦に留まりにくくなり、働きに出るようになるだろうというわけです。

そもそも、専業主婦よりも共稼ぎの家庭の方が多くなったことや、事実婚やLGBTなど多様な家庭形態の増加を考えれば、「配偶者控除」という制度自体が古いから廃止しようという判断は正しいでしょう。

こちらの政策を取ると、「103万円の壁」を気にする必要はなくなりますが、専業主婦がいる多くの家庭が増税となります。「夫が働きに出て、妻が専業主婦として家を守る」というモデルに沿って暮らしてきた多くの人達から既得権を取り上げることになりますから難しいことが予想されます。

「配偶者控除の枠を広げよう」というのは、太陽のような政策です。103万円という壁を、例えば150万円に広げるという暖かい政策によって、「年収が103万円に届きそうだから、12月は働くのを止めて調整しよう」というようなことを減らし、150万円分まで働いて貰おうというわけです。

制度の壁を少し緩めることによって働いてくれる人が増えるのであれば、しばらく制度はこのままでもいいじゃないかという判断と言えます。

こちらの政策をとれば、増税は避けられますが、壁を引き上げることによって税収が減ります。例えば「年収が1,000万円を越えたら配偶者控除の対象外とする」など、なにか税収を補うための条件が付くでしょう。また、103万円が150万円になることで、働く人がどれだけ増えるのか見通せないという問題もあります。

2016年11月の時点では、最終的にどのような決着が付くのかはわかりません。しかし、ここ1~2年の間に、なんらかの制度変更があることが予想されます。

配偶者の収入を補うために、パートに出てみようという方には、最終的な収入に影響する重要な話ですから、ニュースなどに気をつけておきましょう。

[シニアガイド編集部]