「高齢者の定義を75歳以上に」、2つの老年学会が提言
高齢者の定義を変更しようという提言
2017年1月5日に、日本老年学会と日本老年医学会の連名で、「高齢者に関する定義」についての提言が行なわれました。
この提言の主旨は、「現在、65歳であることが多い高齢者の定義が現状に合わなくなってきているので、75歳にしよう」というものです。
しかし、「75歳」という年齢だけを取り上げて、提言に至った意図をきちんと伝えていない報道も見受けられます。
もともと、今回発表された提言は「概要」であり、さほど長い文章ではありません。ここでは、あえて原文をそのまま掲載しますのでご一読ください。
Web上で読みやすいように、改行を追加しています。
高齢者の定義と区分に関する提言 (概要)
わが国を含む多くの国で、高齢者は暦年齢65歳以上と定義されています。
しかし、この定義には医学的・生物学的に明確な根拠はありません。
わが国においては、近年、個人差はあるものの、この高齢者の定義が現状に合わない状況が生じています。
高齢者、特に前期高齢者の人々は、まだまだ若く活動的な人が多く、高齢者扱いをすることに対する躊躇、されることに対する違和感は多くの人が感じるところです。
このようなことから、日本老年学会、日本老年医学会では、2013年に高齢者の定義を再検討する合同ワーキンググループを立ち上げ、高齢者の定義についていろいろな角度から議論を重ねてまいりました。
近年の高齢者の心身の健康に関する種々のデータを検討した結果、現在の高齢者においては10~20年前と比較して加齢に伴う身体的機能変化の出現が5~10年遅延しており、「若返り」現象がみられています。
従来、高齢者とされてきた65歳以上の人でも、特に65~74歳の前期高齢者においては、心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めています。
また、各種の意識調査の結果によりますと、社会一般においても65歳以上を高齢者とすることに否定的な意見が強くなっており、内閣府の調査でも、70歳以上あるいは75歳以上を高齢者と考える意見が多い結果となっています)。
これらを踏まえ、本ワーキンググループとしては、65歳以上の人を以下のように区分することを提言したいと思います。
- 65~74歳 准高齢者 准高齢期 (pre-old)
- 75~89歳 高齢者 高齢期 (old)
- 90歳~ 超高齢者 超高齢期 (oldest-old, super-old)
この定義は主として先進国の高齢化事情を念頭においていますが、平均寿命の延伸と「若返り」現象が世界的にひろがるようになれば、全世界的に通用する概念であると考えています。
一方、従来の超高齢者(oldest-old, super-old)については、世界的な平均寿命の延伸にともない、平均寿命を超えた90歳以上とするのが妥当と考えます。
高齢者の定義と区分を再検討することの意義は、(1) 従来の定義による高齢者を、社会の支え手でありモチベーションを持った存在と捉えなおすこと、(2) 迫りつつある超高齢社会を明るく活力あるものにすることです。
ただ、高齢者の身体能力の改善傾向が今後も続くかどうかは保証されておらず、あらためて、次世代への健康づくりの啓発が必要と考えています。
われわれの提言が、明るく生産的な健康長寿社会を構築するという、国民の願いの実現に貢献できることを期待しております。
なお、本提言に関する詳細な報告書を後日発表する予定です。
(以下略)
補足:国内での高齢者の定義と高齢者の意識
現在、日本の法律では「高齢者」の定義は統一されていませんが、だいたい「65歳」が目安となっています。
例えば、健康保険制度では「前期高齢者」は65歳から75歳を指します、年金制度の支給開始年齢は、「60歳」から「65歳」への移行が行われつつあります。
労働関係では、「生産年齢人口」は15歳から65歳未満となっており、65歳以上は生産年齢人口から外れています。
しかし、「高年齢者雇用安定法」では55歳を高齢者としていますし、道路交通法の「高齢運転者標識」や、東京都の「シルバーパス」は70歳以上を対象としています。
一方、提言でも言及されている「高齢者の日常生活に関する意識調査」という内閣府の調査では、「自分が高齢者だと思う人が過半数になるのは“75歳以上”」という結果が出ています。この調査では65歳の段階で、自分が高齢者だと思っている人は25%に留まっています。
今回の提言をきっかけとして、「自分自身が何歳からを高齢者だと思っているか」を考えてみると面白いでしょう。