「人工透析」を受けるときに、必ず手続きしたい3つの医療費助成制度
人工透析の問題は拘束時間と医療費
「人工透析」は、「慢性腎臓病」(CKD)などで、腎臓の機能が低下した場合に行なわれる治療方法です。
人工透析には、いくつかの方法がありますが、もっとも普及しているのが「血液透析」です。
「血液透析」は、腕の動脈から血液を抜き、腎臓に代わって血液を浄化する「血液透析装置」を通して、再び体内に戻します。
これによって、衰えた腎臓の機能が補われ、日常生活が送れるのです。
血液透析の主な問題点は、2つあります。
1つは、「毎週3回ずつ、約4時間に渡って拘束される」ことです。
もう1つは、「治療費が月額で約40万円かかる」ことです。
もちろん、健康保険や高額療養費制度がありますから、自己負担額が40万円というわけはありません。それにしても、月に数万円は必要となります。
しかし、人工透析の場合、医療費助成制度が充実しています。
きちんと手続きをすれば、自己負担をゼロ、悪くても、月に1万円に抑えられます。
さらに、人工透析以外の医療費を安く抑えたり、障害年金によって生活費を得ることもできます。
この記事では、それらの手続きをする方法を、1つずつ紹介しましょう。
「マル長」で、医療費が月1~2万円になる
最初に手続きをするのが、健康保険から発行される「特定疾病療養受領証」です。
「特定疾病療養受領証」は、病院の窓口など「マル長(マルチョウ)」と呼ばれます。覚えておくと窓口でとまどいません。
「特定疾病療養受領証」を病院の窓口へ提出すると、人工透析の自己負担限度額が「月額1万円」になります。
ただし、年齢が70歳未満で、基礎控除後の年間所得額が600万円を越える場合は「月額2万円」になるので、ご注意ください。
「特定疾病療養受領証」の「特定疾病」というのは、非常に高額な治療を長期にわたって必要とする疾病を指します。その1つが「人工透析が必要な慢性腎不全」なのです。
「特定疾病療養受領証」を健康保険団体が発行します。
まず、加入している健康保険団体または、後期高齢者医療広域連合の窓口へ申請書類を請求します。
そして、送られてきた申請書を医師の確認書類などとともに提出します。
あなたが加入しているのが、国民健康保険や後期高齢者医療広域連合ならば、住んでいる市区町村の担当窓口へ行って手続きします。
加入しているのが社保の「協会けんぽ」ならば、協会のWebサイトからPDFファイルでダウンロードできます。
同じ社保でも「組合健保」の場合は、健保組合ごとに手続きが異なるので、それぞれの組合のWebサイト、または会社の総務部門で確認してください。
「特定疾病療養受療証」には、有効期限がなく、更新は不要です。大切に保管してください。
「マル都」で、自己負担分が1万円減る
次に、地方自治体による助成があります。
ここでは、東京都の「難病医療費助成制度」を紹介します。
これは、病院の窓口などでは「マル都(マルト)」と呼びます。
マル都の金額は、「1万円」です。
つまり、健康保険による「マル長」を使った後の、自己負担分が1万円減ります。
自己負担が1万円の人はゼロに、2万円の人は1万円になるわけです。
マル都を入手するための手続きは、住んでいる市区町村の窓口で行ないます。
必要な書類は、次の5つです。
- 難病医療費助成申請書兼同意書 (窓口にあります)
- 住民票(後期高齢者の場合は不要)
- 健康保険証の写し
- 高齢受給者証を持っている場合は、その写し
- 「特定疾病療養受療証(マル長)」の写し
ご覧のように、マル都の手続きをするためには、「特定疾病療養受療証」(マル長)の写しが必要です。
「マル長」の手続きが終わってから、マル都の手続きをする手順になるのです。
無事に手続きが終わると、2カ月ほどで「マル都医療券」が送られてきます。
マル都は、申請から交付されるまでの期間も助成の対象となります。
「マル都医療券」と一緒に送ってくる書類で請求できますから、病院の領収書などは、きちんと保存しておきましょう。
また、マル都医療券は有効期限があるので、一斉更新が行なわれます。通知が来るので、忘れずに手続きしてください。
「マル障」で人工透析以外の医療費も補助される
ここまで紹介した「マル長」と「マル都」を手続きすることで、人工透析自体は無料または、月に1万円で治療を続けることができるようになります。
次の目標は、「マル障受給者証」です。
「マル障受給者証」は、病院の窓口では「マル障(マルショウ)」と呼ばれます。
これを持っていると、人工透析以外の医療費が補助されますす。
人工透析を受けている人は、合併症などの病気を持っていることが多いので、万が一の入院や手術に備えて、「マル障」を取っておきましょう。
「マル障」を持っていると、国民健康保健や健康保険などの各種医療保険の自己負担分から一部負担金を差し引いた額が助成されます。
2019年8月現在の月額の上限は、「通院が18,000円、入院が57,600円」です。
つまり、人工透析以外に、何かの別の病気の治療を受けた場合でも、上の金額以上の医療費はかかりません。
さらに、所得が少なく、住民税が免除されている場合は「自己負担なし」になります。
「マル障受給者証」は、年に1度、9月に更新されます。6月頃に書類が送られてきますから、忘れずに手続きをしましょう。
「マル障」をもらうためには「身体障害者手帳」が必要
東京都の場合、「身体障害者手帳」の1級または2級を所持しており、本人の所得制限などの条件を満たしていると、「マル障」が受け取れます。
つまり、最初に「身体障害者手帳」を手に入れて、次に「マル障」という順番で手続きを進めます。
「身体障害者手帳」を取るというと難しいことのように見えますが、実はそうでもありません。
人工透析を受けている場合、身体障害者手帳を申請すると、ほぼ「身体障害者1級」に認定されます。
ですから、必要な作業を着々と進めていけば、問題なく「身体障害者手帳」を受け取ることができます。
「身体障害者手帳」の手続きの詳細については、もよりの市区町村の障害福祉担当窓口に相談してください。
手続きには、指定医の診断も必要なので、ある程度の時間と手間がかかることは覚悟しておきましょう。
3つの制度を1つずつ片付ける
ここまで、透析生活の医療費を助けてくれる、「マル長」「マル都」「マル障」という3つの医療助成制度を説明してきました。
このうち、マル都とマル障については、地方自治体による助成のため、東京都以外の都道府県では、規定が異なる場合があります。
お住いの市区町村の窓口で、ご確認ください。
「人工透析」については、上記の3つの医療助成制度を利用すると、医療費の問題はほぼ解決できます。
3つの手続きを行なうのは大変ですが、「マル長」「マル都」「マル障」の順に攻略して行きましょう。
障害年金で生活費を確保する
最後に、「障害年金」について紹介しましょう。
障害年金は一定の障害によって生活に支障が出ているときに、年金が受け取れる制度です。
一定の条件さえ満たしていれば、仕事に就いているかどうかは問われません。
「人工透析」を受けている場合、透析を始めた日から3カ月を経過していれば、障害年金の手続きができます。
障害年金の手続きは、難しいと言われることが多いと感じます。
しかし、人工透析の場合、透析を受けているという事実があるので、ある程度の知識があれば自分で手続きができます。
手続きをする際のポイントは次の2点です。
- 必要な書類を調べて、あらかじめ揃えておく
- 年金事務所に電話で予約をしてから相談に行く
障害年金の手続きには、「年金手帳」を始めとして、必要な書類がたくさんあります。
例えば、年金手帳を失くしている場合は、再発行しておきましょう。
また、「マイナンバーカード」を取っておくと、戸籍謄本などが不要になるので手間が減ります。他の手続きをするときに、ついでに取っておきましょう。
「年金手帳」と「マイナンバーカード」が揃ったら、予約を入れた上で、年金事務所に相談に行くことをおすすめします。
「障害年金」は手続きが複雑なので、専門の知識を持ったスタッフがいる年金事務所が、相談に向いているのです。
相談の際には、「マル長」「マル都」「マル障」などの証明書や、「身体障害者手帳」などを持っていくと、話が早くなります。
こちらがさまざまな条件を把握しており、それを解決する意欲があることが伝われば、必要な書式を渡してくれます。
このうち、「医師の診断書」については、主治医の先生に新しく書いてもらう必要があります。
「病歴・就労状況等申立書」は、自分で書かなければなりませんが、どのような障害状態なのかを素直に書いておけば問題はありません。
こちらのページに書式があるので、確認してください。
どうしても、記入に自信が無い場合は、図書館などで「障害年金」関係の本を検索して、記入例を確認すれば良いでしょう。
実際に、事前の相談も含めて、年金事務所に2回行くだけで手続きを終えた例もあります。
「初診日」が分からないときは専門家に依頼する
障害年金の手続きが難航する可能性が高いのは、障害の原因となった病気の「初診日」がはっきりしない場合です。
障害年金の手続きにおいて「初診日」の確定は、とても重要な条件なので、これがあやふやだと手続きが進みません。
例えば、初診時の病院の記憶がない場合や、病院を転々としていて記録が残っていない場合は、最初から「社会保険労務士(社労士)」という専門家に相談した方が良いでしょう。
障害年金の手続きに慣れた社労士に頼むと、一定の手数料はかかりますが、初診日の確定や書類の作成を助けてくれるノウハウを持っています。
また、何度も年金事務所等に通って手続きを行なうこと自体が難しいという場合や、自分で書類を書くことが難しい場合は、最初から社労士にお願いしましょう。
自分の住んでいる自治体名と、「透析」「障害年金」「社労士」などの言葉で検索すると、見つけやすいでしょう。
なお、社労士の資格をもっていても、障害年金に詳しいとは限りません。最初に相談するときは、「障害年金」の手続きにどれぐらい経験があるのかを必ず確認してください。
障害年金はどれぐらいもらえるのか
障害年金が受けられるようになると、どれぐらいの収入があるのでしょうか。
人工透析の場合、障害年金の等級では「2級」に認定されます。
「身体障害者手帳」の等級とは制度が違うので、級が変わりますが、気にしないでください。
加入している年金が「国民年金」であれば、障害基礎年金 2級として、年に約78万円の年金が受け取れます。
加入している年金が「厚生年金」であれば、障害厚生年金 2級として、勤務期間や収入に応じて、もう少し多い金額が受け取れます。
また、子供がいれば、それなりに加算があります。
これだけ収入があれば、人工透析によって働く時間が短くなった場合でも、生活費を補うことができるでしょう。
人工透析を受け入れて生きる
人工透析を受けている人が、ここまで紹介してきた制度の手続きをすべて終えると、医療費の心配はほぼ無くなり、生活費についても一定の収入が確保できます。
しかし、これらの手続きをすべて行なったとしても、「血液透析」の問題点である、週に3回、病院で長時間拘束されるという問題は解決されません。
現状ではそれを受け入れて、それに合わせた生き方を考える必要があります。
お金の問題を解決したら、次は病気や、それに伴なう自分の生き方の問題に立ち向かいましょう。
また、「慢性腎臓病」(CKD)の治療は、「血液透析」以外にも、「腹膜透析」や「腎臓移植」という選択肢もあります。
自分が何を重視するのかということによって、治療方法も変わります。
自分の方針が定まったら、主治医の先生に相談することから始めましょう。
【お知らせ】この記事は2019年8月11日に内容を更新しました。