資格を取るためのお金が最大70%も出る「専門実践教育訓練給付金」
「キャリアアップ」を目指す制度
「社会には出たけれど、このまま働いていても先が見えている。何かキャリアアップを考えなければ」、そんな気持ちになったことはありませんか。
2018年から始まった雇用保険の「専門実践教育訓練給付金」は、そういう人を対象にした制度です。
ここでは、制度の特徴と、目標となる職種や資格について紹介します。
少なくとも5割、うまくすれば7割の学費が出る
「専門実践教育訓練給付金」は、専門性の高い資格や知識を得るために新設されました。
最大の特徴は、補助の金額が大きいことです。
指定された教育訓練を受講するために、本人が支払った費用の50%(年間上限40万円)が支給されます。
さらに、教育訓練の後で、正職員に雇用された場合は、費用の70%(年間上限56万円)まで、追加で支給されます。
これまであった、一般教育訓練給付金では費用の2割(上限10万円)しか出ませんでした。
それが、少なくとも半分、ちゃんと就職すれば7割も出してくれるのですから、その手厚さが分かります。
支給の対象となる期間も、原則2年間、最大で3年間と長いので「看護師」のような専門性の高い資格の講座も用意されています。
専門性の高い「看護師」も目指せる
「専門実践教育訓練給付金」を使う人のイメージを掴むために、「看護師」の資格を目指すAさんに登場してもらいましょう。
Aさんは、今の会社に勤めてから3年近くになります。
仕事は営業職で、一人でこなせることが増えて、面白くなった時期です。
しかし、このまま定年まで勤めているイメージが湧きません。仕事が会社の利益になっていることは分かるのですが、この仕事をするのは自分でなくても良いのではないかという気がしています。
今の職に就くときは、もっと誰かの役に立って、必要とされるような仕事だと思っていたのに、と考える日もあります。
そんなときに、家族が入院して、手術を受けました。
付き添いで行った病院で働いている、医師や看護師を始めとする医療スタッフの仕事は、大変そうでした。しかし、どの仕事も充実しているように見えたのです。
看護師になる方法を検索していると、「専門実践教育訓練給付金」という制度があることを知りました。
学費が半分出るのであれば、なんとか続けられそうな気がします。
Aさんは看護専門学校に通って、看護師を目指す自分を想像してみます。
2年から3年の加入実績が必要
「専門実践教育訓練給付金」は雇用保険による制度ですから、雇用保険に加入していることが条件となります。
そして、原則として「3年以上」、初めて使うときは「2年以上」の加入期間が必要です。
つまり、Aさんのように、社会に出て2~3年以上勤めている人が、改めて自分の将来の進路を考えたときに利用する制度なのです。
資格取得を目指す講座が多い
「専門実践教育訓練給付金」に指定されている講座の半分以上は、国家資格か公的資格を取ることを目指すものです。
目標となっている資格を、講座数が多い順に挙げてみましょう。
看護師、介護福祉士、美容師、調理師、保育士、歯科衛生士、社会福祉士、はり師(針師)、柔道整復師、准看護師、栄養士、精神保健福祉士、助産婦、理容師。
いずれも、その資格がないと、その仕事に就けない本格的な資格です。
学んでいる間の生活費も支援
しかし、目指す資格によっては、長期間の通学が必要なものもあります。
典型的なのが「看護師」なので、さきほどのAさんに登場してもらいましょう。
Aさんは、看護師になることを考え始めますが、専門性の高い資格だけに、全日制で3年間の通学が義務づけられているものがほとんどです。
いくら、学費が半分出るとはいえ、今の仕事を辞めて、3年間も専門学校に通い続けることは現実的ではありません。
貯金や退職金、雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)にも限界があります。
あきらめかけたときに「教育訓練支援給付金」という制度があることに気がついたのでした。
2022年まで期間限定
「教育訓練支援給付金」は、いくつかの条件を満たすことによって、教育訓練を受けている期間中に手当(お金)が貰えるという制度です。
主な条件は次の通りです。
- 専門実践教育訓練の受講開始日が2022年3月31日以前である
- 専門実践教育訓練の受講開始時に「45歳未満」である
- 離職してから1年以内に専門実践教育訓練を開始する
貰える金額は、雇用保険の基本手当の80%です。
失業手当の金額は、離職する前の賃金の45~80%です。
つまり、「教育訓練支援給付金」の金額は、働いていたときの賃金の6割ぐらいが上限です。あまり多いとは言えません。
しかし、卒業できる見込みがある間は支給が続くので、勉強を続けるためにはありがたい制度なのです。
手続きには時間が掛かる
Aさんは、「教育訓練支援給付金」の存在を知って、かなりまじめに検討を始めました。
そして、「専門実践教育訓練給付」を手にするまでには、長い道のりがあることを知ります。
まず、申込みの前に、専門のキャリアコンサルタントによる「訓練前キャリアコンサルティング」を受ける必要があります。
そして、就業の目標、職業能力の開発・向上に関する事項を記載した「ジョブ・カード」という書類を作ってもらいます。
しかも、ここまでの手続きを受講開始日の1カ月前までに終わらせておく必要があります。
Aさんが目指す「看護師」の講座は4月に始まりますから、今年はもう間に合いません。
でも、来年の4月から、指定の専門学校に通うために、いろいろな準備が必要ですから、これで良かったのでしょう。
なによりも、自分が目指す「看護師」という職業について、ほとんど何も知らないのです。
そもそも、看護専門学校に入るのに、どんな試験があるのでしょう。
看護師になれたとしても、どんな仕事なのか、どんな資質が必要なのか、どれぐらいお金が貰えるのか、知りたいことはたくさんあります。
そして、学費や生活費のために、少しでも貯金を増やしておく必要もあります。
Aさんは、やらなければならないことのメモを、スマホに打ち込み始めました。
教育訓練支援給付金の金額は知っておこう
Aさんのように、「教育訓練支援給付金」を前提にして生活費を考えるときは、特に手続きが重要です。
もし、何かの条件を見落としていて「教育訓練支援給付金」が受けられなければ学校に通うことができません。
また、金額を計算してもらったら、思っていたよりも少なくて生活できないという可能性もあります。
ですから、いきなり、今の仕事を辞めてはいけません。
まず、ハローワークに行って、相談することから始めましょう。
必要な手順や書類を確認して、手続きに漏れがないようにしてください。
今年の場合、4月1日付の新規指定講座の発表は1月の末日でした。
その頃までに準備を整えておき、申し込める講座が分かった段階で、4月から通う学校などを決めれば良いでしょう。
もちろん、入学試験がある場合は、もっと以前から勉強を始める必要があります。
資格取得だけではなく、幅広い講座がある
なお、この記事では、特に専門性が高く、訓練期間が長い「看護師」を例に取りましたが、「専門実践教育訓練給付金」の対象は幅広く用意されています。
同じ資格を目指すのであっても、例えば「介護福祉士」の場合は、通信制で2カ月程度から講座があります。
自分の目指す資格と、費やすことができる時間によって、講座を探すと良いでしょう。
さらに「専門実践教育訓練給付金」は、公的な資格取得だけが目的ではありません。
例えば、次のような講座もあります。
- 職業実践専門課程 例:商業実務、工業関係
- 専門職学位課程 例:法科大学院、司法試験合格
- 大学等の職業実践力育成プログラム 例:保健、社会科学
- 情報通信技術に関する資格取得 例:シスコ技術者認定、ネットワークスペシャリスト
- 第四次産業革命スキル習得講座 例:AI、データサイエンス
今の仕事を辞めることを前提にしなくても、現在働いている職種について不足している専門知識を学んだり、必要な資格を取得するために利用することもできます。
まず、厚労省の「検索システム」で目的のための口座を探すところから始めましょう。