介護離職をした人の半分以上は「負担が増した」と感じている

[2019/4/22 00:00]

介護離職した正社員へのアンケート

親の介護をするために、今の仕事を辞めてしまうことを「介護離職」と言います。

この記事では、厚労省が行なった「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」のデータを使って、介護離職をした人の状況を見ていきます。

この調査は2013年1月にインターネット経由で行なわれ、介護離職をした男女994人から回答を得ています。

回答者は、介護離職の際には、全員正社員でした。

正社員が会社を辞めるというのは、大きな決断を伴います。

その決断の理由を探るために、介護の対象となった親の状況から見ていきましょう。

介護認定の前に離職してしまう人がいる

まず、「介護している父母の要介護認定状況」を見てみましょう。

「要介護認定」というのは、介護保険を利用する際に、必ず必要となる診断です。

要介護認定は、介護保険の入り口であり、自宅であっても施設であっても親の介護をする上で避けては通れません。

要介護認定により、客観的に介護の対象者の状況を判断することで、介護保険で利用できる金額が決まります。

要介護認定は、次の7段階で評価されます。

  • 要支援1、2 なんらかの支援が必要
  • 要介護1、2 部分的な介護が必要
  • 要介護3、4 全面的な介護が必要
  • 要介護5 介護なしには日常生活を営めない

グラフを見ると、親の状態が「要介護1,2」と「要介護3,4」が多くなっています。

それぞれ、ある程度の介護が必要な状況であることは間違いありません。

出典:データを基に編集部が作成

ただし、気になることがあります。「申請していない/非該当」という人が22%、「わからない/申請中」が9%もいることです。

この2つを合わせた31%の人がどういう状況かというと、次の3つが考えられます。

  • 介護保険を利用していない
  • 介護認定では介護が必要と判断されなかった
  • 介護認定が下りる前に退職した

つまり、客観的には、対象である親が介護が必要な状況であるかどうかが確定していないのに、自分の判断で退職してしまっている可能性が高いでしょう。

少なくとも、介護認定によって、親の状況が客観的に判断できるまでは、離職を思いとどまった方が良いでしょう。

どこを基準とするかと言うのは難しいのですが、介護の必要な人を対象とする施設である、特別養護老人ホームの入居条件が「要介護3以上」となっているように、「要介護3」が一つの目安になると思われます。

半分以上の親は「認知症ではない」

親の状況を見るときに、介護認定と同じぐらい重要な要素は「認知症の有無」です。

たとえば、介護認定が「要介護1,2」であっても、認知症の症状が出ている場合は、「親を放っておいてはいけない」という気持ちになるものです。

しかし、介護離職をした人の親について見ると、半分以上は「認知症ではない」とされています。

一人で放って置くことができない「重度の認知症」という人は1割以下です。

介護認定のときもそうでしたが、もう少し、状況が進むのを待ってから離職を決断しても良いと思われます。

出典:データを基に編集部が作成

離職の理由は「仕事と介護の両立が難しい」

介護離職をした人は、どんな理由で離職を決めたのでしょうか。

一番多いのは、「仕事と介護の両立が難しい職場だった」です。

回答者の半分以上を占めており、次に多い「自分の心身の健康状態が悪化した」の2倍以上あります。

出典:厚労省

介護離職をすると「負担が増す」

介護離職によって、介護に専念するようになると「楽になれる」のでしょうか。

「離職後の変化」に対する回答を見ると、「非常に負担が増した」と「負担が増した」という人が多いことが分かります。

「精神面」「肉体面」もそうですが、特に「経済面」での負担の増加を感じている人が多くなっています。

介護離職をしたからと言って楽になれるわけではないことが分かります。

出典:データを基に編集部が作成

「正社員」に戻れた人は半分

また、介護離職は、自分のキャリアにも大きなダメージを残します。

介護を終えて再就職した人の働き方を見ると、「正社員」に復帰できている人は半分しかいません。
そして、4分の1は「無職」のままです。

出典:データを基に編集部が作成

再就職までにかかった期間をみても、その大変さが分かります。

男女とも、再就職までに半年以上かかったという人が、半分を超えています。

特に女性の場合、半分以上の人が、再就職までに1年以上かかっています。

出典:データを基に編集部が作成

介護は一人ではできない

親の介護が始まるときは、ほとんどの場合、いきなり状況が襲いかかってきます。

それまで元気だった親に症状が出て、介護が必要かもしれないという状況になると、正常な判断をすることは難しいものです。

責任感のある人ほど、誰かに任せるのではなく、自分が介護を担わなければならないと思い込んでしまっても無理はありません。

しかし、介護は一人だけでできるものではありません。

特に「要介護3」以上の状態の人を、一人で介護し続けることは、介護をする側も受ける側にも大きな負担です。

そして、介護離職をしても楽になるわけではありません。

介護保険で負担が軽くなってはいますが、介護にはお金が掛かり続けます。

介護はいつかは終わるものですが、いつ終わるかは誰にもわかりません。

そのため、介護者には精神的な負担が重くのしかかります。

会社という場から切れてしまうと、不安をまぎらわせることもできません。

さらに、仕事に復帰しようと思っても、もとのように正社員に戻れる確率は半分しかありません。

誰かに相談することから始めよう

もし、自分の親に介護が必要という状況が発生したら、どうすればよいのでしょうか。

まず、介護保険を利用するための入り口である、地域の役所の窓口か、「地域包括支援センター」に相談に行きましょう。

申請から1カ月ほどで、介護認定の判断が下ります。

それまでは、会社勤めを続けていても、有給休暇や介護休暇などを利用して時間を作れるはずです。
介護認定が出たり、認知症などの医師の診断が出るころには、自分の親が、どれぐらいの介護を必要とする状況であるかが分かってくるでしょう。

その上で、会社の総務部門や上司と相談して、仕事を続けるかどうかを判断しても決して遅くはありません。

[シニアガイド編集部]