【特別インタビュー】高齢者から若年層まで『生活困窮者支援事業』に取り組む「サンコーライフサポート」

[2019/5/24 00:00]

熊本県中北部にある合志市(こうしし)は、人口6万人の都市。熊本市のベットタウンであり、東京エレクトロン九州や三菱電機の工場などが集まることから、若年層の人口が急激に増えている。

そんな合志市にあるのが、株式会社サンコーライフサポートだ。

同社は、福岡No.1の不動産会社である三好不動産のグループ会社の一つ。主に、サービス付き高齢者住宅やデイサービスを展開している。

中でも特筆すべきは、同社の『生活困窮者自立支援事業』だ。

この事業は高齢者に限らず、若年層の生活困窮者までフォローしているという。いったいどのような取り組みなのか。株式会社サンコーライフサポートの代表である橋本一郎氏と、総括責任者である上野志折氏、総合支援室室長の原川希志氏にお話を聞いた。

橋本一郎氏

過疎地に生活困窮者、若年層の増えた地域には引きこもりやニートが

御社近隣の自治体に、生活困窮者がいらっしゃるという相談があったとのことですが、具体的にどのような実態があるのでしょうか。

【原川】自治体によって地域特性も違いますが、相談の内容も違います。人口の減っている過疎地域は、生活困窮と言われる人たちが増えています。しかもなかなか声を出せない、潜在的な生活困窮者がいるのです。

一方、若年層の困窮者の相談も増えています。定着した就労ができない方や、税金の滞納がかさんでいる世帯です。生活困窮の枠組みというのがなく、“制度のハザマ”と言われた人たちといえるでしょう。

ここには、引きこもりやニートといわれる方々がいます。いわゆる“8050問題”で親の年金を頼って、働かない世代です。そういう人たちを救おうということで、弊社の生活困窮者自立支援事業が生まれました。

この事業は、どんな人でも支援が受けられます。以前は各自治体の相談員が窓口でしたが、手をさしのべられなかった状況がありました。

かつてコミュニティは、山間部へ行くほど強いものがありました。共助があった分、若年層のもつ“地域との連携の希薄化”が浮き彫りになっていったのです。

隣近所に誰が住んでいるかわからず、孤立している世帯もあります。しかも高齢者は耐え忍んできた世代だからか、自分たちは生活困窮者なのかさえもわからないという状況がありました。毎月数千円で暮らしており、現状がごく一般的な生活だと思っているわけです。

一方、若年層は、気軽に生活保護の相談に来る人が増えているのかもしれません。日本は制度が充実しているからなのかもしれませんが、簡単に「生活保護を利用したい」と言います。こうした複合的な課題が、浮き彫りになりました。

行政の力を借りず、その方がもっている資産や労働力で工面する

生活保護を受けていない、いわゆる低所得者層が最も苦しいといいます。その低所得者層に向け、何か行なっていることはございますか。

【橋本】そういう方は、要するにキャッシュがないわけです。不動産資産はあるけれど、キャッシュがないという高齢者の方も少なくありません。弊社統括次長の上野は看護師でケアマネジャーでありながら、相続コンサルタントの勉強もしています。

ケアマネジャーは経済状況も考えながら、介護プランを組み立てるのが仕事です。お客様の不動産資産についても知っていれば、相続や遺言など不安なことの相談を受けることができます。そして専門家と提携して、資金計画を提案できます。

つまりお金がないと悩むのではなく、自分の土地や財産の活用で資金調達のアドバイスができればいいわけです。ご自宅に住み続けたいご希望のある方の物件は、弊社がその物件を買い上げます。そして想定期間の賃料を前払い家賃として相殺させていただき、その差額をキャッシュでお支払いするのです。

残念ながら想定期間より早く亡くなられたら、残りの期間分のお家賃は相続人にお返しします。いわゆる〈リースバック〉を行なうのです。

また弊社の近隣の方々であればお庭の一部や車庫を借り上げ、弊社の従業員駐車場で利用する提案もさせていただいています。毎月3,000円の駐車場収入が、年金の減額支給や物価の値上がりを多少なりともカバーできるわけです。

さらに弊社のサービスを利用している方々から、定期的にお漬物や生花、足ふきマットなどを仕入れ、イベントなどでの物販も行なっています。

不動産を持っていたとしても、名義がわからないというご高齢者もいると思いますが、その場合はどうするのでしょうか。

【橋本】まず要約書を取って、どなたの名義になっているかを調べます。何年か前に、ご主人を亡くされたというご高齢の女性がいました。登記上の不動産所有者は、ご主人のままです。彼女にはお子さんがいらっしゃらないこともあり、その女性が亡くなってしまえば、その方のご兄弟が相続することになります。

我々は生前にその女性が自由に活動できるように、ご兄弟に相続放棄していただくお手伝いをしたこともあります。

子どもの引きこもりやニートを解決し、高齢のご両親を安心させる

住まいについては、ほかにどのような相談が多いのでしょうか。

【原川】「住まいを借りたいが、保証人がいない」「家賃が滞納して、住む場所がなくなった」というケースがあります。そういう方が行政に相談へ行き、弊社が相談を受けて探すというような流れになっています。収入に不安がある方は、弊社の高齢者見守り業務や宅配弁当の宅配などのダブルワークの提案です。彼らはいわゆる住宅確保要配慮者ですが、年間でも結構多いといえます。

また弊社は、一時生活支援事業(シェルター事業)もしています。例えば車上生活者を一時的に受け入れ、3カ月後の自立を目指します。つまり、自宅と仕事を探していくのです。こうした場合は、まず弊社の近くに準備したシェルターに入居していただきます。家賃が不要な3カ月間で、自立に受けて生活環境を整えるお手伝いを行なうのです。

【橋本】高齢者以外にもシングルマザーや、障がいをお持ちの方もいます。いわば、生活困窮者です。近隣のさまざまな自治体から相談がありますが、弊社がそれに応えることになります。

基本的には、生活困窮者の保障をするわけですか。

【橋本】基本的には、自立に向けた生活全般の準備のお手伝いです。全て弊社が受け入れているわけではないけれども、面談しながら“この人は働いてもらっても大丈夫だ”と判断しながら、“この資金でカバーできる”、“こういう仕事がしたいと言われている”ということを聞き出します。

仮に収入が不足しても、就労していただくことで給料が担保になっているわけです。家賃は、天引きにすることができます。住まいの初期費用は弊社が立て替えますが、これも働くことが前提です。また高齢者であれば、少額でも年金はあります。こうして得られた利用者の情報をもとに、家計をいっしょに考えます。ちなみに弊社には、家計相談を行なっているスタッフもいます。

ニートや引きこもりの場合は、お弁当の配達も難しいと思います。その場合は、どうされるのでしょうか。

【原川】弊社は各自治体と組んで、就労準備支援事業ということも行なっています。就労前に準備を整えるため“毎日出勤するようにする”、“出勤して何かをする”ことが目的です。その準備が整えば面接の練習をしたり、パソコンでの検索の方法などを学んだりします。その方が生活保護にならず、自立するための就労準備支援の委託を、自治体から受けて行なっているのです。

【橋本】当初はニートや引きこもりになっていた方々は、弊社だけで受け入れていたのです。ところが、キャパを超えてしまいました。障がい者雇用の特例子会社をつくったこともあり、そのノウハウを活かすことにしたのです。

某ハウスメーカーの社長からは、「障がい者2名を雇用したいが、大変でしょう」という相談を受けました。それで弊社は有料でコンサルティングをさせていただいたのです。

某ハウスメーカーの場合は、数十年分の契約書や図面などを、PDF化するという作業に従事する人を探していました。誰とも話さずにできる仕事ということもあり、精神障がい者の方が適任かなと感じたのです。

我々は彼らを雇うために、どんな環境が必要かという勉強会を行ないます。その企業の社員向けのものです。今年の4月1日には、二人の精神障がい者がその企業へ正社員として入社することになりました。

もちろん弊社は企業ですから、ビジネスを行なうことも大切です。その方をフォローするたびに、報酬をいただいています。

40代から50代のニートや引きこもりは、少なくありません。老親の一番の悩みは、彼らなのです。生きている間に子どもが自立して生活できるようになったら、弊社が一番の困りごとを解決したことになります。こうした関係性が、重要なのです。

住民が味方になってくれることで、自治体や社協との関係を良好に

現在自治体とは、どのような連携を取っているのでしょうか。

【原川】平成29年7月に合志市と社会福祉協議会、弊社の三者協定による委託を受け、合志市地域支え合いセンターとして被災者支援を開始しました。つまり(株式会社である)弊社は自治体から委託を受け、就労準備支援事業と一時生活支援事業、合志市地域支え合いセンターの3つの生活困窮者自立支援事業を行なっています。

合志市地域支え合いセンター

【橋本】行政が一株式会社の話を聞いてくれるきっかけになったのは、地域の方々です。地域の区長が弊社を「この地域にはこんな良い企業がある」と言って、市の政策部や市長室に、多くの接点をつくってくださいました。我々は合志市の『まちづくり事業提案』の2事業を提案し、事業認定を受けたわけです。さらに合志市の場合は100の企業・法人と、事業ごとに連携協定を結ぶ方針があります。弊社も、宅配弁当による見守り事業が該当しました。

食堂と宅配弁当事業の「ひまみちゃん食堂」

【上野】ただ“社会福祉協議会となぜいっしょに事業を進めているの”と思われる方もいるかもしれません。弊社が創業してすぐの頃から『榎ノ本区のサロン』といって、公民館での集まりがあるのです。そこに私が行き、バイタルチェックや体操の指導をしています。公民館へ行けない人は、送迎も行なっているのです。それを十数年続けているので、“地域の人を大事にしてくれる株式会社だ”と思われたのだと思います。

【橋本】社協の運営も、限られた人材と予算で大変だと思います。現在は社協と民間事業者が連携し、お互いの困りごとを解決できているのではないかと思います。

『榎ノ本区のサロン』には、30~40名の方が参加されます。弊社の看護師がその方々のバイタルを取り、個人情報の取り扱いに注意しながら身体の状況を調べつつ、健康指導を行ないます。

回数を重ねると、弊社にどんなケアマネジャーや看護師がいるということも認識してもらえ、身近に健康相談や介護保険制度の説明などもできるのです。

利用者や近隣の方々、自治体や社協などからいろいろと相談されれば、ありがたいことです。まずは、『サンコーライフサポートに頼みたい』と思っていただけることが大事だと思います。

本日は貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

【橋本一郎氏プロフィール】
株式会社サンコーライフサポート代表取締役。福岡大学法学部卒業後百貨店、ガス会社営業を経て、2002年株式会社三好不動産関連の同社専務取締役就任。2008年から現職。住生活提案企業として福岡市、熊本合志市で建築・資産活用・介護・保育事業を実践しながら、地域包括ケアに取り組む。

[今村光希]