50代と60代なら知っておきたい「特別支給の老齢厚生年金」

[2019/9/4 00:00]

支給開始年齢引き上げに伴なってできた年金

「特別支給の老齢厚生年金」という長い名前の年金があります。

簡単に言うと、基礎年金の支給開始が60歳から65歳に引き上げられたときに、制度が変わったことによる影響をやわらげるために作られた年金です。

男性は1961年4月1日より前に生まれた人、女性は1966年4月1日より前に生まれた人が対象で、60代前半から65歳になるまでの期間に、厚生年金の一部が受け取れます。

一部とはいえ、65歳より前に年金がもらえるのはありがたいことですが、3つ問題があります。

  • 年金事務所から送られてくる書類を提出していないともらえない
  • もらい忘れていて、5年過ぎると「時効」になってもらえなくなる
  • 働いている場合、「65歳未満の在職老齢年金」のために金額が減らされることがある

この記事では、3つの問題点について、注意すべきことを紹介します。

加入実績と年齢に制限がある

「特別支給の老齢厚生年金」をもらうためには、次の5つの条件があります。

  • 男性の場合、1961年4月1日以前に生まれた
  • 女性の場合、1966年4月1日以前に生まれた
  • 老齢基礎年金の受給資格期間(10年)がある
  • 厚生年金保険等に1年以上加入していた
  • 60歳以上である

つまり、「10年以上年金保険料を納めており、そのうち1年以上は厚生年金のある会社で勤めた経験がある」ことが必要です。

「特別支給の老齢厚生年金」をもらう資格がある人には、支給開始年齢に到達する3カ月前に、「年金請求書」が日本年金機構から送られてきます。

この書類に記入して、送り返していないと、「特別支給の老齢厚生年金」がもらえません。

「特別支給の老齢厚生年金」のことを知らないと、「年金の支給開始は65歳のはずだから、いま提出すると繰り上げ受給になってしまう」と勘違いしてしまう可能性があります。

ちゃんと開封して、内容を確認してください。

「特別支給の老齢厚生年金」が何歳からもらえるかは、生年月日と性別によって異なります。

  • 60歳
    【男性】1949年4月2日~1953年4月1日
    【女性】1954年4月2日~1958年4月1日
  • 61歳
    【男性】1953年4月2日~1955年4月1日
    【女性】1958年4月2日~1960年4月1日
  • 62歳
    【男性】1955年4月2日~1957年4月1日
    【女性】1960年4月2日~1962年4月1日
  • 63歳
    【男性】1957年4月2日~1959年4月1日
    【女性】1962年4月2日~1964年4月1日
  • 64歳
    【男性】1959年4月2日~1961年4月1日
    【女性】1964年4月2日~1966年4月1日

「特別支給の老齢厚生年金」の金額

「特別支給の老齢厚生年金」の金額は、老齢厚生年金が基になっています。

「特別支給の老齢厚生年金」は、「定額部分」と「報酬比例部分」の2つに分かれています。

「定額部分」は老齢基礎年金の分、「報酬比例部分」は老齢基礎年金の上乗せの部分と思えば良いでしょう。

これから「特別支給の老齢厚生年金」を受け取る人は、「報酬比例部分」のみになります。

出典:日本年金機構

「報酬比例部分」の金額は、厚生年金のある会社で働いた期間と、その間の給与で決まるので、個人ごとに異なります。

下の図は、一つの例ですが、64歳になると、「報酬比例部分」として約80万円受け取れます。

月額にすると、約6万6千円です。

20年以上勤めたサラリーマンだと、これぐらいは出ると思えば良いでしょう。

出典:日本年金機構

年金には「5年」という時効がある

日本の年金制度では、年金を受取る権利が発生してから5年経過すると、時効によって権利が消滅してしまいます。

「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れるのに、5年間手続きをせずに放置していると、もらう権利が無くなってしまいます。

手元に「年金請求書」が送られてきているのであれば、すぐに確認しましょう。もし、見つからなかったら、予約した上で年金事務所などに相談に行きましょう。

65歳未満の「在職老齢年金」は厳しい

「特別支給の老齢厚生年金」で悩ましいのが、在職老齢年金との関係です。

特別支給の老齢厚生年金は、60歳から65歳の間に受け取る年金ですが、この年令では在職老齢年金の制約が厳しいのです。

65歳未満の在職老齢年金は、厚生年金に入って働いている人の給与と年金の合計が、月に「28万円」を超えると、年金が減額されてしまいます。

この問題を避けるために、60歳の定年後は、あえて厚生年金に加入しない働き方で再雇用する会社もあります。

「特別支給の老齢厚生年金」の支給開始の前に、会社に相談してみましょう。

【2020年12月追記】


65歳未満の在職老齢年金は、2022年からは「28万円」から「47万円」に改正されることになりました。改正後は、ほぼ考慮する必要がなくなります。

繰り上げも繰り下げもできない

「特別支給の老齢厚生年金」は、年金の繰り上げ支給や、繰下げ支給の対象になっていません。

例えば、64歳から受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」を、70歳まで支給を繰下げて、金額を増やすことはできません。

基礎年金や厚生年金を繰り下げる場合でも、「特別支給の老齢厚生年金」はできませんから注意が必要なのです。

50代と60代の人は「特別支給の老齢厚生年金」の確認を

「特別支給の老齢厚生年金」は、少しでも早く年金を受け取りたいという人にはありがたい制度です。

しかし、65歳未満の在職老齢年金は制限が厳しいので、それとの関係を良く考える必要があります。

これから「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れるのは、現時点で50代の人に限られています。

まず、自分が何歳から受け取れるのかを確認し、その上で、働き方を検討しておきましょう。

また、すでに「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れる状態なのに、手続きをしていないと、年金が時効になって受け取れなくなってしまいます。

60代前半で、「特別支給の老齢厚生年金」を受け取っていない人は、「年金は65歳から」と思い込まずに、日本年金機構から書類が届いていないか再確認してください。

「ねんきん定期便」などでも分かりますから、確認してみましょう。

[シニアガイド編集部]