「次亜塩素酸水」の新型コロナウイルスへの有効性が公認されなかった理由
「次亜塩素酸水」が保留された
独立行政法人 製品評価技術基盤機構(略称:NITE)は、家庭や会社で使うための、新型コロナウイルスに有効な消毒方法を探しています。
先日は、台所用洗剤に含まれる「界面活性剤」による殺菌効果を確認して公表しました。
しかし、「界面活性剤」に続いて検討が進んでいた「次亜塩素酸水」については、「今回の委員会では判定に至らず、引き続き検証試験を実施する」として保留されてしまいました。
「次亜塩素酸水」は、一般的な除菌剤として、よく流通している製品です。
それが判定を保留された、つまり有効性が確認できなかったというのは、意外な結果です。
いったい何が理由で「次亜塩素酸水」の効果は公認されなかったのでしょう。
検討委員会が公開した資料をもとにして、確認してみましょう。
機能を保障する数値が書かれていない
NITEの検討委員会の事務局が、判定のためのに用意した資料を読むと、判定が保留された理由が推測できます。
まず、「販売実態について」から紹介します。
最初の前提として、「次亜塩素酸水」を含む製品は、「製法」「原料」「有効塩素濃度」「酸性度」の4つが明記されていないと、どれぐらい有効な製品なのかがわかりません。
しかし、実際の製品については、それらが明記されていない製品が多数あります。
それらは、「次亜塩素酸水」を含んでいると言っていますが、実際に、どれぐらいの濃度なのかもわからないというわけです。
先日、アルコールを含む除菌製品で、「アルコール度71%」と言いながら、実際はアルコール濃度が低い製品が摘発されましたが、それと同じような状態なのです。
科学的な試験でも有効性が確認できない
実際に、NITEの委託を受けた国立感染症研究所が、「次亜塩素酸水」のサンプル7つを試験したところ、新型コロナウイルスへの有効性が確認されたのは1つだけでした。あとの6つは基準をクリアできなかったのです。
さらに、北里大学において、4つのサンプルを検証したところ、すべてにおいてウイルスの不活性化効果がみとめられませんでした。
つまり、現在、市場に流通している「次亜塩素酸水」を名乗る製品の大半は、新型コロナウイルスの消毒には有効ではないのです。
「噴霧」したときの危険性が明記されていない
もう一つ、NITEが指摘している問題点があります。
それは、人がいる場所で、「次亜塩素酸」等の噴霧をすることを認めるような表示がされていることです。
少なくとも、その危険性を警告する表示が欠けています。
「次亜塩素酸水」を噴霧することは危険です。もちろん、人に用いてはいけません。
例えば、この件についてWHO(世界保健機関)は、次のように警告しています。
「COVID-19(注:新型コロナウイルス)について、噴霧や燻蒸(くんじょう)による環境表面への消毒剤の日常的な使用は推奨されない」とする。
さらに、「消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。
これは、肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない」としている。
つまり、消毒薬を噴霧することは、危険なのでやってはいけないと言っています。
同じ注意は、日本の厚労省をはじめ、米国疾病予防管理センター(CDC)や中国国家衛生健康委員会からも発せられています。
つまり、「噴霧」をしてはいけないと統一見解があるにも関わらず、商品には、その危険性を知らせる表記がないのです。
同じように、「次亜塩素酸水」を酸と混ぜたり、長期間保管していると、塩素ガスが発生する危険があります。しかし、それについても警告がありません。
「次亜塩素酸水」以外に有効な手段がある
NITEの資料を読むと分かるのは、「次亜塩素酸水」を名乗る製品の多くが、その効能を証明するための基本的な情報を欠いていることです。
実際に、科学的な実験を行なっても、新型コロナウイルスへの効果が確認できませんでした。
これでは、NITEが「次亜塩素酸水」を推奨するのをためらってしまうのも理解できます。
もし、あなたが「次亜塩素酸水」を含む製品を購入するときは、次の2つの点が書かれていることを確認してください。
- 「次亜塩素酸水」に対する「製法」「原料」「有効塩素濃度」「酸性度」の4つの情報が明記されている
- 「噴霧」や「酸との混合」の危険性を知らせる注意書きがある
それが無い製品は、アルコール度数が書かれていない「アルコール殺菌剤」と同じで、信頼できる製品とは言えません。
それに、消毒が目的であれば、すでに効果が証明されている選択肢が他にあります。
例えば、「界面活性剤」は家庭用洗剤を、「次亜塩素酸ナトリウム」は漂白剤を薄めるだけなので、潤沢かつ安価に手に入ります。
なんとなく効きそうというイメージだけで、わざわざ効果が不明な製品を選ぶ必要はありません。