文科省、学校で「次亜塩素酸水」の噴霧をしないよう通知

[2020/6/8 00:00]

「児童生徒等がいる空間で使用しないで」と通知

文部科学省が、学校を始めとする児童生徒がいる空間で、「次亜塩素酸水」の噴霧を行なわないように通知を発しました。

この通知は、2020年6月4日付けで、各種の教育機関向けに出されました。

表題は「学校における消毒の方法等について」で、その一部に「次亜塩素酸水」についての記述があります。

まず、通知の原文を見てみましょう。


〇次亜塩素酸水の噴霧について

次亜塩素酸水の噴霧器の使用については、その有効性及び安全性は明確になっているとは言えず、学校には健康面において様々な配慮を要する児童生徒等がいることから、児童生徒等がいる空間で使用しないでください。

これを読むと、次亜塩素酸水自体が悪いと言っているのではなく、それを噴霧することがいけないと言っていることが分かります。

どうして、文科省が、このような通知を出すに至ったのでしょうか。

その理由は3つあります。

  • 消毒薬を噴霧することは推奨されていない
  • 「次亜塩素酸水」の業者が噴霧することに積極的
  • 販売されている「次亜塩素酸水」の質に不安がある

それぞれの理由について、周辺の状況も含めて紹介します。

消毒薬を噴霧することはWHOも禁じている

まず、「次亜塩素酸水」に限らず、消毒薬を噴霧すること自体について見てみましょう。

WHO(世界保健機関)を始めとして、各国の公衆衛生機関では「次亜塩素酸水」に限らず、消毒薬を噴霧することを推奨していません。

例えば、WHOでは「消毒剤を人体に噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない。これは、肉体的にも精神的にも有害である可能性があり、感染者の飛沫や接触によるウイルス感染力を低下させることにはならない」としています。

つまり、「次亜塩素酸水」に限らず、消毒薬を噴霧することに対して否定的です。

「いかなる状況であっても推奨されない」という言い方は、強制力を持たないWHOにとっては、最大限の厳しい言葉遣いです。

噴霧に積極的な「次亜塩素酸水」の業者

では、なぜ文科省の通知は「消毒薬の噴霧」ではなく、「次亜塩素酸水の噴霧」と限定しているのでしょうか。

それは、「次亜塩素酸水」を販売している業者の多くが、「加湿器等に次亜塩素酸水を入れて噴霧することで“空間除菌”ができる」として、「次亜塩素酸水の噴霧」を推奨しているからです。

市場には、「次亜塩素酸水を噴霧する専用の超音波加湿器」まで存在します。

すでに、学校への導入事例も出ていたことから、文科省も「次亜塩素酸水」を指定して「噴霧を行なわない」ように通知することになったのです。

食品衛生法上の「次亜塩素酸水」と、市販の製品は別物

もう一つ、「次亜塩素酸水」を指定した理由があります。

それは、市販の「次亜塩素酸水」には、製品の質に不安があることです。

食品衛生法では「次亜塩素酸水」は、次のように規定されています。

  • 塩酸または塩化ナトリウム水溶液を電気分解することにより得られる水溶液で、10~80ppmの有効塩素濃度を持つ酸性電解水

つまり、製造方法と濃度の規定を守らないと「次亜塩素酸水」を名乗れません。

この規定に沿った「次亜塩素酸水」は、以前から学校でも使われています。

具体的には、学校給食の調理場で、生野菜などの殺菌に使用されてきました。

文科省による「調理場における洗浄・消毒マニュアル」でも、「次亜塩素酸水」は「電解次亜水」として紹介されています。

出典:文科省

このように、学校給食などで使われている「次亜塩素酸水」は、製造方法と濃度が指定された、管理された製品です。

しかし、パウダーやスプレーの形で流通している「次亜塩素酸水を含む製品」は、製造方法や濃度などを明記してないものが多く、食品衛生法上の「次亜塩素酸水」とは別物と考えるべきです。

WHOの勧告がなくても、性能が不明な液体を噴霧器に入れて、人のいる空間に撒き散らすことは、あまり好ましいこととは思えません。

なお、一般に販売されている「次亜塩素酸水」が、実際にどれぐらい効果があるのかは、「製法」「原料」「有効塩素濃度」「酸性度(pH値)」などの表示で確認する必要があります。

逆に言えば、それらの表示がない製品は、購入の際に検討の対象から外すべきでしょう。

学校に限らず、空間への噴霧は止めるべき

最後に、文科省の通知の意味を、確認しておきましょう。

今回の文科省の通知によって、「次亜塩素酸水」の消毒効果が無効だとされたわけではありません。
また、「次亜塩素酸水」自体が危険だというわけでもありません。

学校給食の調理場の例のように、管理された状態で使うのであれば、まったく問題はないのです。

今回問題となっているのは、製造方法などをあいまいにした、効果が判然としない製品が流通していることと、その製品の有効性を拡大解釈して空間への噴霧を行なおうとしたことです。

そういう意味では、文科省が素早く対応して、学校への導入を止めた通知をしたことは、肯定されるべきです。

そして、病院や老人福祉施設、そして一般家庭やオフィスでも、「人のいる空間」への噴霧などは中止するべきです。

手元にある「次亜塩素酸水」は、噴霧などに使用せず、家具の表面の殺菌などの一般的な用途にとどめておくことをお勧めします。

[シニアガイド編集部]