第53回:全葬連 石井時明会長に聞く「コロナ禍」の影響と対応策“戸籍のない"葬儀社が多く、国の指針すら周知できないのが最大の問題
全日本葬祭業協同組合連合会(以下、全葬連)は、葬祭を専門とする専門葬儀社の商業組合団体で、全国1,280社の専門葬儀社が加盟しています。
コロナ禍による葬儀業界への影響は大きく、全葬連は1,280社の先頭に立って対応策を講じてきました。
しかし、全葬連が対応するだけでは、いかんともしがたい問題や課題もあると言われます。
そこで、コロナ禍は、葬儀業界や全葬連加盟葬儀社にどのような影響を及ぼしたのか。
それに対し、全葬連としてどのような対応策を講じたのか。残された問題/課題は何か――などについて石井時明(いしい ときあき)会長にお聞きしました。
葬儀社を届出制にして、“業界の戸籍"を作る必要がある
まず、コロナ禍が葬儀業界、あるいは全葬連さんに加盟している葬儀社にどのような影響を及ぼしたのか。それに対して、全葬連さんとしては、どのような対応されたのかについてお聞かせください。
コロナ禍によって、大きな影響があったことの1つは、感染症で亡くなられた方のご遺体をどのように扱ったらよいのかです。当初、現場では相当混乱が起きました。
これに対し全葬連では、加盟社に対して、2019年1月31日に第1報を通知してから、厚労省、通産省が同年7月29日にガイドラインを発表するまで、11報まで出しました。
このガイドラインの作成に当たっては、全葬連もいろいろ相談され、協力しましたし、ガイドラインが出された以降は、組合員さんには「ガイドラインをきちんと守ってやってください」と機会あるごとに通知したり、話したりしてきました。
ガイドラインは、「新型コロナウィルス感染症によって亡くなられた方及びその疑いのある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン」と名付けられ、遺族の辛さ、悲しみと医療従事者や葬儀社などの関係者の安全/安心にも配慮し、それらの両立を図ることを踏まえて策定されたものですね。そのガイドラインが出されてから、現場での対応はどうでしたか。
専門葬儀社では全葬連、互助会では全日本冠婚葬祭互助協会(以下、全互協)、JAではJA葬祭事業全国協議会に加入しているところには、それら業界団体を通してガイドラインは届きますし、徹底もできます。
しかし、専門葬儀社は全国に6,000~7,000社あると言われており、全葬連に加盟していない業者の方が多くなっています。それらの業者は、行政でも把握できておらず、“業界の戸籍"がありません。
ですから、それらの業者が、国が定めたガイドラインをどこまで理解し、徹底しているのかどうか、誰も分かりません。これは社会にとって、好ましくない状況です。
全葬連では、かねてより問題意識を持ってきましたが、今回のコロナ禍で問題が露呈しました。
葬儀社を始めるのなら、せめてどこかの省庁に「届け」をするなど、“業界の戸籍"をつくることが必要だと、改めて痛感しました。
業界団体に入っていない業者が、ガイドラインを守っていないとか、問題を起こしたというようなことがあるのですか。
報道はされていませんが、ありますね。調査したわけではありませんが、現場の業者同士だと分かりますから、組合員からはいろいろな話を聞きます。
例えば、ガイドラインでは、感染症で亡くなった場合、ご遺体は非透過性の納体袋に納めなければならないことになっていますが、そうしていない業者がいたとか、非透過性の納体袋からわざわざ出してしまう業者もいたと聞きました。
そんなことをやっている業者がいるのですか。
うちは業界団体に入っていないから、ガイドラインなんて関係ないとか、儲かればいいとしか考えない業者が、そういうことを行なってしまうのです。
ですから、そのようなことが起こらないように、届出制度を設けるなどして“業界の戸籍"をつくることが必要なのです。
感染死亡者の葬儀を行なわないのではなく、遺族の意向で行なえない
ガイドラインでは、感染症で亡くなった場合、遺体を非透過性の納体袋に納め、密閉し、納体袋の表面を消毒すれば、通常通り葬儀を行なうことが可能と示されました。しかし、実際には、通常通りの葬儀を行なわず、火葬のみにする遺族がまだまだ多いようですね。そのため、「葬儀社はなぜ、感染死亡者の葬儀を行なわないのか」といった論調のマスコミなどもあります。これについては、どうお考えですか。
火葬のみにするご遺族が未だに多いことは、ご指摘の通りです。
その要因にはいくつかあり、1つは、コロナでお亡くなりになった著名人のことのインパクトが大きかったことです。
すなわち、家族でも最期のお別れに立ちあえず、火葬場にも行けず、拾骨も出来ずに、お骨だけが帰宅したことで、そのことが国民に大きな影響を与えました。
その最期の場面をテレビで見た国民は、感染して亡くなったらああいう風にするのが当然、あるいは、ああいう風にしなければいけないといった思いが、未だに脳裏に残っている人が多いのだろうと思います。
2つ目は何でしょうか。
風評被害です。組合員の話を聞いていますと、感染症で家族を亡くしたご遺族は、世間に知られたくないという思いがあります。
特に地方では、コロナで亡くなったと知られると、その地域にいられなくなる懸念から、とにかく知られないようにする傾向が強い。
そのため、葬儀をせずに火葬だけにするご遺族が多いのです。感染死亡の場合、24時間以内の火葬が可能ですが、24時間を超えて火葬する際も、遺族は早く、小さく、世間に知られずに済ませたいという思いが強いようです。
風評被害は、葬儀社にもあると言われていますね。
あります。医療従事者と同じように、感染者の葬儀をしただけで、コロナがうつるといった風評被害もあるのです。
社会的使命から、感染者の葬儀を積極的に受け入れている組合員もいますが、「やればやるほど風評被害につながるので大変だ」と話していました。
一昨年7月にガイドラインが出てから1年半が過ぎましたが、今申し上げたような要因によって、コロナに対する多くの人の意識はさほど変わっていません。
3つの要因をあげられたうち、葬儀を行なわないのは、どの理由が多いという感じですか。
1番目と2番目が圧倒的に多いと思います。特に、2番目は、田舎では風評被害で引っ越した人はかなりいるそうですから、そのことを知っているご遺族は、感染死亡であることをひた隠しにするでしょうしね。
ですから、マスコミが指摘するように葬儀社が葬儀を行なわないのではなくて、遺族の意向で行なえないことが圧倒的に多いのです。
業界団体で「感染拡大防止拡大ガイドライン」を作成
コロナ禍に関し、そのほかに全葬連さんが対応策をとられたことはありますか。
コロナ禍は、コロナ以外で亡くなった方の葬儀にも大きな影響があります。そこで、内閣府が提示した「新型コロナウィルスを想定した『新しい生活様式』」を踏まえ、業界団体が共同で「葬祭業『新型コロナウィルス感染拡大防止ガイドライン』」を2019年5月29日に作成し、加盟各社にこれに則った葬儀を推奨するようにしました。
どのような内容ですか。
ご遺族、参列者に予防消毒、マスクの着用をお願いする。葬儀会場内の座席やお焼香の導線には1メートル以上、可能なら2メートル以上あけ、ソーシャルディスタンスを保つ。火葬場へのマイクロバスも間隔をあけて着席してもらう。通夜振る舞いは、大皿を避けて個々にするなど、細かく設定し、最大限の配慮をするという内容です。
このガイドラインの周知/遂行状況はいかがですか。
業界団体の加盟社向けのガイドラインはありますが、それ以外の多くの葬儀社には、そうしたガイドラインはありません。
それ以外の多くの葬儀社はどのようにしているのかも、先ほどの問題と同じように、戸籍がありませんので誰も把握できません。
コロナが収束しても元には戻らない
これは、全葬連さんではなく、個々の事業者が対応していくべき問題/課題だと思いますが、コロナ禍によって葬儀が一段と小規模化し、儀式を行なわない直葬も増えました。会長個人としては、どうみていらっしゃいますか。
おっしゃる通り、コロナによって小規模化が進みました。コロナの流行以前から「家族葬」「一日葬」「直葬」が増えつつありましたが、コロナ禍でその傾向が一気に進みました。
その要因は、コロナだから「葬儀に人を呼んではいけない」「参列することもいけない」といった認識が広がっただけでなく、コロナを口実にして「人を呼ばない」「参列しない」ということもあるのだと思います。
今後はどうなると見られていますか。
コロナが収束すると、参列者は、多少は戻るかもしれません。しかし、参列者の減少は、基本的には社会構造の変化によって起こってきていることですから、元に戻ることはありません。
故人の子供は、昔のように大人数ではなく2~3人。その下の孫は、いても1人か2人といったように、家族や親族が少なくなってきています。
亡くなるのも、今では90歳を超えることも珍しくなく、故人の社会的ネットワークは無くなっていますし、病院や高齢者施設に入っていればなおさらです。
また、喪主/施主は限りなく70代に近くて、定年退職している場合が多い。そうすると、交友範囲は小さくなっています。
ですから、葬儀に集まらないのではなく、集まる人がいなくなったのです。
葬儀の形が変わることによっても、葬儀は小規模化するようになりましたね。
そうです。家族葬がはやりだした頃には、お世話になったからと言って会葬する人がそれなりにいました。
家族葬が広く認知されてくると、友人、知人でも「来なくていい」「行ってはいけない」という雰囲気に変わり、身内だけの家族葬も増えてきました。
一日葬にしても、通夜と翌日の葬儀/告別式が同じ顔ぶれだったら、2日に分ける必要はあるのかという理由も成り立ちますから、増えています。
「なぜ葬儀が必要なのか」を消費者目線で説明できないと将来は厳しい
社会構造の変化によるものだからやむを得ないといっているだけでは、葬儀を生業としている葬儀社さんは苦しくなるだけですよね。どうしたらよいとお考えですか。
いまお話しした家族葬、一日葬の問題などは、葬儀社にも責任はあります。
ですから、葬儀社も、葬儀はなぜ必要なのか、通夜と葬儀/告別式を行なう意味は何かなどを、しっかりお伝えすることが大切ですし、全葬連に加盟している葬儀社さんは、そうした努力も行なっています。
でも、葬儀社がそういうことをお伝えしても限界がありますので、お寺さんにも本来の役割を果たしていただきたいですね。
どういうことでしょうか。
日本人の頭の中には、葬式と言えばお坊さんを思い浮かべる人が、今でも7~8割位はいると思います。
ですから、葬式に関しては、われわれ葬儀社よりはるかに影響力がありますので、お坊さんにきちんと説明していただきたいのです。
遺族に、「慣習としてこうですから」とご提案しても、それが通じなくなってきています。
慣習に従うというのは上の世代にはありますが、若い世代は、疑問符がつくと葬儀はやらなくなります。
「なんでお経をあげるのですか」「なんで戒名が必要なのですか」「お布施って何ですか」といった素朴な疑問に対して、「仏の弟子になるのだから戒名が必要なのですよ」と答えたところで通用しなくなってきているのです。
菩提寺がある檀家でもそうですか。
そうです。檀家と菩提寺の関係でも、コミュ二ケーションがきちんと取られていないと、葬儀の時にはっきりと表れます。
ですから、檀家であっても、素朴な疑問にはお坊さんが事前にしっかりと説明することも必要だと感じます。
しかし、コロナ禍になって直葬が増えました。その中には、会長が先ほどおっしゃられてように、コロナを口実にセレモニーを行なわない、つまり葬儀の必要性を感じない人もいるのだろうと私も感じます。
なぜ葬儀が必要なのか、それを消費者目線で説明できないと、葬儀社もお寺もそれぞれの将来は厳しいのかもしれません。
コロナ禍は、葬儀業界にとってマイナス面ばかりでなく、「葬儀の必要性が見直された」などとの声もありますが。
多くの人にとって、コロナ禍が死を身近に感じる機会となり、「お別れは大事」と思う人が増えたとは感じます。
また、葬儀というのは、親族が久しぶりに集まって故人の思い話をしながら交流することにより、人の命やつながりの大切さなどを再認識するという意味もあります。
そうした点では、コロナによって、人と会う、集うということの大切さを見直した人も少なからずいると思います。
我われ葬儀社は、故人様を尊ぶと同時に、そうしたご遺族、会葬者の意を組んだお別れの場を提供していかなければならないと決意を新たにしております。
葬儀社紹介サイト3社は、削除依頼に対応
コロナ禍に関わる以外のことについても少しお聞きします。葬儀業界全体、あるいは全葬連加盟葬儀社に関わる問題/課題で、全葬連さんが対応されていることについてお聞かせください。
葬儀社紹介サイトを運営する4社に対し、全葬連加盟葬儀社が契約もしていないのに、その葬儀社を紹介サイトに無断で掲載したり、それを見た消費者からの連絡先が、その葬儀社ではなく、サイト運営会社にしているのは、景品表示法や不当競争防止法に抵触するとして、2019年に当該事業者に要望書を提出しました。
この問題は、無断で掲載される加盟葬儀社が迷惑をこうむっているということもありますが、それ以上に消費者が惑わされていることが問題であったので要望書を提出することにしました。
というのは、消費者はサイトに掲載されている葬儀社に電話をかけているつもりなのに、サイト運営会社にかかり、しかも、サイトに掲載されていた葬儀社とは違う葬儀社を紹介されたりするので、消費者は余計に惑わされ、困惑するということが起こっていたからです。
要望書を出されて、結果はどうなったのですか。
2020年5月までに、4社のうち3社は、紹介サイトから削除することに応じました。
もう1社は、サイトを見た消費者の連絡先は、当該葬儀社の連絡先を紹介していますが、削除依頼には、現在まで応じていません。
応じていない1社は、何と言っているのですか。
「紹介サイトは、電話帳と同じように消費者の利便性を図っているものである」などと言っています。
葬儀社届出制度の導入要望を踏まえ、国が国内外の実態調査に乗り出す
先ほどおっしゃられていた葬儀関連事業者の届出制度に関することとして、昨年12月17日の国会予算委員会において、葬祭事業者の届出制度の必要性について、厚生労働副大臣が国内外の実態調査に取り組むことを表明しました。
全葬連さんは、かねてから様々な機関へ要請を行ない、導入を求めていたこともあって実現したことではないかと思いますのでお聞きします。届出制度について国会で議論されたのは初めてですが、どういう内容でしょうか。
公明党の山本香苗参議院議員の質問に対し、佐藤英道副大臣が答弁したものです。
山本議員の質問の概略は、「ご遺体の適切な保管/管理などの取扱に関する法的規制がない。そのため、各業態の事業者が葬祭業に参入し、契約トラブル増加やサービスの質の低下を招く事態になっている。早急な適正化に向け、葬儀業界だけではなく、消費者団体や中小企業団体からも事業者届出制度を求める声が高まっている」として、政府の対応を尋ねました。
これに対し、佐藤副大臣の答弁の概略は、「ご遺体の保管/管理に関する法的規制がないことや、事業者の届出制度が求められていることは承知している。まずは、国内外の実態調査に取り組んでいく」というものです。
これをどう受け止めていらっしゃいますか。
調査が行なわれ、国民のために少しでも早く事業者の届け出制が導入されることを期待しております。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
【石井時明(いしい ときあき)氏のプロフィール】
1956年生まれ(64歳)
〈勤務先関係〉
富士見斎場(株)、(株)さがみ葬祭、富士見環境サービス(株)各社の代表取締役会長。
1981年 (株)さがみ葬祭に組織変更し代表取締役に就任。
1986年 富士見環境サービス(有)を設立し代表取締役に就任。
1993年 富士見斎場(株)を設立し代表取締役に就任。
〈組合関係〉
1996年~98年 全葬連 青年部会部会長
2010年 神奈川葬祭業協同組合 理事長(全葬連評議員)
2014年4月~ 全葬連 副会長
2018年5月~ 全葬連 会長に選出
2020年6月 全葬連 会長に再選、現在に至る
2020年6月 葬祭ディレクター技能審査協会 会長
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【お知らせ】
本連載は、今回が最終回となります。長年のご愛読ありがとうございました。
塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。