第52回:ペット供養業界の問題・課題点と対応策
「動物ファースト」の業界に変えていきたい

[2022/2/1 00:00]


 少子・高齢化の進展や単身世帯の増加などを背景に、犬や猫などをペットとして飼う人が増えています。

 それに伴いペットの死亡数も増加しており、近年は「人よりペットの供養(葬儀・お墓など)を手厚く行なう人も増えている」との声も聞かれます。

 しかし、ここ数年は、ペットの死亡数よりペット供養業者数の増加率の方がはるかに高くなっており、業者間の競争が非常に激しくなっています。

 その結果、ペット供養業界ではいろいろな問題が起こっていると言われます。

 そこで、ペットの葬儀・納骨堂事業を手掛ける大森ペット霊堂(東京都大田区)の社長に就任してから、葬儀件数を4年半で6倍の月550~600件に伸ばした齋藤鷹一(さいとう よういち)氏にお話を聞きました。

齋藤鷹一(さいとう よういち)氏

社長就任を機に全社員を「動物好きな人」に一新

今日は、ペット供養業界の問題・課題点とその対応策についてお聞きしたいのですが、どのような方がお話しされているのかも重要ですので、まず、齋藤さんや大森ペット霊堂のことについてお聞きします。

ペットの葬儀と納骨堂の事業を行なっている大森ペット霊堂の創業は1997年。齋藤さんが大学新卒で入社されたのは2012年。5年後の2017年5月に社長に就任され、当時の葬儀件数は月100件位だったそうですが、現在の葬儀件数と全国のペット葬儀業者の中の順位を教えてください。

葬儀件数は月550~600件です。順位は、ペット葬儀を行なっている業者は今、全国に2,000社位ある中で、トップ5まではいっていませんが、トップ10には余裕で入っていると思います。

大森ペット霊堂の外観

葬儀件数は、齋藤さんが社長に就任されてから約4年半で実に6倍近くになっています。その要因は何でしょうか。

一番の要因は人です。私が社長になった時は、私を含め6名体制だったのですが、私以外は全員替えました。

それまでは、当社だけでなく他社でもそういうところが多かったのですが、動物にフォーカスして大切に扱うのではなく、火葬してお骨にすることをただ作業として行なっているという状態でした。

動物に対する想いは人によって異なりますし、その想いは簡単には変えられませんので、全員替えることにしました。

一般募集して新たに採用した7名は、全員が葬儀・納骨は未経験ですが、ペットの介護士、ドッグトレーナーなど動物関係の仕事やボランティアなどに携わっていて動物を大切にする想い持った人たちです。

他のペット霊園で大きな売上実績を上げてきたという人でも、動物を大切にする想いに欠けた人は採用していません。

その後、スタッフは14名に増えましたが、採用したのはいずれも動物を大切にする想いを持った人たちです。

そういうスタッフだから、葬儀件数も急増したということですね。

そうです。当社のスタッフは、バリバリの営業マンなどと比べたら話し方やコミュニケーションの取り方などは劣っていますが、でも、動物を大切にする想いは人一倍持っていますので、「こういう風にやってね」と指示しなくても、動物を丁寧に扱ってくれます。

その丁寧さは、動物好きでない人には分かりにくいかもしれませんが、ペットの飼い主さんには「この人だったら、この会社だったら、うちの子を大切にしてくれるな」ということが分かるのです。

ですから、当社ではクレームは一切ありません。ミスして叱られることはありますが、クレームまでにはなりません。

こうした当社の姿勢や仕事の仕方が口コミで広がり、葬儀件数が増えているのだと思います。

注文された花を置き、お見送りをする準備をしているところ

ペットの葬儀で重要なことは、人間の葬儀とはちょっと違うのでしょうか。

私は違うと思います。ペットの葬儀を行なう業者は、当初は、人間の葬儀を行なっている業者が派生的に行ない始めたところが多いのですが、彼らのペット葬儀のやり方は、人間の葬儀と同じように故人より残された家族のケアを重視しています。

しかし、ペットの葬儀では、飼い主さんは、自分に対するケアよりもペットのことを大切に、丁寧に扱ってほしいという気持ちが強い人が多いのです。

ですから、ペットのことを一番に大切にせずに、飼い主さんを大切にしても飼い主さんの心には刺さりません。そこが、人間の葬儀と一番違うところです。

だから、私は「うちは動物フォーカスな霊園」と言っています。

天国のたもとと言われている「虹の橋」について説明しているところ

収益は、動物のためのボランティア活動に使う

葬儀件数が増えている要因として、そのほかにいかがでしょう。

社長に就任したと同時に、動物のためのボランティア団体「友愛の会」を結成し、大森ペット霊堂の収益を、その団体のボランティア活動費として使っています。

ボランティア活動の内容は、動物園や水族館へ遊具の提供、園内で亡くなった動物たちの火葬や慰霊祭のお手伝い、事情のある動物たちの保護や里親探し、人の役に立つために生まれてきた盲導犬や警察犬などが亡くなった際に火葬・供養を無償で行なうなどです。

ボランティアとして登録しているスタッフは約60名います。

ボランティア活動は、収益の使い道を透明化するためと、当社の動物に対する姿勢を示すために行なっていることですので、ホームページやパンフレッットでも大きく謳っています。

それらを見て、葬儀・納骨堂を依頼してきたり、当社で葬儀・納骨堂を利用された方からの紹介が増えてきました。

ボランティアなどの社会貢献活動は、収益がたくさん出るようになってから行なうのが一般的ですが、社長に就任されたと同時に始められたのですね。

私は、動物が好きなので、動物のためになることをやりたいというのが一番の希望です。

ですから、ペット供養で収益が出たなら、供養以外にも動物のためになることに役立てていきたいという気持ちで行なっています。

当社のスタッフは全員動物好きですので、収益をそのように使うことは理解しているだけでなく、動物のための社会貢献をできることに仕事のやりがいも感じていると思います。

大森ペット霊堂では、動物の保護活動にも尽力している

ペット供養をビジネスにするお寺が出てきている

では、ペット供養業界の問題・課題点についてお聞かせ下さい。

ペット供養を葬儀とお墓・納骨堂に分け、まず、お墓・納骨堂の問題点と課題点についてお話しします。

お墓・納骨堂の現状ですが、ペットと一緒にお墓に入りたいというご家族様が多い中で、宗教的な観点から、人とペットは別だよというお寺さんの考えが今でも根強く、宗教法人のお寺では、同じお墓の中に一緒に入るというのは難しい状況です。

そのため、ペットと一緒に入れますという民間業者が増えてきていることに加え、宗教法人のお寺の中にもそういうところが出てきており、私は、特に後者が問題と考えています。

お寺の中にもそういうところが出てきているのですか。

出てきています。いわゆる伝統宗教ではなく、伝統宗教から独立した新興宗教のようなところです。

宗教というのは、元々はビジネスではないと思うのですが、そうしたお寺が、新たな収入源を得るビジネスとして行なっています。

私は、このままでは、ペット供養をビジネスとして行なうお寺がさらに増えてくるのではないかと懸念しています。

ペットと一緒に入るには、「自然葬」も選択肢のひとつ

その問題・課題点を、齋藤さんはどうしたら良いとお考えですか。

宗教を語ってビジネスを行なう、いわば「ビジネス宗教」が出てきている背景には、「ペットと一緒にお墓に入りたい」という人たちが増えてきたという時代の変化と、「人間と動物は別」という伝統宗教の考え方があるからだと思います。

なので、「ビジネス宗教」が増えないようにしていくには、「人間と動物は別」という宗教の考え方を変えなければなりません。

しかし、何千年も続いてきた宗教の基本的な考え方を変えるというのは、その宗教の存立基盤に関わることですから、簡単には変わらないでしょう。

そうすると、私は、動物をペットとして飼う一人ひとりの意識を変えるしかないと思うのです。

具体的には、どういうことでしょうか。

現状では、何でも自分の思うようにしたいというのは我がままになってしまいますから、私はやはり、ペットが入れるお墓と、人間が入れるお墓は別にすべきだと思います。

それでも、どうしてもペットと一緒に入りたいというのであれば、私は、お墓という概念を一度取り払って考えるのがよいだろうと考えています。

例えば、海洋散骨とか樹木葬といった自然葬であれば、お骨を自然に還すという形でペットと一緒になることができます。

亡くなったペットのお骨を、例えばハワイの海に散骨し、自分が亡くなった際にも、お骨はハワイの海のペットと同じ場所に撒いて欲しいと子どもや親族に託しておけば、一緒になることができるわけです。

ただ、自然葬はまだ定着していませんので、自然葬にすることには強い抵抗感を持つ方もいらっしゃるとは思いますが、同じお墓でなければ嫌だという考えだけで探すのではなく、お墓の概念を取り払って探すのも一つの方法だろうと思っています。

大森ペット霊堂では、どうされていらっしゃるのですか。

当社は、ペット専門ですから、ペットだけのお墓(納骨堂)は持っています。あとは、海洋散骨と樹木葬を行なっています。

樹木葬は、桜の木の幹のところにお骨を流し、木の栄養分として木を成長させるという形です。

でも、当社で葬儀だけを行ない、お骨は自宅に持ち帰る飼い主さんの方が多いです。

それは、自分が亡くなった時に、ペットのお骨も自分と同じお墓に入れたいと思っている飼い主さん多いからだろうと思います。

ですから、人とペットが一緒に入れるお墓をどうしていくのかは、これからもっと大きな課題になっていくでしょう。

表示料金と支払い料金が乖離しすぎている

次に、ペットの葬儀についての問題・課題点をお聞かせください。

一番の問題は、表示している料金と、実際に支払う時の料金が違うことです。人の葬儀では、その違いが縮小してきたようですが、ペットの葬儀では、違いが大きくなってきています。

例えば、5万円と表示されていて、電話でも5万円ですと言っていても、いざ予約を取ってその業者の施設に葬儀に行った時に、「骨壷はいろいろあります。これは2,000円、こちらは3,000円です。どれにしますか」と言われる。

事前に骨壷はオプションとは言われておらず、その場で初めてオプションだと分かるというケースも多いのです。

あるいは、火葬の時に、「火夫さんに心付けとして3,000円ほどお支払いただけますか」と、事前にまったく知らされていない料金を請求されることもあったりします。

このように、オプションがドンドン増えていって、5万円と言われたものが、10万とか12万円になったりする。こういうのが最近、すごく増えています。

もっとひどいケースもあるのですか。

私が知っているケースでは、当初は3万円と言っていたのに、30万円を払わされたというケースがあります。

火葬中に30万円と言われ、飼い主さんが「3万円としか聞いていない」と言うと、「初めから30万円と言いましたよ。もし30万円払わないのだったら、火葬の火を止めますよ」と言われたそうです。

30万円を請求するというのはレアケースだとは思いますが、この仕事は、ご遺体を預かってしまえば、「火葬の火を止めますよ」という脅しも、やろうと思えばできてしまうのです。中には、そういう心無い業者もいます。

30万円はレアケースにしても、オプションをどんどん増やして単価アップを図る業者が増えてきているのは、業界事情もあるわけですよね。

そうです。ペットの高齢化が進んで亡くなるペットは増えていますが、それ以上に、ペットの葬儀は儲かるという認識を持つ人・企業が多いために参入業者が多くて、葬儀件数が減少している業者が多くなっています。

葬儀件数が増えている業者は、日本全国で当社を含めて10社もないと思います。

先ほど、ペットの葬儀業者は全国で2,000社位とおっしゃっていましたが、業者数はどのようなペースで増えているのですか。

5年前位は1,000社位だったので、この5年間で倍増しています。

そうなると、単価を上げるしかなくなって、単価をどんどん上げるところが増えているのです。

しかし、飼い主さんに料金をきちんと説明しなかったり、ペットのご遺体を預かってからオプションの話をするなど、飼い主さんがオプションを付けざるをえないような状況を作って単価を上げるというのは、大きな問題です。

業者を選ぶ際は、見積り書を取り、施設を見学する

飼い主が、この問題を回避するには、どうしたら良いとお考えですか。

ペットが亡くなってから葬儀のことを決める飼い主さんがとても多いのですが、亡くなってから決めても正常な思考では考えられません。

ですから、人の葬儀と同じように、生前に前もって考えたり、決めたりしておくことが一番重要です。

生前に、亡くなってからでもそうですが、重要なことの1つは、見積もり書をきちんと取ることです。

人の葬儀では、見積書を作るのが当たり前になってきているようですが、ペット葬儀では、作ってくれない業者の方が多いですから、ペット業者を選ぶ時の判断材料にもなります。

重要なことの2つ目は何ですか。

葬儀・お墓施設を見学させないところが今でも結構ありますから、見学させないところは避けることです。

見学させないところは、「他のご家族様がいらっしゃいますから、今は見学できません」とか、見学予約を取りたいと言っても、「急に葬儀が入ることもあるので、見学は受けつけていません」などと言いますので、気をつけましょう。

施設見学させない業者は、どのくらいありますか。

正確な数字は分かりませんが、半々位でしょうか。

ほかに、気をつけた方が良いことはありますか。

ホームページに、スタッフの顔を載せていないところです。

スタッフを採用してもすぐ辞めてしまうようなところは、顔写真は載せませんから気をつけた方が良いです。

ペット供養業界では、若い人は嫌気がさして辞める人が多い

ペット供養業界の問題・課題点として、他にはいかがですか。

ペット供養業界には、若い従業員がいないことです。

当社には、若い方が来てくれていますが、業界全体では、50~60代が多く、40代でも若いと言われるくらいで、20~30代は全然いません。

業界というのは、若い人がいることにより活気がでますし、若い人の新しい考え方なども取り入れることによって進歩発展していくと思うのですが、ペット供養業界にはそれがなく、昔からあまり変わっていません。

例えば、私は今32歳ですが、業界では最若手と言われており、私が何かを言っても、まともに聞いてもらえません。

今こうしてお話させていただいて記事になったとしても、業界の人たちは多分、「齋藤がまた騒いでいるわ」くらいにしか受け止めないと思います。

ペット供養業界に若い人がいないのは、なぜですか。

若い人が入ってきても、辞めてしまう人が多いのです。現実を知って、嫌気がさして辞めてしまうのだろうと思います。

嫌気がさすとは、どういうことですか。

例えば、ペットごとに個別で火葬しますと謳っていても、何体も一緒に火葬して、残った焼骨を個別に骨壷に入れているところがあります。

あるいは、ペットの扱い方が、飼い主様が見えないところではひどいところもあります。例えば、ご遺体を火葬炉に入れる時にぶん投げたり、ご遺体が入っている箱を蹴飛ばしたりするところです。

私も全国の霊園を結構観ていますので、そうしたことを目にすることがあります。その時は、無性に腹が立って、「この人、ぶっ飛ばしてやろうか」という気持ちになります。

若い人で、この仕事を希望する人は、自分もペットを亡くしたから、自分と同じような気持ちになる人を助けたいといった思いで希望する人も多くいます。

そういう人たちが、今言ったような現実をみたら、嫌気がさし、こんなところで働けるかと考えてしまうと思うのです。

心ある業者は、全業者のうちの10%

業界に若い人たちが入って、定着するようにするには、どのようにしたら良いと思いますか。

業界が変わらないといけませんが、すぐに変わることは期待できませんので、現状での方法は1つしかないと思っています。

私が窓口となって、心ある良い業者を紹介するという方法です。

私は全国に知り合いがかなりいますし、その中には、心を持って良い仕事をしている業者もいますので、紹介が可能です。その方が速いし、確実です。

心ある業者は、全国にどのくらいありますか。

ペット供養業者の紹介を行なっている、ある大手さんは、結構厳しく業者を選定しており、選定されているのは、全業者のうちの数パーセントでしかありません。

これはちょっと厳しすぎるにしても、心あるところは精々10%ではないでしょうか。

最後に、今後の抱負をお願いします。

私は、実はペット霊園とは知らずに大森ペット霊堂に入社しました。

入社して、ペット供養業界への不信感を抱き、動物のためになるようにこの業界を変えたいという思いで今日までやってきました。

今後も「動物ファースト」の業界に変わるように尽力していきたいと思っています。

今日はとても貴重なお話をありがとうございました。



【齋藤鷹一(さいとう よういち)氏のプロフィール】

特定非営利活動法人SPA 代表

1989年 東京都生まれ(32歳)

2013年 大森ペット霊堂入社

2015年~16年 大森ペット霊堂休職(犬猫の勉学をしに渡米)

2017年 大森ペット霊堂 代表就任

2019年 特定非営利活動法人SPA設立 同時に大森ペット霊堂 代表退任

現在は、海外で勉学をしてきたことを生かすために、犬や猫の保護活動を行ない、犬猫殺処分問題を解決するために奮闘している。

大森ペット霊堂には、現在アドバイザーという形で関わりを持つ。

年間200頭以上の命を繋ぎ、団体としても、個人としても、多くのメディアに出演をしている。

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塚本 優(つかもと まさる)
終活・葬送ジャーナリスト。早稲田大学法学部卒業。時事通信社などを経て2007年、葬祭(葬儀、お墓、寺院など)を事業領域とした鎌倉新書に入社。月刊誌の編集長を務めたほか、終活資格認定団体を立ち上げる。2013年、フリーの終活・葬送ジャーナリストとして独立。 生前の「介護・医療分野」と死後の「葬儀・供養分野」を中心に取材・執筆活動を行なっている。

[塚本優]