旦木瑞穂の終活百景 第四景『終活コミュニティカフェ訪問記』
今回は、2015年に東京 江東区にオープンした終活コミュニティカフェ「ブルーオーシャンカフェ」を紹介します。
「ブルーオーシャンカフェ」オープン!
終活コミニュニティカフェ「ブルーオーシャンカフェ」は、2015年2月、東京都江東区住吉にオープンしました。
店舗は、都営地下鉄新宿線・東京メトロ半蔵門線「住吉」駅からすぐの場所です。
カフェのテーマは、名前にもあるように、「青い海」。外観はブルーを基調にした爽やかな印象。白いサラサラの砂浜と、透き通るオーシャンブルーの海を思わせる、シーサイドカフェのようなイメージです。
潮風を浴びて年月が経ったようなダメージが施された雰囲気のあるドアを開けると、明るい白木の木目を活かしたテーブルや椅子が並んでいます。一番奥のキッチンスペースの壁はオーシャンブルー。左上には大きなモニターが備え付けられていて、南の島や海の映像が映し出されています。
「ハワイのような南国リゾートをイメージしています。ハワイでも散骨クルーズを行なっているので、ハワイには多少馴染みがあります。ハワイが好きな日本人も多いですしね」
これだけではまるで、普通にオシャレなカフェですが、右側の壁に目をやると、本棚があり、たくさんの本が並んでいます。近づいてみると、どれも終活に関する本ばかり。さらに視線を移すと、大きなガラスケースがあり、パッと見ただけではそれと気づきませんが、中にはミニ骨つぼやお骨で作ったダイヤモンドジュエリーなどの手元供養グッズが並べられています。
「これでも終活色を減らしたんですよ。オープン当初はもっとずらっとガラスケースがあって、いっぱい骨つぼや手元供養品が並んでました。外からも見えるショーウィンドウには、仏壇が飾ってあったんですよ。オシャレで可愛いデザインの仏壇です。でも、『お客さん引いてますよ』ってスタッフに注意されました。私はこの業界にどっぷり浸かりすぎて、感覚が麻痺しちゃってるんです」と村田さんは苦笑します。
終活コミニュニティカフェとはいえども、終活の相談があるのは1日1~2組。ほとんどのお客さんが、カフェ利用が目的で来店されます。
オープンしたばかりの頃は、近所の人に「終活だなんて、ドキッとすること言わないで欲しい」などと警戒されたることもあったそうです。でも徐々にお客さんの数も増え、近所の人たちも慣れてきました。私が訪問した日も、近所のママ友の集まりのようなグループやOL、50〜60代の女性などで賑わっていました。
「ブルーオーシャンカフェ」のメニュー
人気メニューは、「ロコモコ丼」「タコライス」「B.O.バーガー」「薬膳カレー」。オープン当初はこの他にもメニューがありましたが、特に人気があるものに数を絞りました。
村田さんイチオシは、タコライスです。スープとデザートが付いて780円(税込)とリーズナブル。ドリンクはプラス200円です。
本日のスープは野菜と溶き卵のコンソメスープ。タコライスは、まあるくドーナツのように盛られたご飯に、アボガドとレタスとトマト、そしてひき肉が盛り付けられていて、彩りがとてもキレイです。
早速、ご飯の土手を崩してひとくち。
玉ねぎとともにピリッと甘辛く炒められたひき肉の味が後を引き、食が進みます。フレッシュなアボガドとレタスとトマトと一緒に食べるととってもジューシー。
デザートは「ハウピア」という、ココナッツミルクを使ったハワイのスイーツ。この日は少しアレンジして、マンゴーピューレを加え、「マンゴーハウピア」にしていました。ぷるっとした食感で、杏仁豆腐に近いイメージです。ココナッツミルクがコクを出していますが、後味はさっぱりしていました。
終活相談ができるカフェ
この終活カフェは、株式会社ハウスボートクラブ、代表取締役の村田ますみさんが手がけている事業の1つです。
ハウスボートクラブは、前回紹介した「東京湾海洋散骨体験クルーズ」を開催している会社です。
この場所を探す時の条件の1つが、散骨するための遺骨が出入りするため、裏口があることが条件でした。
終活の相談は、予約をすれば確実ですが、飛び込みでも大丈夫。村田さんがいるときは村田さんが対応しますが、「ブルーオーシャンカフェ」のスタッフは全員「終活カウンセラー」の資格を持っているので、いつでも終活に関する相談をすることができます。
散骨クルーズにしても終活カフェにしても、「せっかくの出会いをそのままにしたくない」と村田さんは言います。
「これまで散骨されたご遺族が、累計で1,000人以上になります。ブルーオーシャンカフェを開いたのは、その人たちが気軽に来られる場所を作りたかったこともあります。散骨した場所を再訪するメモリアルクルーズもありますが、船に乗るということにハードルを感じる人も少なくありません。大事な人を亡くして気落ちされている方に、ふらっと立ち寄って、気軽にお喋りできるような場所を用意したかったんです」
「ここに来れば、事情を知ってる人に会えるから安心する」と言って立ち寄る遺族の方も増えてきました。
「何でもインターネットで解決できてしまう時代です。散骨にしても、クリックひとつで申し込んで、ゆうパックで送っておしまい。でも、人と人じゃないですか。この人にお願いしたい、この人になら頼めるっていう気持ちって必要だと思うんです。現代の人たちは情報に溺れがちです。何が正しくて何が悪いのか分からない。そんな方たちの道先案内人になりたい。ここは窓口でいいんです。あとは専門家を紹介しますから。でも、入り口さえ分からない人が多いことが問題なんです」
「終活」を仕事にする理由
村田さんのお母さんは、55歳と若くして亡くなりました。
それから間をおかずに、母方の祖父母も次々と亡くなりました。まだ村田さんが30歳になるかならないかの頃です。
祖父母は遺産を孫たちに相続させたいと考え、遺言書を残していました。しかしそのことで、親戚たちとトラブルになってしまいます。
村田さんは、「こんなことなら、相続放棄しよう」と決意しますが、相続放棄を申請できる期間である3カ月を過ぎていたため、もう相続放棄をすることができませんでした。
「相続放棄のような、ちょっとしたことを知ってるかどうかだけの違いで、人生が変わってしまうという現実を目の当たりにしました。親戚と遺産相続で揉めるなんて、これまで考えたこともありませんでした。
結局、村田さんの相続問題は裁判にまで発展し、親戚たちとは疎遠になってしまいました。
この辛い経験を経て、村田さんは使命感を感じます。
「知識のなさを悔やむことがないように、自分が教えてあげられるようになろう」
村田さんは現在の仕事を、『必然』だといいます。
「相続についても、誰かがやってくれると思っていたら大間違いでした。私のように辛い思いをする人を減らしたい。知らない人に教えてあげたい。誰かがやらなければならないなら、私がやろうと思ったんです」
村田さんは、噛みしめるように言います。
生き方の最初から最後まで考えられるカフェ
村田さんの中期的目標は、「ブルーオーシャンカフェ」が終活カフェとしてこの地に根付くこと。
「ここに来れば何でも解決できると思ってもらえるようになりたいですね。老後だけでなく、介護とか医療とか、亡くなる以前の問題から、生き方を考えられるカフェとして」
今年の3月から「認知症カフェ ラウレア」というイベントを行なっています。
「55歳以上の5人に1人は認知症になると言われている現代社会です。私たちも他人事ではありません。『認知症カフェ ラウレア』は、認知症の家族を持つ人が、医療・介護の専門家と気軽にお茶を飲みながら、情報交換したり相談したりできる場所を提供したいと思って始めました」
「認知症カフェ ラウレア」は、毎月第2水曜日の11時〜17時に、ブルーオーシャンカフェで開催されています。
なお、ラウレアとは、ハワイ語で「幸せ」を意味します。
「先日は、ご縁があって、妊婦さん向けのイベントも行ないました。生き方の最初から最後まで考えられる、命について考えられるカフェを目指したいと思っています」
ゴールデンウィークには「すみよしこどもマルシェ」という子ども向けのイベントを開催しました。アイシングクッキーづくりやキッズフラワーアレンジメントなど、子どもを対象にしたワークショップが店内にずらりと並び、親子連れで賑わいました。
2人の子どもを持つ村田さんは、子育て中のお母さんが居心地の良い店づくりを心がけています。
仕事に対するやりがいを聞くと、
「『こういう場所が欲しかったの、ありがとう』と、感謝の声を聞けた時ですね」
と答えてくれました。
終活をブームから文化へ
村田さんは、上智大学グリーフケア研究所の2年コースの講座を受講中です。
「悲嘆や喪失感の中にある方たちと接したり、最後のお別れに立ち会わせていただく機会が多いので、グリーフケアのスキルは重要だと思いました」
会社の代表であり、母であり、妻であり、学生でもある村田さん。多忙な生活ぶりが想像できます。ふと、「休日は何をされているんですか」と尋ねると、
「私、365日働いていても平気なんです。オンとかオフとかなくて。ずーっと仕事していたいくらいです。いつも家族から言われて、『あ、そういえば1カ月休んでない!』ってハッとして、『じゃあ来週伊豆に旅行にでも行こうか』とかよくあります」
そう言って朗らかに笑いました。
温かい空気をまとう村田さん。それでいて、確固たる信念を持ち、それを貫き通す強さも感じられます。
「『終活』を、ブームから文化にしたい」
使命感を感じて、終活業界を走り続ける村田さんの挑戦は続きます。
「ブルーオーシャンカフェ」
- ホームページ/http://blueoceancafe.tokyo
- 住所/〒135-0002 東京都江東区住吉2-2-4
- TEL/03-6659-6537
- 営業時間/10:00~17:00
- 定休日/毎週水曜日
- アクセス/都営新宿線・半蔵門線「住吉」駅A1出口 徒歩2分
旦木瑞穂(たんぎ みずほ)
1975年愛知県出身。
産経デジタル「New Roses Web」にてグルメ・イベントレポートや、鎌倉新書「月刊 仏事」で葬儀や介護に関する記事などを連載。
各種パンフレット、ガイドブックなどの企画編集のほか、グラフィックデザイン、イラスト制作も行なう。
Twitter:@mimizupon