借金があることが分かっていても、どうしても相続したい財産があるときに使う「限定承認」という選択

[2016/8/13 00:00]

相続人ができる3つの選択

近親者、例えば親が亡くなって相続財産がある場合に、相続人となった自分には3つの選択肢があります。

  • 単純承認 相続財産を引き継ぐ
  • 相続放棄 相続を放棄して受け取らない
  • 限定承認 相続した財産の範囲で負債も引き継ぐ

相続財産が、現金、預金、株式、土地、建物などで、相続することがプラスとなる場合は、「単純承認」を選びます。これが普通の相続なので、届け出は必要ありません。

相続財産に「借金」(負債、債務)が含まれる場合で、相続財産よりも借金の方が明らかに多い場合は「相続放棄」を選びます。家庭裁判所に届け出を行なう必要があります。

借金があることがわかっているが、どの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合は「限定承認」を選択します。家庭裁判所への届け出を始め、後で紹介する手続きが必要となります。

限定承認を選択すれば、万が一、巨額の借金があることが後でわかった場合でも、相続した財産の範囲内で負担すればすみます。

つまり、相続財産というプラスに対して、借金というマイナスが大きいことがわかっても、プラスの範囲内で精算すればよく、それ以上の負債を負うことがありません。

相続人からすれば、「限定承認」は、なかなか魅力的な選択肢に見えます。

しかし、最新の平成26年の司法統計を見ると、「相続放棄」の届け出は182,089件に上るのに対して、「限定承認」の届け出は770件に留まっています。

つまり「限定承認」は、「相続放棄」の200分の1以下しか使われていません。

相続人全員の合意と納税が必須

限定承認があまり使われない理由は、次の3つです。

  • 届け出は、自分だけではなく相続人全員で行わなければなりません。誰か1人反対しても限定承認は成立しません
  • 相続する財産について、相続財産の清算など手間のかかる手続きが必要です
  • 限定承認で相続した財産は、現在の価格(時価)で相続したとみなされます。それに対して「みなし譲渡所得税」が発生し,納税が必要となります

「相続放棄」は自分一人で書類を書き、家庭裁判所に届け出をすれば成立します。

しかし、「限定承認」は、相続人全員の合意が必要な上、弁護士なしで行なうことは困難な作業が伴います。

これだけ条件に差があれば、「相続放棄」を選ぶ人が多いもわかります。

どうしても相続したい財産があるときの選択肢が「限定承認」

では、どういうときに「限定承認」を選べば良いのでしょうか。

たとえば家業で使用している土地建物、もしくは先祖伝来の家宝などの、どうしても手放したくない財産があって、それを相続するためには、相続財産と借金がトントンになっても良いという場合は、限定承認を選ぶしかありません。

その場合でも、ある程度の手間と、弁護士費用などのお金が必要となることは覚悟しておきましょう。

故人に借金があることが明確であり、どうしても相続したい物もない場合は、限定承認のことは考えずに「相続放棄」しておいた方が無難です。

なお、この記事の記述は、わかりやすくするために、かなり単純化してお話しています。

実際の相続手続きについては、日本司法支援センターなどの窓口を利用して、弁護士などへ相談してください。

家庭裁判所に提出する書類の「財産目録」の記入例。相応の財産と借金がある場合に利用する制度であることが記入例からもわかる 出典:裁判所
[シニアガイド編集部]