古田雄介のネットと人生
第5回:ネットに存在するマイページはいつでも死にゆく

[2016/10/24 00:00]

ニフティ(@nifty)は無料のホームページ提供サービス「@homepage」を2016年11月10日に終了すると告知しています。

現在も約16万件のホームページを支えるサービスが終わる、それはつまり、インターネットにアップした多くの情報がまもなく消滅することを意味します。インターネット上の情報はどうも永久不滅ではないようです。今回はネットにあるページの寿命について考えてみましょう。

1999年開設の古参サイトが2016年に移転した理由

2004年に35歳の若さで亡くなった小説家 鷺沢萠(さぎさわめぐむ)さんの公式ホームページ「Office Meimei」は、管理人さんの手により現在も運営されています。

鷺沢さんの生前からの雰囲気を尊重し、最低限の更新に留めて12年。しかし2016年9月、新しいURLにサイトを丸ごと引っ越すという大きな動きをみせました。もとから利用していたホームページサービス「@homepage」が終了するためです。

管理人さんは2016年2月にニフティから届いたメールでこの情報を知りました。後継サービスとして無料で使えるプランが用意されていますが、ホームページの中身を移し替える作業が必要になります。「長年使っていたURLなので、変更されるのは不便ですし、寂しさもありました」とのことで、まずは閉鎖を含めて今後の展開を関係者に相談したそうです。

それでも「サイトの運営を通じて楽しい経験がたくさんあったことを、消したくなかったのだと思います」と、移転を決意。準備を始めたのは7月頃で、本腰を入れた移行作業は1週間ほどでした。「管理者の自分が元気なうちは続けたいと考えています」といいます。

「Office Meimei」の旧URLには、ページ移転のお知らせが貼られている。右が新サイト

ニフティが@homepageの終了を告知したのは2016年1月13日。当初は9月29日を提供最終日に設定してました。その時点でおよそ17万件のサイトが登録されていましたが、「Office Meimei」のように期限までにきちんと対応したサイトはむしろ少数派だったようです。

8カ月の移行期間で動いたのは、17万件中のわずか1万件

@homepageは1999年に提供が始まったニフティ会員(@nifty会員)向けの無料サービスで、2000年代前半のピーク時にはおよそ34万件のサイトを抱え、当時のホームページブームの一翼を担っていました。

それから10年以上の月日が流れた現在、登録サイトは半減し、削除せずに放置したまま残っているものも過半数を優に超えます。そうした廃墟はサービス終了に身を任せるしかありませんが、管理を続けているサイトは告知からサービス終了の8カ月の間に自発的な対応策がとれるわけです。

ニフティは、そうした“アクティブな利用者”のうち7割程度が移行処理をすると見込んでいました。ところが、9月時点での実際の移行率は50%程度の留まっていたそうです。放置サイトも含めた全体でみると約16万件が@homepageに残ったままでした。移行や契約解除などの動きは、わずか1万件程度だったわけです。

同種の措置としてはかなり手厚い部類ですが、それでも動かないものは動かない。同社は期限近くに移行率が上がったことから終了日を11月10日に延長しましたが、それでも10万件以上のサイトがサービス終了と同時に姿を消すのは確実な情勢です。

「@homepage サービス終了のお知らせ」

この“大量死”は、インターネット上にあるページのオーソドックスな終わり方の一つといえます。

終わり方は、利用者と運営側の意志、契約破りの3パターン

ホームページスペースやブログ、SNSなどを使えば、どんな人でも自分のページが作成できます。無料のものなら何年運営しても費用がかかりませんし、複数のサービスを併行して使っている人も多いと思います。では、いつまで使い続けることができるのでしょうか? 1年後はなんとなく大丈夫そうだとして、5年後はどうでしょう? 10年後は?

利用者のページの終わり方にはいくつかのパターンがあります。

まずは利用者側の意志によるもの。利用者自ら(もしくは場合によっては遺族)が設定メニューから「ページの削除」「アカウントの停止・抹消」などの措置をとる方法です。@homepageには累計で60万件弱のサイトがありました。9月時点で約16万件になっています。40万件超はすでに姿を消しているわけですが、そのほとんどは自らの手で幕を閉じたと思われます。

そして、残りの約16万件のうちの多くが、サービス終了のタイミングで消滅するとみられるわけですが、これは運営側の意志による終わり方といえるでしょう。ネット上から一斉にページが消滅する場合は大抵このパターンです。

@homepage以外でも、直近ではシンプルな自己紹介ページで2000年代後半に大流行した「前略プロフィール」が2016年9月30日に終了しています。

前略プロフィールのトップページ。左が終了後、右が終了直前のもの

それ以外の終わり方としては、利用者と運営側の間の契約破りというパターンがあります。とりわけ多いのは、有料タイプのサービスで支払いが一定期間滞ったために閉鎖となるケース。定額サービスの場合は何らかの理由で放置されてもこのプロセスを経て消滅するので、何年もそのままになっているということは滅多にありません。また、公序良俗に反する投稿を続けたことで、運営側に取り締まられる形で閉鎖・凍結される場合もあります。

ただし、この契約破りは全体でみるとごく少数なのが実情です。サービスによっては利用規約に「更新が半年以上滞った場合はアカウントを抹消する」などと明記している場合もありますが、運営側が個別の利用状況をチェックして能動的に削除するという取り組みは滅多にありません。何十万、何百万というアカウントを監視するのはコストがかかるうえ、それに見合った収益が見込めないためです。

ネットのページの平均寿命は人命よりずっと短い

以上を踏まえて、自分のページの寿命を考えてみましょう。

自分でずっと残しておきたいと思うのなら、「利用者側の意志」での削除は考えなくていいでしょう。一般常識の範囲で使っていれば「契約破り」のリスクも脇に置いていいはずです。すると、最大のページ消滅リスクは「運営者側の意志」ということになります。

多くの利用者を抱えるサービスを終了するのは、運営側が事業の整理や方向転換を図ったり倒産したりした場合です。あまり頻繁に削除するような措置をとると反感を招くので、慎重に動くのが普通です。

企業の寿命は一般に30年とも25年とも言われています。東京商工リサーチが調査した2014年に倒産した企業の平均寿命は23.5年でした。事業の整理や方向転換は、これよりも短いスパンで実施されるわけです。10~15年? IT業界の変化の激しさを加味すると5年程度かもしれません。いずれにしろ、半永久的といった印象よりもずっと短い期間しか残らないのが普通というわけです。

有益さが広く認知されているページや、ゴシップ方面を含めて人の興味を惹きつけるページは、さまざまな人の手により情報がコピーされて、誰かの管理を超えて存在し続けることになりますが、それは例外中の例外といえるでしょう。

そう考えると、10年以上存続しているページはとても長生きといえます。2000年前後から続いているならかなりの長寿です。そういう時間軸でインターネットのページを眺めてみるのも面白いかもしれません。


古田雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。書き手が亡くなった100件以上のサイトを追った書籍『故人サイト』(社会評論社)を2015年12月に刊行。2017年8月にデジタル遺品解決のための実用本『ここが知りたい! デジタル遺品』(技術評論社)を刊行した。

[古田雄介]