年金の「繰り上げ支給」をする人は、この10年で12%も減っている
60歳から繰上げ支給をする人が減っている
高齢者が貰える「老齢年金」のうち、基礎となっている「老齢基礎年金」は65歳から支給されます。
ただし、申請をすることで、60歳から支給を受けることもできます。
これを「繰上げ支給」と言います。
しかし、「繰上げ支給」をする人は、ここ10年では「12%」も減っています。
どうして、「繰上げ支給」をする人が減ったのか、その理由を探ってみましょう。
10年間で46%が34%に減った
年金用語では、老齢基礎年金を規定通りに65歳から受給することを「本来」と言います。
そして、65歳より前に受給することを「繰上げ」、65歳より後に受給することを「繰下げ」と言います。
10年前の2007年には、繰上げ支給をしている人は「46.2%」、本来が「52.8%」、繰下げが「1.0%」でした。
しかし、2016年には、繰上げ支給をする人は「34.1%」と、12%以上も減りました。
そして、本来が「64.5%」に、繰下げが「1.4%」に増えています。
新規分では、繰上げ支給をする人は1割以下
さらに、その年から年金を受け取り始めた人(新規裁定分)でみると、2016年に繰上げ支給している人は「9.2%」しかいません。
10年前の2007年には「22.9%」、10年間で一番多かった2010年には「26.9%」もいましたから、半分以下に減りました。
2016年現在では、繰上げ支給をしている人は1割以下です。9割以上の人は、65歳以降に年金を受け取っています。
繰上げ支給は、20年前から減り続けている
どうして、繰上げ支給は、こんなに減ってしまったのでしょうか。
実は、繰上げ支給は、ここ10年に限らず、かなり以前から減り続けています。
下のグラフは、20年以上前の1994年(平成6年)からの5年間の繰上げ支給の推移です。すでに、この時点から減り続けていたことが分かります。
繰上げ支給をする理由は「長生きできると思っていない」だった
繰上げ支給が減っていく理由についての調査は見つからなかったのですが、「繰上げて受給しようと思う理由」を聞いている調査がありました。
この調査は、繰上げ支給が、今よりもずっと多かった1996年(平成8年)に行なわれたものです。
一番多い理由は「長生きできると思っていない」で、半分を占めています。
社会全体が、長生きの末にある、老後の経済的な不安で満ちている現在から見ると、夢のような理由です。
次に多いのが「早く生活費の足しにしたい」で、三番目は、「自分で自由に使える小遣いが欲しい」です。
いますぐ、現金が欲しいという要求が感じられます。
長生きへの不安が強くなると、繰上げ支給が減る
この調査の結果を踏まえて、推測してみましょう。
20年前は、「長生きできると思っていない」と思っている人が多数派でしたが、現在は「長生きをしてしまったら、経済的に困まるのではないか」という不安を持っている人の方が多いでしょう。
今では、20代や30代向けの雑誌でも、「老後のための資金作り」という記事が載っているほどです。
もう一つの理由である「すぐに現金が欲しい」という欲求は、今でもあるでしょう。
しかし、「繰上げ支給をすると、支給金額が減る」という知識が行き渡ったことが、繰上げを思いとどまる理由になっているのではないでしょうか。
「60歳から繰上げ支給すると、支給金額が3割減る」や、「76歳8カ月を過ぎると、繰上げ支給よりも65歳からの支給の方が総額が多くなる」という記事は、以前よりも多く目にするようになりました。
例えば、現在の40代と50代が、「人生設計において想定している自分の寿命」の平均は「78.0歳」という調査結果があります。多くの人は、自分は76歳8カ月よりは長生きすると思っているのです。
そこまで生きる想定であれば、「繰上げ」よりも「本来」を選ぶ人が増えても不思議はありません。
今後も、「少子高齢化」などの問題で、老後の生活に対する不安が大きくなればなるほど、繰上げ支給をする人は減り続けていくでしょう。