「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が改訂
人生の最後に選択する医療やケアを考えるためのガイドライン
回復の見込みがなく、死を待つような病状になった際に、現在の日本の法律では、誰がどのように判断するのかという規程はありません。
その際には、厚労省が公開しているガイドラインが、一定の基準となります。
ただし、ガイドラインですから、法律的な強制力はありません。
こうした方が望ましいという方向性を示したものです。
そのような限界はありますが、自分がどのような医療やケアを選択するかを考える時には、目を通しておきたい書類です。
2018年3月に、このガイドラインが改訂されました。
この記事では、ガイドラインを読む際に知っておきたいことと、今回の変更点を紹介します。
ガイドライン本体は、A4で2ページ
ガイドラインの現在の名称は、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」です。
ガイドラインの本体は、A4で3ページのPDFファイルです。
1ページは表紙ですから、実質的な内容はA4で2ページに納まっています。
少ない分量ですので、目を通しておくことをお勧めします。
また、A4で6ページの「解説編」もPDFファイルで用意されています。
ガイドライン本文だけでは、意味が取りにくい場合は、「解説編」も併せてお読みください。
ガイドライン作成の経緯
ここでは、ガイドライン本体の内容ではなく、その歴史について紹介します。
このガイドラインは、策定された理由を知っておいた方が理解しやすい部分が多いためです。
ガイドラインが最初に策定されたのは2007年のことでした。
その時点での名称は「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」でした。
策定のきっかけは、前年に、富山県射水市(いみずし)における人工呼吸器取り外し事件が報道されたことです。
この人工呼吸器取り外し事件は、意識がなく、 回復の見込みがない状態の患者から、医師の判断で人工呼吸器を取り外したというものでした。
人工呼吸器を外された患者は死亡しました。
医師の判断にあたっては、本人や家族の同意が得られていましたが、警察は殺人容疑で書類送検し、最終的には不起訴処分となっています。
そのため、このガイドラインでは、終末期の医療にあたって、次の2点が強調されています。
- 医師等の医療従事者から適切な情報提供と説明がなされ、それに基づいて患者が医療従事者と話し合いを行なった上で、患者本人による決定を基本とすること
- 人生の最終段階における医療及びケアの方針を決定する際には、医師の独断ではなく、医療・ケアチームによって慎重に判断すること
また、「生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない」と明記されているのも事件の影響を感じさせます。
家族だけでなく「友人」も判断できるように改訂
2018年3月の改訂では、次の点が改められました。
- 在宅医療や介護の現場で活用できるように、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に名称を変更した。また、 医療・ケアチームの対象に介護従事者が含まれることを明確にした。
- 『本人の意思は変化するものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等を、日頃から繰り返し話し合うこと』の重要性を強調した
- 『本人が自らの意思を伝えられない状態になる前に、本人の意思を推定する者について、家族等の信頼できる者を前もって定めておくこと』の重要性を記載した
- 今後、単身世帯が増えることを踏まえ、「本人の意思を推定する者」とされる信頼できる者の対象を、「家族」から「家族等」 (親しい友人などを含む)に拡大した
- 『繰り返し話し合った内容をその都度文書にまとめておき、本人、家族等と医療・ケアチームで共有すること』の重要性について記載した
まとめると、死を迎える場所が病院だけではなく、自宅や介護施設の場合でも、ガイドラインが使えるように対応しています。
また、家族がいない場合などを想定し、「親しい友人」などでも「本人の意思を推定する者」として、一定の判断を下すことができるようになりました。
単身者の友人だけではなく、事実婚や同性婚のパートナーも判断を伝えやすくなるでしょう。