「2月に振り込まれた年金額が少ない」問題は、無理な発注が原因だった
無理な発注が原因だった
2018年2月に振り込まれた年金の金額が、本来の金額よりも少なかった件について、最終的な報告書が公開されました。
今回の報告書によって、問題の原因が、日本年金機構が業者に発注する際に、不適切な選択をしたことが原因であることが明らかとなりました。
約15万人の年金受給者の年金額に影響が出た、大きな事故の原因は、日本年金機構の入札管理にあったのです。
約15万人の年金受給者に影響
今回の問題は、日本年金機構が年金の支給額を決めるのに必要な「扶養親族等申告書」という書類のデータ入力を委託した業者「SAY企画」が、データの「入力の誤り」や「入力漏れ」を起こしたものです。
これによって、2018年2月に振り込まれた年金において、控除の計算が正しく行なわれず、本来の金額よりも少なくなるという事故が発生しました。
入力ミスによって年金額が減額された人は「14万9千人」、年金への影響は「21億9,300万円」に及びました。
本来、その仕事ができる等級ではなかった
報告書によれば、SAY企画は、これまでも納期の遅れが常態となっていました。
官公庁などの入札に参加するための「全省庁統一資格」でも、A~Dの4段階のうち、下から2番めの「C」に留まっていました。
今回の業務委託は、本来であれば「A」等級の案件でしたが、日本年金機構は「最低価格落札方式」を選びました。
しかも、入札前に行なわれた「情報提供依頼(RFI)」という調査に対して、3社が一括で可能と回答したため、SAY企画1社にすべてを委託してしまいました。
結果的に、A等級の案件を、C等級のSAY企画に一括で委託してしまったのです。
入力漏れや、勝手な海外発注などが発生
SAY企画による作業には、いくつもの問題が発生しました。
- 納品時に多くの入力誤りや入力漏れが発生
- 無断で、中国の関連事業者に再委託した
- 本来行なうべき、比較用のデータ入力(ベリファイ入力)を行なっていない
これは、人員不足と管理体制の不行き届きによるもので、報告書では「SAY企画では履行能力に乏しかった」と総括されています。
もともと、その能力が無いと評価されている業者に、コスト優先で発注したことで、業者の能力が追いつかなくなったのです。
また、問題が発生した後も、日本年金機構側では、SAY企画への一括委託に固執したため、大きな問題が発生していたのですが、その認識が、日本年金機構の中で共有されていませんでした。
たぶん、状況が悪化しつつあるという事情を知っていたのが、業務委託を行なった担当者と、委託を受けた業者に留まっていたのでしょう。
そのため、他の業者への切り替えなどを始めとする、組織を挙げての対応が遅れたとしています。
価格優先から、総合評価へ
今後、日本年金機構では「年金事業運営への国民の信頼確保という特別な事情にかんがみ、外部委託する場合の委託方法のあり方を見直す」としています。
具体的には、案件の本来の等級にふさわしい業者に発注することや、価格優先ではなく「総合評価落札方式」によって業者を選択するとしています。
組織は変わっても人は変わらない
そもそも、日本年金機構は、前身である社会保険庁が「消えた年金問題」などで国民の信頼を失い、役職員の身分を非公務員とする特殊法人として再出発したものです。
しかし、今回の問題を見ていると、組織は変わっても、人は変わらず、過去の反省が生かされていないのではないかと案じられます。