年金制度を維持するために、次に来るのは「支給開始年齢の引き上げ」か
年金破綻への強い不安
「自分が年金を貰える年齢になったときには、日本の年金制度はつぶれているのではないか」という不安を持っている人は多いでしょう。
「老後の生活資金が不安」は8割を超えるという調査結果もあります。
しかし、「年金財政問題の解決策」は、すでに提案されています。
提案しているのは、世界銀行のコンサルタントを勤めた経験がある、ニコラス・バー教授です。教授は、IMF主催の国際会議に招かれて講演を行なったこともある権威ある人物です。
ここでは、厚労省の「社会保障審議会年金部会」という会議の資料に引用された内容をもとに紹介します。
4つの解決策
この資料に引用されているのは、2013年の国際会議の席上で行われた、バー教授の講演資料です。
その中に、次のように書かれています。
年金財政問題の解決策・もし年金の支払いに問題がある場合、4つの解決策がある。そして、この4つしか解決策はない。
- 平均年金月額の引き下げ
- 支給開始年齢の引き上げ
- 保険料の引き上げ
- 国民総生産の増大政策
・これらのアプローチが含まれていない年金財政改善方策は、いずれも幻想である。
4つの解決策を、日本の現状に置き換えてみる
バー教授の4つの解決策を、日本の現状で考えてみましょう。
平均年金月額の引き下げ
これは、「支給される年金の月額を引き下げる」という意味です。
例えば、「来年度から一律で年金の金額を5%引き下げる」という方法です。
影響する国民の数が多いので、よほど巧妙にやらないと国民の不満と不安を呼ぶ政策でしょう。
支給開始年齢の引き上げ
例えば、「年金の支給開始年齢を、65歳から70歳にします」という方法です。
現在の日本でも「支給開始年齢を60歳から65歳へ移行しつつあります。
他の政策よりも抵抗が少ないのですが、引き上げには長い期間がかかります。
保険料の引き上げ
毎月の月給から天引きされている「保険料」を引き上げます。
すでに、日本では保険料を計算する料率の引き上げが、ずっと続いていました。2017年にやっと「18.3%」で固定されたところです。
保険料の負担は、会社と半分ずつですが、それでも給与から「9.15%」も引かれています。
「これ以上は上げず、支給金額で調整する」という方針になっているので、再び引き上げるのは難しいでしょう。
国民総生産の増大政策
「国民総生産の増大」は、継続的に取り組んでいかなればならない課題です。しかし、なにかをしても、確実に効果が期待できるわけではありません。
というわけで、今の日本では、確実に効果があり、次に取りやすい政策としては「支給開始年齢の引き上げ」が考えられるでしょう。
この政策について、諸外国の動向をもとにして、もう少し具体的に見て行きます。
「支給開始年齢の引き上げ」には、2つの方法がある
「支給開始年齢の引き上げ」を行なうには、2つの方法があります。
- 支給開始年齢を引き上げる
- 満額の年金が貰えるために必要な期間を長くする
「支給開始年齢を引き上げる」は、わかりやすい方法です。
日本でも「60歳から65歳」に引き上げられましたが、諸外国でも少しずつ引き上げが続いています。
ただし、個人の生活設計がからむので、支給開始年齢の引き上げには長い期間が必要です。
ロシアの年金改革が問題になったのは、2023年までに順次引き上げるという決定を、5年しか猶予がない2018年に行なったことが影響しています。
やっと食べられると思った料理の皿を、目の前で取り上げられたようなものですから、怒っても当然でしょう。
また、引き上げる年齢と平均寿命との関係にも配慮が必要です。
ロシアの年金改革問題では、法案に反対する共産党の党首が「ロシア人男性の平均寿命は60歳代前半だ、彼らは皆、棺桶の中で年金を受け取ることになる」と述べたという報道がありました。
満額になる期間を延長する方法もある
もう一つの「満額の年金が貰えるために必要な期間を長くする」は、もう少し巧妙な方法です。
例えば、フランスでは、満額が貰えるための期間を、37.5年→40年→41年→41.5年→43年と小刻みに長くしています。
こうすることで、年金の支給総額を抑えることができます。
現在の日本にあてはめると、国民年金が「20歳から60歳までの40年間で満額」ですから、「20歳から65歳の45年間で満額」に変えるという手が考えられます。
できるだけ長く働くことが最大の対策
年金制度に限りませんが、漠然とした不安は、日を経るごとに大きくなっていきます。
しかし、何が起きるかわかっていれば、それに対する対策を立てることは可能になります。
バー教授の提案する4つの解決策を、日本の状況に合わせて考えてみると、次に起こりそうなのは「支給開始年齢の引き上げ」でしょう。
まず、自らの健康を保ち、できるだけ長い期間働き続けることを心がけた上で、次に何が起こるのかを見守りましょう。