神戸市、認知症の人が起こした事故に対して最高2億円を賠償する制度を開始
神戸市の救済制度が4月開始
兵庫県神戸市は、2019年4月1日から、認知症の人が起こした事故を賠償する「事故救済制度」を開始します。
「事故救済制度」は、認知症の人が起こした事故に対して、最高で2億円の事故賠償金を支給するものです。
この制度は、単体ではなく「認知症 神戸モデル」として、無償の認知症診断と組み合わせた形で提供されています。
「認知症 神戸モデル」の全容を紹介しましょう。
65歳以上なら無料で認知症診断が受けられる
「認知症 神戸モデル」は、「認知症の診断助成制度」と「事故救済制度」の2つが柱となっています。
まず、「認知症の診断助成制度」から見ていきましょう。
2019年1月28日から、65歳以上の神戸市民は、2段階の認知症診断を無料で受けることができるようになりました。
- 認知症の疑いの有無を診断する「認知機能検診」
- 認知症かどうかと病名を診断する「認知機能精密検査」
「認知機能検診」を受けて、認知症の疑いがあると分かったら「認知機能精密検査」を受けるわけです。
無償で診断が受けられることで、認知症の早期診断と早期発見をめざします。
そして、認知症診断によって「認知症」と診断されると、「認知症事故救済制度」の申込ができるようになります。
2段階になっている救済制度
「認知症事故救済制度」は2段階の構造になっています。
まず、認知症の人が事故を起こした事故で、神戸市民が損害を負った場合、最高3千万円の見舞金が給付されます。
この場合、認知症の人に賠償責任があるかどうかは問いません。
神戸市民であれば、誰でも見舞金を受け取れます。
もちろん、常に高額の賠償が行なわれるわけではありません。
被害者が市民の場合の見舞金は、次のようになっています。
- 死亡/後遺傷害 最高3千万円
- 入院 最高10万円
- 通院 最高5 万円
- 財物損壊 最高10万円
- 休業損害 最高5万円
さらに、認知症と診断されて、神戸市に登録されている市民が、賠償責任のある事故を起こした場合は、賠償金額が最高2億円となります。
GPS利用の位置検出サービスも
「認知症事故救済制度」の一環として、認知症の人や家族が利用できる「GPS安心かけつけサービス」も用意されます。
これは、認知症の人の所在が分からなくなった場合に、GPSで位置を検出して、スマホで位置が確認できるものです。
必要があれば、その場所まで係員がかけつけてくれます。
利用者は、毎月2千円の利用料が必要ですが、初期費用や、年に6回までのかけつけサービス費用は神戸市が負担してくれます。
市民税を400円上乗せして財源に
「認知症 神戸モデル」の費用を考えてみましょう。
「認知症の診断」にかかる医療費は、自己負担がゼロになるよう神戸市が助成しています。
「事故救済制度」は賠償責任保険を利用していますが、その保険料は神戸市が負担しています。
「GPS安心かけつけサービス」も、月額利用料以外は、神戸市が負担しています。
これらを含めた「認知症 神戸モデル」の予算は年間で約3億円、当初の3年間で約9億円の費用が見込まれています。
これだけの財源は、どこにあるのでしょうか。
実は、「認知症 神戸モデル」のために、市民税が増税されました。
この値上げについて、神戸市のホームページでは、次のように記されています。
神戸市では、認知症の方やそのご家族が安全安心に暮らし続けていけるよう、認知症の早期受診を推進するための診断助成制度や、認知症の方が外出時などで事故に遭われた場合に救済する事故救済制度の創設を内容とする「神戸モデル」の実現にむけて、これらにかかる費用を将来世代へ先送りすることなく、市民のみなさまのうすく広いご負担でまかないます。そのため、平成31年度から個人市民税均等割(現行3,500円)が、年間400円上乗せとなる3,900円に改定されます。
神戸市の市民税は、全員が負担する「均等割」と、収入によって変わる「所得割」の組み合わせですが、この「均等割」が400円値上げされたのです。
「認知症 神戸モデル」は、単純な損害賠償制度ではなく、増税による財源の確保まで含めて考えられた大きな構想なのです。
「認知症 神戸モデル」の全体像
ここまで説明した「認知症 神戸モデル」の全体の構造は、次のようになっています。
「認知症 神戸モデル」は、かなり大掛かりで思い切った制度ですが、補正予算案の一環として、市議会によって全会一致で可決されました。
それだけ、市や市議会において、「認知症」に対する対策の必要性が行き渡っているということなのでしょう。
当初の3年間が過ぎた時に「認知症 神戸モデル」が、どのような実績が挙げるのか、その報告を待ちましょう。