最高裁が「後見人は家族優先」と通知。成年後見制度に変化の兆し

[2019/4/25 00:00]

後見制度の普及をはばむ問題点

認知症などで判断力が落ちた親の財産管理などで利用される制度に「成年後見制度」があります。

これは、家庭裁判所で選任された「後見人」が本人に代わって、契約や金銭の支払いなどを行なう制度です。

例えば、介護している親の銀行口座から、親が入居する施設の費用を引き出そうとすると、後見制度の利用が必要となることが増えています。

しかし、後見制度が始まった当初は、後見人に家族が任命されることが多かったのですが、現在は、弁護士や司法書士などの専門職が選任されることが多くなっています。

これは、後見人となった家族による財産の使い込みが問題となったためです。

2018年の実績では、家族が後見人になった割合は、4分の1ぐらいしかありません。

出典:東京家庭裁判所

しかし、専門職が後見人になると、年間で20万円以上の報酬が必要となります。

また、口座から出金するたびに専門職に許可を得るなどの手間が掛かっていました。

つまり、親の口座を管理するために、自分が後見人になるつもりで「後見制度」を申し込むと、顔も知らない専門職が加わることによって、予想外に手間とお金が掛かる状態になりかねないのです。

もちろん、成年後見制度の目的は、本人の尊厳と財産を守ることですから、専門家の知識が必要な場合もあります。しかし、実際には、そこまでの専門知識は必要としない規模の財産が多いのです。

最高裁が「後見人等の選任の基本的な考え方」を公開

このような状況が、後見制度を利用を進めるための障害になっているという認識は、以前からありました。

そして、2019年3月に厚労省によって行なわれた「成年後見制度利用促進専門家会議」の場において、最高裁判所から、この件に関する報告がありました。

最高裁による報告の内容を一言でいうと、「後見人にふさわしい家族がいる場合は、家族を後見人にすることが基本であると確認した」というものです。

これは、最高裁が単独で決めた見解ではなく、専門家として後見人に任ぜられることが多い、弁護士、司法書士、社会福祉士の各団体とも議論したとしています。

その上で、「後見人等の選任の基本的な考え方」として、次の3項目を挙げています。

  • 本人の利益保護の観点からは、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい
  • 中核機関による後見人支援機能が不十分な場合は、専門職後見監督人による親族等後見人の支援を検討
  • 後見人選任後も、後見人の選任形態等を定期的に見直し、状況の変化に応じて柔軟に後見人の交代・追加選任等を行なう

注目されるのは、次の2点です。

  • 後見人になりうる家族がいる場合は、家族を優先して後見人にする
  • 使い込みでもしない限り辞めさせることが難しかった後見人を交代できるようにする

「後見人等の選任の基本的な考え方」は、すでに、各地の家庭裁判所に通知されました。

家庭裁判所はこれを受けて、「中央での議論の状況等を踏まえ、自治体や各地の専門職団体等とも意見交換の上、検討を進める」としています。

そのため、後見人の選定において家族を優先するように変わるまで、少し時間がかかる可能性があります。

また、財産や家族の状況によっては、家族が後見人になっても、専門職が「後見監督人」となって、それを監督するという可能性もあります。

しかし、大きな流れとしては、家族が後見人になるのが当たり前という状況になるでしょう。

最高裁の通知を受けて、各地の家庭裁判所が、どのように判断を変えるか、ここ1~2年の変化が注目されます。

「後見監督人」が嫌なら「後見制度支援信託」を

最後に、「後見監督人」について補足しておきましょう。

「後見監督人」は、後見人がきちんと財産を管理していることをチェックする存在です。

せっかく家族が後見人になっても、「後見監督人」が付くと、報告の義務があるため、それなりに手間がかかります。

また、「後見監督人」には、専門職や、その団体が任ぜられることが多く、月に数万円の報酬が発生します。

つまり、家族が後見人になっても、後見監督人が付くと、お金と手間がかかるという状況が、あまり変わらないのです。

では、この場合、どうすればよいのでしょうか。

例えば、東京家庭裁判所では、「後見制度支援信託」という制度を利用すると、後見監督人が付かない場合があります。

「後見制度支援信託」と「後見制度支援預金」は、本人の財産を特定の銀行口座に預けて管理する制度で、定期的な出金以外は家庭裁判所の命令書が必要となります。

つまり、後見人による、金銭の使い込みを防ぐための有効な手段なのです。

最初だけ、手間と費用が掛かりますが、「後見監督人」が付くことに比べれば、負担は重くありません。

もし、家庭裁判所から「後見制度支援信託」や「後見制度支援預金」の利用を勧められたら、前向きに検討しましょう。

親の財産が金銭中心であれば、「後見監督人」が付かない確率が上がるでしょう。

[シニアガイド編集部]