フリーランスになったときの、「国民健康保険」との付き合い方
会社を辞めたら「国保」に移る
勤めていた会社を止め、フリーランス(自営業)として独立したときに、「国民健康保険(国保)」でつまづく人が珍しくありません。
健康保険は、お医者さんで診察を受けたときに、その料金の一部を保険が負担してくれる制度です。
国保は、シンプルな制度なので、落とし穴は少ないのですが、それでも保険料などで後悔している例を耳にします。
国保がどんな制度なのか、退職をする前に知っておきたい最小限のことを紹介しましょう。
国保に入らないと健康保険が無くなってしまう
最初に、実話を一つ紹介しましょう。
「XXさん、お願いごとってなんですか。金なら無いですよ」
「いや、健康保険証を貸してほしいんだ」
「へっ、健康保険証って、何に使うんですか」
「もちろん、病院に行くんだよ、このところちょっと体調が悪くてさ」
「それはいけませんね。早く行った方が良いですよ。でも、健康保険証なら自分の分があるでしょう」
「いや、会社を退職したときに手続きをしなかったら、そのあとなんか書類が届いてたけど、そのままにしてるんだ」
「つまり、健康保険証をお持ちでないと」
「そう、だから、ちょっと借りようと思って」
「あのねぇ。健康保険証って借金の身元保証に使うような大切なもんですよ。人に貸せるわけないじゃないですか」
「ちぇっ、友だちがいのないやつだなぁ。君のフトコロが痛むわけじゃないのに」
これを読んで、普通の勤め人の方は、作り話と思うかもしれませんが、国保の保険料を払わずに、健康保険証を無くしてしまう人は実在します。
保険証を持っていなかったり、低収入の人向けに無料や低額の診療を行なっている病院があることからも、それが分かります。
職場の健康保険は、「任意継続」という手続きをしなければ、退職したその日から使えなくなります。
きちんと届け出をして、国保の保険証を手に入れましょう。
いろいろな違いがある国保
話を元に戻しましょう。
勤め人をしていた人が、国保に加入したときに、とまどいやすいことを挙げてみましょう。
- 自分で加入手続をしないといけない
- 自分の分だけではなく、家族にも保険料がかかる
- 天引きをしてくれないので、自分で保険料を払う必要がある
- 支払いが毎月ではなく、ときどき無い月がある
- 同じ県内でも、市区町村によって保険料が違う
大雑把に言えば、会社員のときは、会社がやってくれていたいろいろな手続や支払いを、自分でやらなければならないということです。
病院で使う場合の負担は「3割」で同じ
病気などで保険証を使うときは、職場の健康保険と国保では、ほとんど違いはありません。
自己負担の割合は、いずれも3割が基本です。
また、「高額療養費制度」もありますので、自己負担分が一定の金額以上になることはありません。
高額療養費制度を利用する際に便利な「限度額適用認定証」は、役所の窓口で発行してもらいます。
ただし、「組合健保」にある「付加給付」のような、自己負担分が少なくなる制度はありません。
国保は家族にも保険料がかかる
国保の対象者は、「職場の健康保険に加入している人」と「その扶養者」以外が基本です。
また、「生活保護を受けている人」と「後期高齢者医療制度の加入者」も対象ではありません。
75歳未満で、職場の健康保険や生活保護の人以外は、国保に入ると思ってください。
さて、国保に移ったときに、問題になるのが「家族」の保険料です。
職場の健康保険の場合、「扶養(ふよう)」という制度があります。
おおざっぱに言うと、年収が130万円未満などの条件を満たしている家族は、扶養の対象になるので、健康保険料を払わなくて良いという制度です。
つまり、サラリーマンの場合、専業主婦/主夫の配偶者や子供は、保険料がかかりません。
しかし、国保には「扶養」の概念がありません。
配偶者や子供でも、保険料がかかります。
自分の保険料は覚悟していても、家族も保険料が掛かるということを忘れている場合が多いのです。
東京23区の場合、収入のない家族でも「均等割」と言って、保険料がかかります。金額は1人当たり年に4万円ぐらいです。
国保の加入手続きを役所で行なう前に、かならず、家族全員の保険料を確認しておきましょう。
なお、会社を辞めた直後であれば、職場の健康保険を任意継続することもできます。扶養に入っている家族が多いと任意継続の方がトクです。
辞める前に、「任意継続」が得か、「国保」に移る方が得か試算しておきましょう。
自治体ごとに異なる国保の保険料
国保の保険料は、市区町村単位で決めることになっています。
保険料の計算には、所得に応じた「所得割」、固定資産に応じた「資産割」、1人当たりの定額「均等割」、1世帯当たりの定額「平等割」という、4つの算定方式があります。
例えば、東京都23区の場合、1人当たりの定額「均等割」と所得に応じた「所得割」の2つの要素で計算します。
しかし、固定資産に応じた「資産割」のある自治体では、持ち家を持っただけで保険料が上がります。
山間部や離島では、「資産割」や「平等割」がある自治体が多く、東京23区よりも保険料が高くなる場合があります。
現在、厚労省では都道府県内の保険料を統一する方向で動いています。ただし、県単位での差は残るでしょう。
厚労省の調査によれば、保険料が一番高い「徳島県」と、一番安い「埼玉県」では、1.4倍もの差があります。
移住などを考えている場合は、必ず自治体のホームページで、保険料の計算方法を確認して、自分だったらいくらかかるのか計算してみましょう。
保険料を払うのは1年のうち10カ月だけ
国保の保険料は、送られてきた納付書をもとにして、役所や銀行の窓口やコンビニで払います。
多くの自治体では、毎月払うのではなく、1年分の保険料を10等分して、その年の6月から翌年の3月にかけて払うことになっています。
銀行口座からの引き落としにすると、4月から6月まで引き落としがなく、7月1日から振り替えが始まります。
しばらく忘れていると、7月1日にいきなり引き落としがかかるので、銀行口座の残高に注意しておきましょう。
年金が出るようになると、保険料が年金から天引きされるようになります。
保険料が払えないとき
フリーランスになって国保に移ったら、2つ覚えておきたいことがあります。
1つは「保険料の減免」です。
極端に収入が少なくなった場合などは、役所の窓口で相談することで、保険料が減免になる場合があります。
生活が苦しくなったときは、迷わず相談に行きましょう。
もう1つは「健保組合」です。
いくつかの業種や地域では「国民健康保険組合」という制度があり、一般の国民健康保険よりも有利な制度になっています。
例えば「文芸美術国民健康保険組合」という保険組合の場合、傘下の団体に加入すると組合員になれます。
参加団体には、作家、カメラマン、イラストレーター、デザイナー、ミュージシャンなどの団体が多数含まれています。
家族構成や収入によっては、地元の自治体の国民健康保険よりも、有利になる場合があります。
少しでも保険料を安くするために、ダメ元で加入条件などを調べてみましょう。