故人の相続手続きが便利になる「法定相続情報証明制度」

[2019/8/15 00:00]

相続には故人の戸籍謄本が必要

家族が亡くなったときの相続手続きに、必ず必要になるのが「故人の戸除籍謄本」です。

これは、故人が生まれてから死ぬまでのすべての戸籍謄本の写しです。

これがあると、故人の親、兄弟、配偶者、子供などの関係がすべて分かるので、誰が相続を受ける「相続人」であるかを確定するために必要な書類なのです。

戸籍を集めるのはとても大変

「故人の戸除籍謄本」を集めるのは、簡単な作業ではありません。

最初に、死亡した時点の除籍された戸籍謄本を取り寄せ、それを読んで、以前の戸籍を確認して、一つずつ請求していきます。

故人が高齢者の場合、戸籍は手書きですし、書式もバラバラです。

すべての戸籍を読み通すだけでも大変です。

特に、故人が離婚や再婚をしていると、取り寄せる戸籍謄本が増えるので、集まった「故人の戸除籍謄本」は、“束(たば)”と言った方がふさわしい厚みになります。

戸籍をチェックする側も大変な作業

「故人の戸除籍謄本」は、具体的には、どこで使われるのでしょうか。

一番良く使われるのは、故人の銀行口座の「残高証明書」を発行してもらうときでしょう。

この場合は、銀行の窓口に、他の書類とともに提出します。

「故人の戸除籍謄本」は、受け取ってチェックする側も簡単な作業ではありません。

さまざまな書式の戸籍謄本を読み解いて、誰が相続人であるかを確定するのですから、誰にでもできる作業ではありません。場合によっては、窓口で長く待たされることになります。

この作業を、口座のある銀行ごとに繰り返すことになります。

不動産など、他の種類の遺産がある場合は、それぞれの窓口で同じことをします。

「故人の戸除籍謄本」に関する作業が大変であることがお分かりいただけるでしょう。

出典:法務局

大幅に省力化できる「法定相続情報証明制度」

この「故人の戸除籍謄本」に関わる作業を少しでも簡単にするために、2017年5月9日に「法定相続情報証明制度」という制度ができました。

これは一言で言うと、「登記所」が「故人の戸除籍謄本」を確認して、「法定相続情報一覧図」という証明書を作ってくれる制度です。

しかも、「法定相続情報一覧図」の作成は無料です。

また、一度作って5年以内ならば、何度でも何枚でもコピーがもらえます。

あとで必要になったからと言って、もう1回、あちこちから戸籍謄本を取寄せる手間がいらなくなったのです。

具体的な作業の手順は、法務局「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」を参照してください。

ある程度パソコンが使えて、戸籍謄本の取り寄せが苦にならない事務能力がある人であれば、自分でできる範囲でしょう。

受け取る側もチェックがいらなくなる

「法定相続情報一覧図の写し」があると何が簡単になるのでしょうか。

これがあると、銀行に「故人の戸除籍謄本」を求められた場合でも、「法定相続情報一覧図の写し」を提出すればすみます。

受け取る銀行の側も、登記所がチェック済みなのですから、すぐに手続きができます。

故人が銀行口座をいくつも持っている場合は、「法定相続情報一覧図の写し」があるとないとでは手間の掛かり方が違います。

故人の財産が不動産や証券などの分野にも及んでおり、証明書をたくさん取る必要があるときには、とりわけ便利な制度なのです。

出典:法務局

ある程度の財産が見込まれる場合は必須

では、「法定相続情報一覧図」は、必ず作るべき書類なのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

例えば、不動産も持たず、銀行口座が1つしかない高齢者の相続では、「故人の戸除籍謄本」が必要だったのは3回だったという実例があります。

これぐらいの回数であれば、戸籍謄本を取り寄せる際に3部ずつ取り寄せておけば、それで済んでしまいます。

しかし、人によっては、どれぐらい相続する財産があるのか不明な場合も少なくありません。

例えば、預金通帳が5冊以上出てきた、不動産を複数所有している、証券取引などをしていた形跡があるなど、故人の財産の全体の見通しがつかない場合は「法定相続情報一覧図」を作っておくべきでしょう。

作成は専門家に依頼することもできる

「法定相続情報一覧図が便利なのは分かったけれど、自分で作業をしたくない」というときはどうすれば良いのでしょうか。

「法定相続情報一覧図」の作成は、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士に代理人を依頼することができます。

最近では、「故人の戸除籍謄本」の取り寄せを数万円の手数料で行なう司法書士事務所も少なくありません。

そのときに、一緒に「法定相続情報一覧図」の作成を依頼してしまえば良いでしょう。

ついでに、各銀行に対する手続きもまとめて依頼することもできますが、その場合は、それなりにお金がかかります。

どこまでお願いすると、どれぐらいお金がかかるのか、あらかじめ見積もりをとった上で依頼しましょう。

[シニアガイド編集部]