在職老齢年金は「完全撤廃」か、「基準額を62万円に引き上げ」か
厚労省が在職老齢年金の見直し案を提出
厚労省が「在職老齢年金の見直し」の資料を公開しています。
この資料は、2019年10月9日に開催された厚労省内の審議会に提出されたものです。
在職老齢年金の見直しのポイントは2つあります。
- 「65歳以上の在職老齢年金」(高在老)の基準額を「67万円」に引き上げるか、完全撤廃する
- 「65歳未満の在職老齢年金」(低在老)の基準額を高在老と同じに引き上げるか、現状のままとする
この見直しの内容が実現されるためには、今後、審議会での討論を経て、来年以降の国会で成立しなければなりません。
ただ、実現すれば、60歳以上の働き方に影響を及ぼすことは間違いありません。
この記事では「高在老」と「低在老」に分けて、見直し案のポイントを紹介します。
高在老の基準額が「62万円」に
「在職老齢年金」は、老齢年金を受け取りながら働いていると、基準額を超えた部分の年金が一部停止されるという制度です。
65歳以上を対象にした「高在老」について言えば、給与と年金の合計が「47万円」を超えると、年金の支給が一部停止されます。
今回の見直し案は、この「47万円」という基準額を「62万円」に引き上げるというものです。
これが実現すると、ごく一部の高額所得者を除いて、年金の一部停止がなくなるでしょう。
つまり、給与も年金も、まるごともらえるようになります。
さらに、もう一つのオプションとして、「在職老齢年金制度を完全に撤廃する」という提案もされています。
こちらになると、高額所得者も含めて、働いたら働いた分だけ収入が増えます。
どちらが選択されるかは、今後の議論に委ねられることになります。
しかし、在職老齢年金を完全撤廃すると、基準額を62万円にしたときよりも、約1,900億円も年金の予算が大きくなってしまいます。
しかも、基準額が62万円になったときに、対象となるのは「約23万人」で、この年代で働いている人の約9%に留まります。
対象者が少ないことと、支払い能力がある人には負担させるという最近の傾向から見れば、完全撤廃ではなく、62万円案の方が有力でしょう。
低在老の見直しは重視されていない
次に、65歳未満の在職老齢年金、いわゆる「低在老」を見てみましょう。
厚労省が示した見直し案では、低在老は「このまま手を付けない」か、「高在老と同じ62万円に基準額を引き上げる」の2つの選択肢が並んで書かれています。
今回の見直しでは、「高在老」が目玉で、「低在老」は付録にすぎません。
なぜなら、低在老という制度は、終わりが見えている制度なのです。
現在の老齢年金は、65歳以上の支給が基本となっています。
そのため、低在老の対象になるのは、「特別支給の老齢厚生年金」に、ほぼ限られています。
そして、「特別支給の老齢厚生年金」は、男性は2025年度、女性は2030年度で終了します。
つまり、2030年度になれば、低在老という制度は自動的に終わってしまうのです。
生年月日で言うと、男性は1961年4月1日より前に生まれた人、女性は1966年4月1日より前に生まれた人は、「低在老」が関係ありますが、それ以降に生まれた人には関係のない制度なのです。
終わりが見えている制度なので、今のままで良いという考え方もありますし、制度を分かりやすくするために基準額を高在老と同じに引き上げるという考え方もあります。
現時点では、高在老の限度額が「62万円」になれば、同じ金額であることを印象づけるために、低在老も62万円になる可能性が高いと推測します。
一方、高在老が完全撤廃になれば、低在老は現状のままとなるでしょう。
65歳以上でもバリバリ働く選択が見える
繰り返しになりますが、今回の見直し案は、まだ歩み出したばかりの段階です。
現時点で、何かが決まったわけではありません。
これから審議会を経て、国会に法案が提出されて可決されなければ、在職老齢年金の制度は変わりません。
しかし、65歳以降もバリバリ働こうと思っていた人にとっては、見直し案の動向は目が離せません。
高在老の基準額が完全撤廃されるか、「62万円」まで引き上げられれば、65歳以上でも高額の給与をもらう意味が出てきます。
「どうせ、稼いでも年金が減らされるだけ」という気持ちから、「稼いだ分に加えて年金もまるごと貰える」という気持ちに変われば、働き方の選択も変わることは間違いありません。