60代前半の働き方が大きく変わる「在職老齢年金」の改正方針。50代サラリーマンに福音
在職老齢年金の基準額は「51万円」が有力
厚労省が「在職老齢年金の見直し」の、新しい資料を公開しています。
この資料は、2019年11月13日に開催された厚労省内の審議会に提出されたものです。
在職老齢年金の見直しのポイントは2つあります。
- 「65歳以上の在職老齢年金」(高在老)の基準額を現在の「47万円」から「51万円」に引き上げる
- 「65歳未満の在職老齢年金」(低在老)の基準額を現在の「28万円」から高在老と同じ金額に引き上げる
前回の審議会に提出された資料では、次のようになっていました。
- 「高在老」の基準額を「67万円」に引き上げるか、完全撤廃する
- 「低在老」の基準額を高在老と同じに引き上げるか、現状のままとする
これに比べると、「高在老」の完全撤廃はなくなり、基準額を引き上げる幅も小さくなりました。
一方、「低在老」は「現状のまま」という選択肢がなくなり、基準額を高在老と合わせる方向に向かっています。
つまり、「高在老」に対しては厳しい方向に、「低在老」についてはゆるい方向に向かっています。
これは、前回の提案に対して、次のような意見が寄せられたからとしています。
- 高在老は、就労抑制については立証できておらず、廃止や見直しをするにしても、将来世代の所得代替率の低下に留意すべき。
- 低在老は就業抑制効果が認められており、労働の現場でもその効果が感じられるため、低在老こそ見直すべきではないか
つまり、高在老を撤廃したり、基準額を引き上げすぎると、高い収入が得られる人の優遇になってしまうというわけです。
むしろ、基準額が「28万円」と低い低在老の方を現状のままとせず、高在老と同じ金額に引き上げるという方向になりました。
年金支給が近く、「低在老」の影響が大きい、現在の50代にとって、俄然注目される展開となってきました。
60歳台前半で年金を貰いながら働いている人に有利な変更
「在職老齢年金」とは、会社に勤めながら年金を受け取っていると、収入に応じて年金の金額が減らされる制度です。
収入と年金の合計が「基準額」を超えると、年金の減額が始まります。
つまり、基準額が変わることは、貰える年金の金額に直結しているのです。
そして、今回の在職老齢年金の改正方針の見直しによって、一番トクをするのは「60歳台前半で年金を貰いながら働いている人」です。
現在の低在老(28万円)によって、支給される年金が減らされている人は「67万人」で、働いている人の55%にあたります。
これが、基準額が「47万円」になると、21万人に減り、割合も17%まで下がります。
さらに、「51万円」になると、17万人に減り、割合は14%となります。
一言で言えば、「65歳未満で在職老齢年金を気にしなければならない人は、3分の1以下に減る」のです。
どちらの金額になるかは、まだわかりませんが、高在老と同じ金額になる方針は変わらないでしょう。
特に、65歳よりも前に年金の一部が貰える「特別支給の老齢厚生年金」が支給される人にとっては、かなりうれしい変更になるでしょう。
なぜなら、「特別支給の老齢厚生年金」を受け取る際に、在職老齢年金制度によって年金の一部が支給停止になったり、それを避けるために厚生年金を脱退したりする必要がなくなるからです。
なお、「特別支給の老齢厚生年金」が支給されるのは、1961年4月1日以前に生まれた男性と、1966年4月1日以前に生まれた女性です。
50代の人は低在老の改正に注目を
今回、ごく短い期間で、大きく方針が変わったように、在職老齢年金の改正は、まだ素案の段階です。
今の時点で、具体的な改正の内容や時期が決まったわけではありません。
これから審議会を経て、来年以降に国会に法案が提出されて可決されなければ、在職老齢年金の制度は変わりません。
しかし、もし今回の「低在老」に力点を置いた改正が進めば、現在の50代にとっては大きな福音となります。
自分の定年後の働き方にも大きな影響が及ぶことなので、議論の進行状況に目を配っておきましょう。