障害年金の支給開始率は、制度や症状によって大きな差がある
初めて公開された「障害年金」の資料
私達が「年金」と言われて想像するのは、一定の年齢に達してから支給される「老齢年金」のことが多いでしょう。
しかし、公的年金には、身体や心に障害を受けたときに支給される「障害年金」という制度もあります。
そして、2020年9月10日に、この障害年金について、大きな出来事がありました。
これまで、公開されていなかった申込み内容や支給開始の決定率などが公開されたのです。
公開されたデータは、2019年の1年分ですが、それでも重要な資料です。
この記事では、公開された資料をもとに、障害年金を申し込む立場から見た、障害年金の傾向を紹介します。
年間11万人が障害年金を申し込んでいる
障害年金には、1年間にどれぐらいの申込みがあるのでしょうか。
初めて障害年金に申し込む「新規裁定」の件数は「11万5,400件」でした。
老齢年金には及びませんが、かなり多くの人が障害年金を申し込んでいるのです。
また、すでに受け取っている障害年金を継続するための「再認定」の件数は「27万708件」と、さらに多くなっています。
基礎年金が6割、厚生年金が4割
障害年金には、2つの種類があります。
1つは、国民年金に加入している人の「障害基礎年金」、もう1つは厚生年金に加入している人のための「障害厚生年金」です。
2つの制度を比べると、厚生年金の方が対象となる障害の範囲が広く、障害年金の金額も多めです。
一言で言えば、「障害厚生年金の方が手厚い制度」なのです。
障害年金を申請した人が加入している年金制度は、「障害基礎年金」が6割強、「障害厚生年金」が4割弱という割合でした。
申請の6割以上は「精神/知的障害」
障害年金を申し込む人は、どのような障害が原因となっているのでしょうか。
一番多いのは「精神/知的障害」でした。
障害年金を申請する人の6割以上が「精神/知的障害」です。
次に多いのは「外部障害」で、2割以上あります。
「外部障害」とは、「眼」「聴覚等」「肢体」の障害です。
つまり、感覚器や手や足の障害です。
一番少ないのが「内部障害」で、2割を切ります。
「内部障害」は、「呼吸器疾患」「循環器疾患」「腎疾患/肝疾患/糖尿病」「血液/造血器/その他」の障害です。
つまり、生活習慣病や内蔵の病気による障害です。
制度や症状によって差がある支給率
新たに障害年金を申し込んだ人のうち、どれぐらいの割合で、障害年金を受け取れるようになるのでしょうか。
支給が決定した人の割合は、加入している年金制度や、障害の原因となった症状によって大きく異なります。
年金制度で見ると、「基礎年金」を受け取っている人は支給開始率が低く、「厚生年金」を受け取っている人は高くなっています。
「基礎年金」は、症状による支給開始率の差も大きく、「循環器疾患」の37.9%から「眼」の88.2%まで、2倍以上も差があります。
一方、「厚生年金」は、一番低い「血液/その他」でも79.2%と支給開始率が高く、一番高い「聴覚等」の96.1%との差も大きくありません。
基礎年金では対象とならない「障害」がある
どうして、基礎年金は支給開始率が低くなってしまうのでしょうか。
理由の一つは、制度の違いによります。
基礎年金の対象となる障害の範囲は狭く、厚生年金の対象となる障害の範囲は広いのです。
同じ種類の障害であっても、基礎年金では「1級」と「2級」が範囲になっています。
一方、厚生年金は「1級」と「2級」に加えて、「3級」と「手当金」という制度があります。
「2級」に届かない障害でも、「3級」として障害年金が受け取れたり、「手当金」として一時金が出るのです。
つまり、厚生年金ならば、3級や手当金に該当する障害の人でも、基礎年金では障害年金の対象となりません。
例えば、眼の障害の場合、「両眼の視力が0.08を超え、0.1以下の場合」は「3級」と判定されます。
厚生年金では「3級」の障害年金が支給されますが、基礎年金では支給されません。
再認定は9割以上の人が通過している
障害年金を受け取れるようになっても、障害の状態は徐々に変化します。
そのため、障害年金には「更新期間」が設定されていて、その期間を過ぎると「再認定」を受ける必要があります。
「更新期間」は障害の種類や症状によって、1年から5年のいずれかに1年単位で設定されます。
ただし、障害の回復の見込みがないと判断された場合は、「永久固定」と称して、更新期間が設定されない場合もあります。
では、この「再認定」は、どれぐらい難しいのでしょうか。
「再認定」は、年金や障害の種類を問わず、90%以上が「支給」と判定されています。
つまり、新たに障害年金を受け取るのに比べると、支給率は高めです。
障害年金を受け取っている人の中には、「再認定」で支給が止まるのではないかと極端に恐れる人がいます。
もちろん、全員が再認定で支給が継続されるわけではありませんが、少なくとも9割以上の人は問題なく通過していることも覚えておいて良いでしょう。