後見人になっていない家族でも、認知機能が低下した人の口座のお金が使える新しい方針
認知機能の低下に対する新しい対応
銀行の業界団体である一般社団法人 全国銀行協会が「金融取引の代理等に関する考え方」を公開しています。
この「考え方」の特徴は、認知機能が低下した人の銀行口座の取り扱いについて、従来よりも柔軟な姿勢を明らかにしたことです。
具体的には、家族が成年後見制度を利用していない場合でも、認知機能が低下した人の銀行口座の、お金を使う道が開けました。
従来は、後見制度を利用していない場合は、本人の口座からお金を引き出すことができず、医療費や介護に関する費用などの出費に苦しむ例がみられました。
これが、大きく改善される可能性があります。
成年後見人でなくても口座から振り込みができる
今回の「金融取引の代理等に関する考え方」で注目されるのは、「無権代理人との取引」として分類されている分野です。
これは、「本人の認知判断機能が低下」しており、、成年後見などを利用していない「代理権の無い家族」が取引をするという状態です。
従来であれば、このような場合の取引は不可能でした。
しかし、今回の「考え方」では「極めて限定的な対応」としながらも、次のような場合は認められるとしています。
認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう、本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる。
つまり、口座の持ち主が入院中で、その費用を本人の口座から振り込むような場合は、「代理権のない家族」でも可能になったのです。
この場合でも、「払出し(振込)依頼」と明記しており、現金を引き出すのではなく、病院や介護施設など、用途が明確な口座への振り込みを想定していることが分かります。
なお、本人の認知能力が低下していることは、診断書や面談などで確認されます。
また、他に成年後見人がいる場合は、それ以外の家族が口座を操作することはできません。
思わぬ出費のために覚えておきたい制度
今回の「金融取引の代理等に関する考え方」は、全銀協の会員である銀行の参考となるよう取りまとめられたものであり、拘束力はありません。
つまり、あくまでもガイドラインであり、必ずしもすべての銀行で、代理権のない家族が認知機能が低下した家族の口座のお金を使えるようになったわけではありません。
状況によっては、断られる可能性もあります。
それでも、従来は、まったく可能性がなかった状況で、本人の口座からの振り込みが可能になったことには大きな意味があります。
思わぬ出費に苦しんでいる家族にとって、本人の銀行口座にあるお金が使えるようになるのは望ましいことです。
また、これによって、成年後見制度を利用する必要性が少なくなります。
成年後見制度には、不自由な金銭管理などの副作用もあることから、できれば使いたくないと考えていた人には望ましい傾向でしょう。
もし、家族が認知症などで認知機能が低下し、入院や入所などが避けられない状況になったときには、こういう制度があるということを覚えておいてください。